賑やか道中
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「あれー?万事屋の旦那じゃないですか。何してるんですこんな所で」
「私が保護したんです」
「やめてくんない、その家出した子ども捕まえましたみたいな言い方」
巡察を終えた山崎が銀時と緋村を屯所の門前で見かけたのは、ちょうど9時が回った頃だった。
格好を見る感じ、今日は非番の彼女が自主的に銀時の見送りに来たのだろうといった所だ。
保護、という表現が正しいのかどうか分からないが、酔っ払いを屯所につれてきたのだからあながち保護で間違いは無かったかもしれなかった。
「それじゃあ坂田さん、お気をつけて。お酒の飲みすぎはダメですよ」
「へいへい」
彼女と山崎に見送られ万事屋へ向かった銀時は、今朝の出来事をぼんやりと思い出す。
誤解されちゃいますよ、と言われてしまった。寧ろ貴女が誤解して下さい、と言ってやりたかった。
嫉妬深い女はいろいろ面倒臭いと聞くが、嫉妬されてないとそれはそれで虚しいものがある。腹を抱えて笑うあの小憎たらしい王子の笑い声が脳内に反響し、何ともいえない気分の悪さがあった。内蔵がグルルとうずまいているというか、食道を通って何かがこみ上げてきそうなのである。それを人は二日酔いと呼ぶ。
「天然ってどうやったら治んのかねー……」
途方のない悩みを呟いて晴れ渡った江戸の空を見上げる。ドッピーカンの青空ではあるが、気分は最高潮に悪い。何故なら二日酔いだからである。
朝の活気に溢れる道を歩いていれば、財布を屯所に忘れてきてしまった事に気づく。全てが自分の味方をしていない気がするのだから、こんな盛大なため息が出ても仕方ない。だが、不幸があれば幸もある。
「坂田さーん!忘れ物ですよー!」
いち早く忘れ物に気がついた緋村がわざわざ財布を持って来てくれたのだ。
「大事なもの忘れちゃダメじゃないですか。まだ酔っぱらってるんでしょう」
走ってきた彼女の頬はほんのりと赤く、無邪気に笑っている様子は勤務中の時と比べて随分幼いものだった。年齢も沖田より一つ二つ上なだけだと聞いた事がある。あの真っ黒な隊服を脱いだだけでこうも変化が出るとは驚きだった。
「ありがとな」
「いえいえ、では私はこれで失礼します」
わざわざ追いかけてくれた緋村があっさりと帰ろうとするが、それをこの男が許す筈もない。名字を呼んで振り向かせたのは、考えれば分かる流れだった。
「万事屋に来いよ。神楽が会いたがってる」
「え…?いやいや、そんな、お仕事の邪魔をしちゃうだけです」
「残念ながら仕事は無い」
「ホントに残念ですね。…あ、って事は今日は一日空いてますか?」
一日どころかほぼ毎日空いている現実は敢えて口に出さず、一度頷いてみれば彼女の口角が上がる。
「なら今日は一日私に付き合って下さい。皆から頼まれてる用事を済ませたいんです」
あ、でもこれって依頼っていう形で頼んだ方が言いのかな……って言うか付き合ってもらう程の用事かな…。
自分から言い出しておいて急に不安がるのが面白くて、銀時は敢えて口出しせず待っていた。用事の重要性などどうでも良い。
「そんな付き合ってもらう程の用事じゃないですけど、良いですか?」
確認の為にもう一度言うが、銀時にとって用事の重要性などどうでも良い。
「良いっつってんだろ。一晩泊めてもらった礼だ」
「荷物持ちとか頼んじゃうかもしれませんよ?」
「構わねぇよ」
「パシっちゃうかもしれませんよ?」
「それは嫌だな」
何ですかそれ、と彼女が隣で笑う。隊服ではなく袴姿の緋村と並んで歩く事は、銀時がすぐに思い出せる限りあの時以来だ。
夕焼け空の下、水面がきらきらと光る河川敷で偶然出会った事を彼女は覚えているだろうか。
取り敢えず沖田に頼まれている色々(規制をかけました)を買いに行くべく、緋村と銀時との買い物が始まった。今日ぐらいは平和に、何事もなく終われば良いと願いながら歩き出してはみたが、途中でお妙と出会ってしまう。もちろんすぐに銀時の背中へ彼女は隠れた。しかし挨拶は欠かさなかった。
「あら糸さんお久しぶりです。またお店で働いてくれる気になったんですね?」
「こんにちはって言っただけで、何でそうなるんですか!!」
「銀さん、後ろのその人を私に渡しなさい。報酬は最近家の近くに出来た甘味屋のイチオシみたらし団子でどうかしら」
「喜んで」
「酷いです坂田さん!」
みたらし団子に負けた緋村は、甘味にゆらいだ銀時に背をぐいぐい押され、あの忌まわしき体験をさせてくれたお妙に差しだされようとされる。
何故だろうか、お妙が微笑むとそれはそれは綺麗なのだが、緋村から見れば彼女の背景は可憐な花などではなく、雷渦巻く雷雲を携えた般若しか見えないのだ。
着た事のない様な綺麗な着物を着せられ、化粧もされ、髪の毛にも飾りをつけられ、酔っぱらいの中に放り投げられたあの出来事は中々のものだった、この前のホストクラブに潜入した時の方が彼女にとってはよっぽどやりやすかっただろう。
「裏切るんですか坂田さん!」
「あん?何でだよ」
「今日は一日私に付き合ってくれるって言ったじゃないですかぁ!」
「あ、そうだった」
「忘れてたんですか!?」
大和撫子姿を拝めなかった銀時にとって、またあの夜が舞い戻ってくるのはひじょうに楽しみ且つ嬉しいのだが、お妙に取られてしまっては折角の用事が済ませない。みたらし団子も捨てがたいがここは彼女を取った。
「悪ぃが大和撫子は今度貸し出すわ」
「あら、残念」
「じゃあこれで失礼しますさようなら!!!」
甲子園球児ばりの腰の折った挨拶をするや否や、緋村は銀時の腕を持って早歩きでお妙の横を通り過ぎていく。その様子をにこやかに手を振りながら二人を見送るお妙がぽつりと一言。
「貸し出し許可はてっきり真撰組にするものだと思ってたけど、銀さんの許可を取らないといけなかったのね」
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一難去った緋村は、沖田に頼まれていた色々(規制をかけました)は諦め(銀時に阻止され)、新調された刀を取りに行くという用事をまずは終えた。丁寧に布に包まれたそれを胸に抱いて歩く彼女の横で、銀時は隠れて欠伸をこぼした。
平和だ。とてつもなく平和だ。
次にマヨネーズをダンボール買い(1箱)して、スポーツ店でミントンのガットやシャトルを買って、雑貨屋で便せんを大量に買うなど、全く共通性の無い買い物を済ませていく。
「マヨネーズが多串君で、ミントンがジミーか?」
「え?あぁ、そうなんです。頼まれてたんで、一気に済ませちゃおうと思って…すいません、重いですよね……」
「いんや。これぐらいは大丈夫だ」
渡す相手が土方だ、と思えば思う程今すぐこのマヨネーズを何処かへ投げ捨てたい気がしたが、彼女が居る手前そんな事は出来ない。
それよりも彼女はこの膨大な量の荷物を1人で持つ気だったらしい。
