賑やか道中
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まず最初の違和感は匂いだった。万事屋とは違う畳の匂い。次の違和感は天井だった。次は布団の感触、そして部屋の広さ。とにかく全てが、ここは万事屋ではないという事を物語っていた。
重く感じる体をようやく起こし、自分の銀髪を何度かかく。その後に大きな欠伸を一つこぼす。起きた時にする癖を一通りして、取りあえず周りを見渡してみた。見た事のない部屋だが、昨日の経緯を思い出せば何となくここが何処であるかは分かる。
「………屯所か……?」
すると奥から一つの足音が聞こえ、銀時が眠っていた部屋の前で止まる。
「失礼します」
緋村の声だった。
「あ、良かった、起きてらっしゃったんですね」
「あ゛―……頭痛ェー……」
「二日酔いかもしれませんねぇ……お薬があるんで、朝ごはん食べた後に飲みましょう」
「……朝ごはん?」
「では布団を片づけさせて頂きます。さあ、洗面所で顔を洗ってきて下さい。…って言っても場所が分かんないですよね、ちょっと待ってて下さい」
隊服姿ではなく、藤色の袴姿の緋村がてきぱきと布団をたたみ「沖田たいちょー!!」と元気の良い声を出しながら部屋を出ていってしまった。
あれから銀時と土方は彼女にタクシーに詰め込まれ、まず屯所に着いて土方を隊士達に受け渡す。銀時は万事屋に連れて帰らなければという話になったのだが、あの階段を大の男1人背負って上がるのは少しきつい。沖田は「道に捨てときなせェ」等と言うが、流石にそれは出来なかった。
という事で、優しい彼女のお陰で屯所の客間を一晩だけ貸す事になったのだ。もちろん近藤の許可は取ってある。
しばらくすると沖田を連れて彼女が戻って来た。
「では隊長、坂田さんの屯所案内は任せました」
「何で俺なんでィ」
「まあまあ顔なじみじゃないですか。それじゃあ私は洗濯物まわしてくるんで後は頼みます!あっ、私の朝ごはんも取っておいて下さい!」
「へいへい」
至極面倒そうな声ではあったが緋村は満足そうに笑いこの場を離れていった。朝から非常に働き者の彼女を目の当たりにして、銀時はやる気が微塵も感じられない沖田をじーっと眺めるが、彼はどこ吹く風だ。
隊服を着ていても、サラサラの金髪にはぴょこぴょこと寝癖が出来ている。彼女も沖田も、外で見る顔とは少し違い、今更ながら何ともいえない違和感をまた感じ始めた。
「…取りあえず行きやしょうか」
そんなこんなで沖田に連れられ、銀時は部屋を出たのだった。庭では可愛らしい鳴き声で雀が数羽鳴いている、とてつもなく平和な朝だった。
元々鋭い目つきである土方の朝の顔は、寝不足が祟って目が細まり、更に鋭くなる。屯所内では見慣れたものだが、遠慮なく屯所の食堂で朝ごはんを食べていた部外者の銀時は開口一番「目つきわるっ!」と突っ込んだ。土方の目がもっともっと鋭くなる。
「幻覚か?何で天然パーマの妖精がこんな所に」
「やべぇ、まだ酔っ払ってんのかも……マヨネーズが歩いてるのが見えるわ」
「大丈夫でさァ旦那、この人は間違いなくマヨネーズですぜィ」
「違うわ!」
昨日の記憶が多少残っている土方は、何故銀時がここに居るかは分かっている。お人好しの彼女の性格にはそろそろ灸を据えなければと考えつつ、自分の朝ごはんを取りにカウンターへ向かう。
ちなみに彼女は女中の代わりに洗濯物を処理しているので、もうしばらくは戻ってこないと沖田は言う。
向かいあって座る沖田と銀時、そして少し離れた所に土方が座る。そこへ案外早く戻って来た彼女が食堂へ入り、沖田の隣へ座ってから土方へ声をかけた。
「副長もこっちで一緒に食べましょうよ」
「天使か、お前は天使なのか」
「あんな目つきの悪い奴にも優しい声をかけれるなんて…間違いありやせんぜィ旦那、こいつは天使でさァ」
「うるせーよそこのコンビ!!叩っ斬るぞ!!…緋村、気持ちはありがてーが俺の事は気にするな」
「そうですか……?」
「まあ食べなせェ」
「取ってて下さったんですねー、ありがとうございまーす!いただきまーす!」
殺伐な雰囲気を一切感じさせない朝の長閑な空気は、銀時が想像していたものとは大きくかけ離れていた。男だらけのむさ苦しいこの場所では彼女が良い具合にムードメーカーになっているらしい。沖田の隣に座りご飯を食べているだけで、不思議と場が華やいだ。豪快な食べっぷりは見て見ぬフリをするとして……。
大盛りのご飯を半分までたいらげた彼女は、右手に箸、左手に茶碗を持ったまま銀時に話しかける。
「後で万事屋さんに電話しますか?もしかしたら志村さん達が心配してるかもしれないですし…」
「いや、大丈夫だろ、朝帰りなんて別に今日が初めてじゃねぇし」
ただいまの時刻は8時。新八ならおそらく万事屋に来た頃だろう。酒の匂いをまとわせたまま9時に帰ったとしても、浴びせられる言葉はまず「また道端で寝てたんですか?」。最初の方こそ心配されていたが、今ではからっきしである。それぐらい新八達が銀時の扱いに慣れてきたのだ。
朝帰り、という言葉は使う人によっては色気を感じる言葉だが、あいにく緋村はそんな事は分からないし、銀時もそういった意味で言っていない。
が、お忘れかもしれないが、彼女の隣にはサディスティック星からきた王子様が座っているのだ。からかい対象を見つけた時にキラリと目が黒く光るが、その瞬間は2人からは見えなかった。
「朝帰りなんて破廉恥ですねィ旦那~」
「ふぁふぇんひ(破廉恥)?」
箸をくわえたまま彼女が首を傾げる。意味を察した銀時は、それはもう嫌そうに顔を歪めた。沖田は楽しそうに微笑んでいる。
「朝から糸の前で過激な発言はやめてもらって良いですかィ?」
「何が過激だコノヤロー」
「何処の女とそんな楽しく一夜を過ごしたんでさァ」
「公園のオッサンと飲み屋で酒飲んでたら朝が来ただけだ」
「オッサンと一夜ですかィ?そんなマニアックな…」
「ああ、そうだったんですか坂田さん」
「違うわ!!何なのこのS王子!ぶっ飛ばして良い!?ぶっ飛ばしちゃって良いかな!?」
いつもなら沖田の軽口もかわせるが、彼女が居るとどうも話がややこしい方向に向かうから敵わない。
そんな彼女はケタケタ笑う沖田の横で、額に青筋を浮かべて指を鳴らす銀時の事をじっと見つめていた。その視線に気付き彼の動きも止まる。
「坂田さん………好きな方は居らっしゃるんですか?」
「………は?」
思いがけない質問に沖田や銀時はもちろん、たまたま聞いてしまった土方の動きも止まる。
しばらく時が止まったが、すぐに動きだしたのは頭の回転が早い沖田、その後に土方だった。
まず左から沖田に首に腕をまわされる。
「気付きやしたかィ?実はね、居るらしいんでさァ」
「へぇー」
そして右からは移動してきた土方に肩を若干引き寄せられる。
「それなのに何処ぞと知らねぇ奴と一夜を過ごすってのは頂けねぇよなぁ?」
「うーん…」
「テメー等なぁ………!!!!」
楽しそうにニヤニヤ笑う幹部を前にそろそろ銀時が爆発しそうだった時、至って冷静な彼女だけはニコリと彼に笑いかけた。
「私応援するんで、頑張って下さいね!」
屯所の食堂に沖田の大爆笑が響き渡った。
「好きな方が居らっしゃるなら朝帰りだなんて事しちゃダメです!相手の方が心配されたり、誤解したりするかもしれないですよ」
「……………………………そーですね」
突っ込むのすら面倒になった銀時は白く燃え尽きた顔で大人しく座った。打ちのめされた某ボクサーの様な燃えっぷりに沖田はまた笑う。
ド天然の彼女の前では、実はドSと名高い銀時も中々力が発揮出来ない。寧ろ発揮出来る日などこれから来るのか甚だ謎である。ひとまず沖田の笑いは止まりそうになかった。
彼女は沖田が笑っている意味も気にせず、また隣の土方が「天然にはかなわねぇだろ」と言ってる意味も気にせず、怪訝そうに己を見てくる銀時を見つめ返す。口の端にご飯粒をつけている彼女が酷く可愛らしい。
「何で睨んでくるんですか」
「べっつにー」
この前の夜空の下で行われた口説き術の二の舞になっていた。伝わって欲しい訳ではないがどうしてこうも上手くいかないかは銀時自身謎だった。緋村糸という女を甘く見てはいけないな、と再認識し残っていた味噌汁をすする。
「大丈夫ですよ!坂田さんかっこ良いですし、自信持って下さい!!」
この前も私そう言ったじゃないですか。ニコリと笑って、何事も無かったかの様に彼女も味噌汁をすする。急な爆弾発言に思わずむせた銀時を見て、土方は改めて彼女の恐ろしさを知った。
「糸、アンタ天然タラシも大概にしておきなせェ」
ようやく笑いの止まった沖田の言葉に、保護者兼上司の土方は何度か頷いて煙草に火をつけたのであった。
