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しかし銀時にも1人ドジッ子専属のストーカーが居て、彼女から逃げようものなら確かに色々周りに被害が被る事が予想されるので、敢えては追及しなかった。それでもストーカーという単語は気になった。
「………で?」
「あ?」
「そのストーカーとやらは今は大丈夫なのかよ」
「ああ。緋村が見事な一本背負いを決め込んで、失神してる間に屯所の池に投げた」
彼女が勇ましい事は今に始まった事ではないので特に触れず、「屯所の池!?」とだけ銀時は突っ込んでおいた。
「屯所の池には、沖田印の餌を食べた大きな金魚達が居て…」
「いや、もう良い、話すな。なんか先を聞くのが怖い」
その後ストーカーがどうなったかは考えない様にして、銀時はもう一杯だけお茶のおかわりを頼んだ。彼女の話を聞いて妙に酔いが醒めてきたので、あと一杯ぐらい飲めば真っ直ぐ歩いて万事屋に帰れる様な気がしたのだ。それはあくまで気の話ではあるが。
少し温くなったお茶を土方が飲み干して、あまり引いていない赤らみを顔に残したまま銀時の方を向いた。急に、鋭い切れ長の目に捉えられて思わず肩をすくめた。
「そういや総悟から聞いたが…」
「……何だよ…」
「アイツが色々まいった時は世話になったらしいじゃねぇか」
「………あぁ、あの時か?」
恐らく「兄」の話だろうとすぐに分かった。身内が世話になったとして銀時相手に礼を言える程素直ではないが、彼がわざわざ口に出したという事は、それなりに感謝しているという事なのだ。
銀時自身、特に世話をした覚えはない。ただ自分の赴くまま行動した結果が今に繋がっているだけだった。
「結果オーライってやつだろ」
カウンターに肘をついた銀時がぼんやりと笑う。
「……まぁ、その事に関してとやかく言う事はねぇが…」
「ンだよ。まだ何かあんのか」
「お前ん所のチャイナ娘とこっちの無頓着娘が喧嘩した時に、アイツの鞘にヒビが入ったんだよ。保護者としてテメーが金払ってくれんだろうな」
「……………何だそれ?」
「知らねぇのかよ。…チッ…緋村の奴、しっかり万事屋から金貰っとけっつっといたのに…」
「と言うか金云々かんぬんより、神楽と喧嘩する根性に銀さん驚きだわ」
「仕事上仕方ない流れだったからな…」
あの後も説教をした覚えがあるが、終わった事なのでどうでも良かった。
銀時が覚えている範囲では、確か彼女が万事屋を訪れた事がつい最近あった。すると元気の無かった神楽も復活したのだ。きっとその事と、土方が話している喧嘩の事が一緒なのだろうという事が分かった。
「今度催促に行かせるからな」
「残念だったな。万事屋にゃ金は無ぇよ」
「お前が残念だよ」
「って事で今日は奢りという形でよろしくお願いします」
「誰がテメーなんかの分も払うかぁああ!!!」
急に態度を変えて「多串君~」と嘘泣きをする銀時に「多串じゃねぇ!」と的確にツッコミをいれる土方。
払ってくれるならどちらでも構わないので、今回ばかりは店主は口をはさまなかった。
その時、店の引き戸がガラガラと音を立てて開く。コントを繰り広げている2人は無視して、店主と女将が笑顔と元気の良い声で新しい客を出迎えたが、それは客では無かった。
「土方の旦那、娘さんが迎えにきてくれてますよ」
「あ?娘?」
カウンターに居る土方へ外の匂いをまとわせながら近づいてきたのは、ついさっきまで話のネタにされていた無頓着娘であった。
「あれ、坂田さんと一緒に飲んでたんですね?」
「んな訳あるか」
「なーんだ、思ってる程酔っ払って無いじゃないですか。1人でも帰ってこれたんじゃないですか~?」
「うっせ…」
「そう言ってやりなさんなお嬢さん。これでもだいぶ飲んだんだよ」
「そうなんですか……。…もうっ!せっかく私が代わりにお仕事するんで1人でゆっくりしてきて下さいって言ったのに、何で私を迎え役に選ぶんですか!まだ仕事終わってないんですからね」
「かーっ、口うるせぇ奴だな…」
「ほっといて下さい!私が会計しときますから、先に外に出といて下さい。ホラ、坂田さんも立って」
「何でだよ」
「そろそろ家に帰る時間です!ついでに会計も済ませちゃいますから。あ、言っておきますがツケは払わないですからね、今回の飲み代だけです」
「オイ緋村、こいつに金払う義理なんざねーだろ」
「それがあるんです。色々お世話になってるんでこれぐらい良いじゃないですか。ホーラ坂田さん!立って立って!」
腕を引かれて強制的に立たされたと思えば背を押されて外へ出される。数秒後に土方も押されて出てきた。
店内では彼女がちゃきちゃきと会計を済ませている。
少し肌寒い夜の空気に触れながら「優秀な部下だろ」と得意げな顔をしてくる土方に何となく腹が立ったので、銀時は1発だけ頭を殴っておいた。
「あ、副長に手を上げたら私が許しませんよ」
その場面を彼女に目撃されてしまい怒られたので、更に土方が得意げに笑い、口パクで「バーカ」と言っている。彼女が居なければ今すぐにでも殴り合いに発展させたい気持ちを何とかして抑え込む。
「ちなみに副長の分は後で請求しますからね。坂田さんは今回の分は結構です」
「おいおいこいつに払う義理なんかねーって」
「私に払わせて下さい。だから、これであの白玉代等もチャラでお願いしますね」
可愛らしい微笑みは反論を全く受け付けず、また銀時も酔いが回っている状態なので言葉が上手く出てこなかった。
「そろそろ行くぞ」
「あ、はい!では失礼します」
早く銀時から離れたい土方は、彼女の腕を持って屯所の方へグイグイ引っ張っていく。少しよろけながらも、手を上げてにこやかに挨拶をしてくれた彼女の手首を掴んだのはほぼ反射の様なものだった。
左腕を土方、右腕を銀時に掴まれた状態になってしまった。
「坂田さん?どうされました?」
「テメー何のつもりだコルァ。さっさと離しやがれ」
「いや~、実は銀さんそろそろ限界がきてて~、あ、駄目だこれ、吐くわ、1人で帰れねぇかも」
わざとらしく気だるそうに言って、口をおさえる。もちろん吐き気を抑える為ではなく、青筋が浮かんでいる土方の顔が面白いので笑みを隠す為に手を使っただけだった。
しかし彼女はそうとは知らず、純粋に心配をした。その純粋さを騙している様で流石の銀時も申し訳ないと思ったが、土方ばかりが彼女を取っている気がして無性に腹が立ったのだ。どこまでも勝手に張り合う2人に彼女はたまたま巻き込まれてしまった。
「大丈夫ですか?」
駆け寄ろうとした時に土方が強く腕を引いた、と思えば銀時も負けじと腕を引く。
「いたたたたたたた」
「痛いっつってんだろうが、早く離してやれよ」
「テメーがな。体調不良の市民を見捨てんのか」
「そうですよ副長。気分が悪い人を優先しないと」
「あ~駄目だ、俺も気分悪いわ」
「騙されるな緋村!これは演技だ!」
「お前もだろうがァァアア!!!」
別に気分も悪くなければ送ってもらう程歩行が不安定な訳ではない。
ただ何となく始まった彼女の取り合いは、どちらかが折れるまで終わりがこないのだ。
「分かった、俺がお前を送ってやる」
「お断りするわコノヤロー。取りあえずこいつを離せ」
「お前がな」
「いやお前だろ」
「だったら2人とも離して下さいよ!痛いですってば!」
両手に花ではないが、飲み屋の前で男2人に取り合われる彼女の心中は如何なものか。
「副長も坂田さんも離して下さいっ!」
「離してやれ銀髪」
「離してやれよニコチン」
「お前が離した3秒後に離してやらぁ、だから先に離せ」
「あ?何でテメーに指図されなきゃいけねーんだよ。お前が先に離せ」
「……~~っいい加減に……――!!!」
「お前が離せ、頼む。200円やるから」
「高給取りのくせに200円だけかゴルァ!」
1分程続いた不毛なやり取りは、やがて訪れる彼女の怒りによって終わりを迎えた。
「して下さいっっ!!!!」
掴まれた腕にありったけの力を込めて自分に引き寄せる。すると魚釣りの要領で2人が釣れて、その勢いのまま互いを頭からぶつけさせる。
彼女の一撃必殺の下、2人は額にどでかいタンコブを作り地面へと伏せた。腕も解放されて一件落着である。3人の行く末を見ていたギャラリーは、逞しい女隊士の活躍に小さな拍手を送った。
恐らく朝まで起きないであろう2人は地面に倒れたままにしておいて、彼女はにこやかな笑みを張りつけて再び店へと入った。
「すいませーん、やっぱり2人とも歩けないみたいでー」
「あー、沢山飲んでたからなぁ…。待ってな、タクシー呼んでやるから」
「お手数おかけします」
こうして、満月の夜は更けていったのだった。
