似たもの同士
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大きな満月が空にポッカリ浮いている肌寒い夜。
似た者同士の2人は引力に引き寄せられてか何かか、同じ居酒屋の暖簾をくぐり、そして同じく嫌そうに顔を歪めた。
「今日は俺がこの店で飲むんだ。お前はどっか別の店に行ってろ」
「嫌だね、俺はこの店で飲むって2日前から決めたんだよ」
「残念だったな。俺は3日前だ」
「間違えた俺は4日前だ」
「じゃあ俺は一週間前」
「俺は一カ月…」
「万事屋の旦那、土方の旦那、良いから早く入ってくれ。外の空気が店に流れ込んできて寒くてありゃしねぇ」
カウンターの奥で焼き鳥を美味しそうに焼いていた居酒屋の店主が声をかけた。
確かに小さな居酒屋の分、中の空気と外の空気はすぐに入れかわる。渋々閉めたのは土方だった。
「じゃあ俺はカウンターに座るから、テメーは地べたで飲んでろ」
「マヨネーズ喉に突っ込ませて窒息死させるぞ?」
「悪ぃな旦那方、今は隣同士のカウンターしか空いてねぇや」
「………」
「………」
喧嘩をことごとく店主に仲裁され、入ったからには出る気にもなれず、サービスするからという魅惑的な言葉に乗せられ似た者同士の2人は仕方なく座った。
皆楽しそうに酒を飲んでいるというのに、2人は互いに睨み合ったのを乾杯の合図として、店主の御心付けを一口で煽った。アルコール度数の高いそれだったが、空気にのまれ一気にいってしまったらしい。その瞬間頭にモヤがかった心地がしたが、見栄を張って「もう一杯!」と店主に声をかける。あまりにも同時過ぎて、奥から出てきた女将も笑っていた。
「馬鹿な旦那方ですねぇ」
まあ勝手にやりなせえ、と言いながら出された肴をつまみ、2杯目を先に飲みほしたのは銀時だった。本当は2日前も何も、適当に道を歩いていて目に入ったから足を向けただけであったが、隣に鬼が座るなら素直に帰りゃ良かったと露骨に舌打ちをもらした。
「今日は神楽が新八達の家に泊まりに行くっつーから、久しぶりに朝まで飲めると思ったのによーチキショー…」
「それはこっちの台詞だ。上司思いの部下のお陰で時間が空いたから、久しぶりに1人でゆっくり飲めた筈だったのに……」
こちらも露骨に舌打ちをする。対照的な様で、何から何まで似ている2人だった。
2人の間に特に会話はない。周りの声を聞きつつ、それとなく隣の酒のペースにも目をやりグラスを空けていけば、2人であっという間に1本のボトルを空にしてしまった。残念ながら「飲みすぎだよ」と注意をしてくれる人間など居酒屋には居ない。寧ろ「もっと飲め」と煽るちゃらんぽらんばかりだ。
だがそんな空気を好む銀時は、いつもより随分早いペースでまた酒を飲みほした。髪が銀色のせいか頬の赤らみがよく分かる。
一方、土方は土方で完全に銀時の気配を遮断する事によって1人の空間を作り出し、全ての肴にマヨネーズをかけながらグラスに口をつける。
その食べ方に慣れている店主は何も突っ込まないが、銀時はそうはいかなかった。パリパリに焼けた美味しい皮串が一瞬にして黄色い物体に飲み込まれる様を見て「味覚障害か」と顔を歪めた。
「せっかく親父が塩で美味しく味付けしてくれてんのによー」
「うるせーよ!お前こそ手元に置いてるそれは何だ!」
「あぁん?見りゃ分かんだろ、小豆だよ」
「そこを聞いてんじゃねぇよ!」
土方に指摘された通り、銀時は銀時でほぼ全ての料理に小豆少量をのせて美味しそうに食べていた。此方もかなりの味覚障害を持っているが、あまりにも美味しそうな顔をして食べるので店主も土方と同じく何も突っ込まない様にしていたのだ。
「冷ややっこに小豆のせるとかバカか。普通生姜とかだろ」
「ププ、遅れてますね。今の流行りは小豆をのせるんですよ鬼の副長」
お前頭大丈夫か、と切り捨てられたが、銀時は気にする様子もなくおでんの大根に器用に小豆をのせ、赤らんだ顔で美味しそうに食べた。お前顔真っ赤だぞと土方が茶化すが、自分も相当赤くなっているのには気づいていた。
そんな2人が小さな口喧嘩を、たまに殴り合いにも発展しそうになりながら飲み続ける事2時間。5本目のボトルを開けようとした銀時にまず異変が起きた。手に力が上手く入らず、世界がまるで揺れている様な感覚に襲われたのだ。言わずもがな只酔っているだけである。
そしてそれは土方然り、気がついたら2人ともぐにゃりとカウンターに突っ伏した。これが1人の時なら酷く御機嫌状態に突入なのだが、互いに顔を横に向ければいけ好かない人物が己を向いている光景に、酔っ払いながらもやはり舌打ちだ。
流石に飲みすぎた2人を見かね、もう帰った方が良いと店主が肩を揺さぶってきた。
そんな事は言われなくても重々分かっている。体と胃が重くて今すぐにでも帰りたくなってきたが、千鳥足のまま我が家へ辿り着ける自信は無かった。
「どうすんだぃ土方の旦那。沖田の坊主でも呼んでやろうか?」
「お断りだっての……俺が自分で宇宙船でも何でも呼んでやらぁ…」
「万事屋の旦那はタクシーを呼んでやろうか?」
「あ?泳いで万事屋まで帰ってやるよ」
酔っ払いと絡むのに慣れている店主は、意味不明な事を言う2人に対しても動じず「ハイハイ」と苦笑いで適当に流した。
時刻は0時。帰るにはちょうど良い時間帯だった。
銀時が酔い醒ましの熱いお茶をもらった時、土方はいじっていた携帯を閉じて懐にもどした。
「親父、俺にも茶ァくれ…」
「はいよ。迎えは来てくれそうかい?」
「おー。…俺んとこはコイツと違って優秀な部下が揃ってるもんでねぇ…ひっく…」
ベタにしゃっくりをしている土方が、ニヤニヤ笑いながら銀時の方を向く。酔っているせいか短気な性格が更に極められ、銀時は「ああ?」と睨んだ後にお気に入りの小豆を土方の茶へいれた。ほどよく大さじ1杯の量だった。
「何してくれとんじゃゴルァァア!!!」
「手元がすべったんだよ、文句あっか。第一お前ん所に優秀な部下が居るなんざ初耳だわ。危険人物だらけの間違いだろ」
「テメーの目は節穴か」
「お前よりかはマシですぅ。あのストーカーゴリラといいサディスト王子と良い超絶無頓着娘といいミントン野朗といい……普通の奴が1人も居ねぇじゃねぇか」
「近藤さんは部下じゃなくて俺の上司だ」
「“ストーカーゴリラ”って事を否定しなかったな今」
「あと、緋村の無頓着は今に始まった事じゃねぇよ。……周りの事にゃ敏感だが、自分の事になるとからっきしだ、痛みにも気持ちにも。そういう意味ではアイツが一番危険人物かもな」
つい最近も高天原の一件について雷を落としたばかりだ。
敵の陣地に乗り込む根性は認めてやりたいが、GPS付きのバッジを忘れるという凡ミスを犯されるとは思ってもいなかったので、最初はどうやって怒れば良いかも分からなかった。優秀な部下に違いはないのに、たまにとんでもない初歩的且つ恐ろしいミスを彼女は引き起こす。自分のミスは随分反省していたが、殺される間際であった事に関して何も危機感を持っていなかったので、腹が立って始末書を10枚分増やしたのは土方のみぞ知る。
彼女の兄が生きていたらきっと同じ様に怒り、同じ様に自分がどれだけ大切かを思い知らせる為に顛末書を増やすだろう。代わりではないが、土方に出来るのはそれぐらいしか無い。
「この前新聞に載ってたな。ありゃ何だ」
「新聞…?ああ、あれか…」
街の修繕費を絞り出す為に、会計が泣きながら真撰組の予算を弾きだす事態を招いたあの事件の事だった。
「しばらくストーカーに付きまとわれてて、そいつから逃げたらああなった」
「部下も対象にするとは、ゴリラも落ちぶれたもんだな…」
「近藤さんじゃねぇよ!!」
「お前今完全にゴリラ=近藤って等式立ててるよな!?」
常日頃から土方も近藤の事を「ゴリラみたいだ」と思っている事はどうでも良いとして、ストーカーに追われて街が壊れる等聞いた事もなかった。
