昼から夜へ
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歌舞伎町の賑やかさが朝焼けに消えて、ヒッソリと静まり返ったとある公園。秋独特の薄い朝霧がかかる中、欠伸を噛み殺しながら1人の人間が歩いてくる。
首元のネクタイは緩めており、ジャケットのボタンは開けられている。着崩れた様子からは微かに酒の匂いが残っていた。
この街をこんな格好で歩いても違和感が無いと言えば、所謂「ホスト」という職業なのかもしれない。顔色は良くない気がするが、澄んだ色の瞳や形の良い唇は部分的に見ても目の保養になる。つまりの所、ダルそうに歩いていても様になっていた。
「あー……頭ガンガンする……帰ったらさっさと酒抜こ……」
早速二日酔いに襲われているのか、固めてある髪をガシガシとかきながら人の気配のない公園を黙々と歩いていく。
するとその足元へ、何処から来たかも分からない可愛らしい子犬が飛び込んでくる。危うく蹴りそうになって、「うわっ」と軽く退いた。
「あっぶなー……もう少しで蹴る所だったぞー?」
しゃがみ込んでみれば人懐っこく膝に前足を置いてくるその愛くるしさ。思わず頭を撫でてやれば嬉しそうに尻尾を振っていた。
「可愛い……」
一瞬酒のツラさも忘れ、その顔からようやく笑みが零れた。
「君どこから来たの?首輪ついてるけど、飼い主と散歩してたんじゃ…?」
語りかけてみるものの、犬はワンと鳴くばかり。どうしたものか、と抱き上げて周りを見渡してみれば「メルちゃぁああん」という必死な声が近づいてくるのが分かった。
もしかして飼い主じゃ…?
その勘は当たったらしく、飼い主らしき男が息も絶え絶えにそのホストの前で止まった。膝に手を置き肩で息をしているその様子を見る所、どうやら必死に探していたらしい。
「駄目でしょ勝手に逃げちゃ」
抱いている子犬を優しく叱るが、嬉しそうに鼻を頬に摺り寄せてくるばかり。言っても通じないか、と苦笑いをこぼし、その犬を男の腕へと返す。
「すまんのぉ。ちょっと目ェ離した隙にこの様や」
「いいえ。お気になさらず。無事に見つかって良かったです」
「ほな、おおきに」
「失礼します」
すれ違い様、互いに軽く会釈をして去っていく。
仕事でやさぐれていた心を少し癒せたそのホストは、若干元気になったような表情で歌舞伎町から離れていったのだった。
**********
気持ちよさそうな寝息を立てて眠る人間を、恨めしそうに見下ろす隊士が1人。
「…起きて下さい隊長……」
「………」
「…ホントは起きてるんでしょう?そんな事分かってんですよ」
「………」
「……起、き、ろ!」
「後10分寝かせてくれィ母ちゃん…」
「隊長のお母様になった覚えはありません!」
威勢の良い声と共に、起こされ続けていた隊長こと沖田のかけ布団が剥がされた。一気に流れ込んでくる冷気に身を竦めている。
「ねみー……」
「眠いのは私も同じです!ほら、さっさと起きて!」
「もっと優しく起こせっての……」
早く顔洗ってきて下さい、と手拭いを沖田の顔にぶつけた後、フラフラした足取で部屋を出て行ってしまった。
朝食を食べに食堂へ向かう隊士達とすれ違いながら、込み上げてくる睡魔を何とか抑えて洗面所にまでやって来る。
どちらかと言えば夜型の沖田にとって、朝の目覚めを清々しく向かえた事はない。せっかく今朝は(一応)女である彼女に起こしてもらったが、あまり優しくないそれに機嫌は益々損なわれた。
「(そういやアイツ夜番だったっけか……)」
冷たい水のお陰でようやく目も覚めてくる。自分と同じく少々機嫌が良くなかったのは、夜の疲れをまだ引き摺っていたからなのだろう。
最近昼と夜の生活が逆転している彼女は顔色も機嫌も宜しくない。
食堂から離れた所にある彼女の部屋をソッと覗きに行ってみれば、寝てるものかと思ったのだがそこは蛻の殻。シャツ等は珍しく乱雑に放り投げられている。
「アイツどこに行きやがったんでィ…」
「あ、沖田さん。どうかしましたか?」
そこへたまたま通りかかった山崎が沖田に話しかける。
「糸のヤローがどこに行ったか知らねぇか?」
「糸ちゃんなら多分お湯に…」
「って山崎酒クサッ!アルコールくさっ!」
「あはは……任務が任務なんで仕方ないですよ」
「それ以上俺に近寄るな。酒臭さがうつる。せめて臭いを消してから来い。無に還れ山崎」
「それ遠まわしに死ねって言ってます!?…っ、どーせ今から風呂入る所でしたよ!風呂入って酒臭さも落としてきますよ!」
「ついでに人としての汚れも落としてきな」
「アンタどこまでも失礼だな!?それよりも、朝ごはんの後は朝議があるんでサボったりしないで下さいよ?」
「糸に起こしてもらうから大丈夫でさァ」
「あんたまだ寝る気か!?糸ちゃんは午前は非番ですよ。多分寝るんじゃないですかね…」
「マジでか。じゃあザキ頼んだ」
「俺は今からゆっっっくり風呂に入るんです。沖田さんを起こしてる暇なんてありません」
「一晩中酒飲んで遊んでた奴がゆっくり風呂に入るたァ……」
「だーかーらー、あれも任務の一環なんです!沖田隊長だって今晩俺と一緒でしょう?」
あー、あのタダ酒飲み放題のやつですかィ。違いますよ!
任務の意味が分かっているのか分かっていないのか、「タダ酒が飲める」と黒い笑みを浮かべている沖田に溜息を一つ。不毛な言葉のやり取りに疲れたのか、今晩はサボらないで下さいよ、と釘を刺しておいて浴場へと向かっていってしまった。
「…誰がサボるかっての。せっかくおもしれーもんが見れるのに」
そう言って沖田はニヤニヤと笑ったのだった。
