ゆびきった!
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ああ、畜生、困ったな。
こんな所で倒れてる場合じゃないのに。
(あと少しで、妹がくる所だったってのに!)
周りを巻き込まないように注意を払ったざまがこれかよ。かっこなんかつけるもんじゃないな。
やばいやばい、痛いどころか熱くなってきた。
どこを斬られたかも分かんねぇけど、脈がやたらと打ってるな……人間死ぬ手前はこんなもんか……。
お、でもいっちょ前に咳は出るぞ。
言葉は生憎出しにくいけど…。
(代わりといっては何だが血が口から出ている。人生で最初で最後の吐血ってやつだ)
これ本当に俺の腕なのか?
指先まで動かしてるつもりでも全く動いてないし……神経にもガタがきだしてんのかな……頼むから動いてくれよ。
糸を、迎えに行ってやらねーと。
アイツは兄の俺が言ったらなんだけど、俺が居ないと駄目なんだって。
寂しがりやで強情で、中々素直に甘えてくるような妹じゃないけど、今までずっと大事にしてきたのに。これからもそうやって、大事にしていけると思ったのに。
お兄ちゃんお兄ちゃんと俺の後ろばっかりつけ回して、意地悪心で物陰に隠れてやるとすぐに泣き出す奴なんだよ。
1人じゃきっと生きていけない。
泣きながら探して、観念した俺が自ら出て行けばぐしゃぐしゃの顔で嬉しそうに笑う奴なんだ。
お兄ちゃん
そう言って笑いかけてくれるんだけどなぁ。
悪いな、糸。
俺はもうお前と会う事は無理らしいよ。
だってほら、視界まで霞んできちまったし。
困ったな。
お兄ちゃん、お前を江戸に連れて来て一緒に暮らそうかなとか考えてたけど、夢のまた夢になっちゃったな、ごめんな。
糸、俺が死ねば、お前は江戸には来なくて良い。
ここにお前の知っている人間は1人も居ない。それならまだあのド田舎でノンビリ暮らす方が良い。お金の事は心配するな、ちゃんと貯めてあるから……って言っても、俺が死んだ後に役人がなにか悪さするかもしれないな……。
…
……そうだ!近藤さん達なら信用できる。あの組織になら、糸を任せられる。近藤さん達の下に居るなら江戸に居たって安心できる。良いか、糸、お前はまず真撰組の近藤局長に会いに行くんだ。そしたら、きっとあの人が何とかしてくれるよ。
………くそ、喋りたくても血ばっかり出るな……。
俺、もう少し生きたかったな……。
…あ!きみ!そこの君君!
大丈夫か?怪我なかったか?何とか俺が庇えたみたいだけど……良かった、怪我は無さそうだな……
(斬られた甲斐があったもんだ)
お?近づいてきてくれるのか?
ありがとう。
俺、いま血だらけで倒れてるけど、怖くないのか?
んー……小さい手だな。あ、こら!あんまり握ったら俺の血がつくぞ!……ってもうついてるし……。
どうした?何か言いたい事あるのか?なんだよ、そんなに泣きそうな顔しないでくれよ。せっかく助けてやったんだから、もっと嬉しそうな顔してくれねーと悲しいな。……ハハっ、大丈夫だって、痛くない痛くない。兄ちゃんはどっこも痛くないから、ほら、笑ってくれよ。
………そうだ。なあ、俺の伝言頼まれてくれるか?
お兄ちゃんには1人妹が居てな、そいつだけがこの世に対しての未練なんだ。
1人でほっておいても、アイツ大丈夫かな……。
剣道の腕は中々だけど、それ以外は変に疎くてな、それから平然と自分を犠牲にする奴なんだよ。
もう少し自分の事を考えれば良いのに、って思うぐらい相手を気遣うんだ。
心配だな、変な輩に引っ掛からねぇかな…。
だからさ、歳相応に生きて欲しいんだ。自分のやりたい事我慢しないで、たまには我が侭に生きてもバチなんかあたらねぇんだから、とにかく大きくなる事に焦らなくて良い。失敗したって構わないから、無理して大きくなるな。
お前は、お前のペースを守るんだ。
良いな?糸。
(って言ってもこんな小さい子に長い伝言は頼めそうにないし……)
短くまとめられるとすれば……、……"いそいでおおきくなるな"かな…。
さて、頑張れよ俺。
血ぃばっか口から流してないで、ちゃんとこれを言葉にしてこの子に伝えろよ。じゃないと糸にも届かない。
人生で最後の声だ。
(頼むから、出てくれよ!)
…。
……。
お、ちゃんと出たかな?
それよかこの子に伝わっただろうか?
ごめんな、こんな頼み事して。でも兄ちゃんな、その妹の事だけが心残りなんだ。心配で心配で仕方ないんだよ。
君が大きくなって1人でおつかいに行けるぐらいになったら、俺の妹に会いに行ってやってくれ。
ありがとう、ずっと手を握っててくれて。
……そろそろ瞼が重いな。
もう目を閉じても良いかな。
近藤さん、頼むよ、必ず糸の事を見つけてやって、真撰組に置いてくれ。松平様にもそう頼んでくれ。
そうなりゃ俺だって安心して成仏できるからさ。
糸、俺はいつまでもお前の兄ちゃんだから、その事だけは忘れずに生きてくれ。
お前みたいな妹をもった事、俺は凄く誇らしく思ってるから。
(恥ずかしくて面と向かっては言えなかったけど)
おやすみ。
俺は少し、眠っとくから。
お前は俺の分まで世界を見るんだ。
そうだな、案外糸は泣き虫な部分があるから、俺の墓の前でメソメソ泣く日が続くかもしれないな……。
泣いたら、俺だって悲しくなるだろ。
だから、せめて1人で泣くな。
お前の隣に誰か居るのなら好きなだけ泣いていい。1人で居る孤独に慣れちゃ駄目だ。
もしお前が俺の死を受け止めて、吹っ切れたように微笑んでくれた時は、俺が声をかけてあげるよ。
また、おいで
今度から笑って会いに来てくれれば、それだけで俺は充分だから。
おやすみ糸。
また会う日まで。
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