嘘ついたら針千本のーます
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「あー探しましたよ沖田隊長ー」
暗くなってきた道中でそんな声が聞こえる。いつもよりかは元気は無いものの、普段と変わらぬその台詞に沖田が少し安心したなど、言った張本人は知りもしないだろう。
「またフラフラとー…」
「へいへいっと」
「携帯に連絡ぐらいして下さいよ。敵に襲われたんじゃないかと思って心配するじゃないですか」
「俺がそんなヘマする訳無いでさァ」
「一度痛い目みれば良いんだ」
「あぁ?」
「ちょ、二人共!何でそんな喧嘩腰なんですか!!」
山崎が居なければ小さな乱闘でも発展しそうな雰囲気に、彼はやれやれと息を吐いた。緋村の調子が少しずつだが戻り始めて来ている。沖田もそれを感じ取ったのか、ぶっきらぼうではあるが彼女の頭をガシガシと撫でた。
「あ゛ー何するんですかー」
「別にィ。あ、そうそう、旦那がアンタの事を結構心配してやしたぜィ」
「(そりゃそうだろな…)」
「…何でここで急に坂田さんの話が出て来るんですか……と言うか隊長最近よく彼の話を出してきますね。何考えてんですか」
「なんも考えてねーよ。只"心配してた"って事を言っただけでさァ」
3人での帰り道、出てきた銀時の名に彼女は顔を落とした。どうせなら今日中に昼間での出来事を謝りたいと思ったのだ。自分の暴走を止めてもらったというのに、イライラに任せて声を荒げてしまった。それは止めてもらった人間へ向ける態度では無い。
「…怒って、ましたか?」
「特に何も。あの人はいつものまんまでさァ」
「今までずっと居たんですか?」
「まっさか。こんな時間まで話す事なんざねーよ。……まぁあの後少しは話しやしたが、何か依頼が入ったみたいでねィ」
「ホントに仕事を選ばない人だよねー旦那って」
「…そうですね」
沖田と山崎に挟まれて歩く彼女はそんな気の抜けた返事を返す。端を歩いている二人は気付かれぬように視線を合わせ、何か他に話題は無いのか、と互いに無茶振りをしていた。
オイ何か喋れ。
はぁ!?無理ですよ!沖田隊長が喋って下さいよ!!
そんな二人の声が今にも聞こえてきそうである。
彼女はそんな彼等に気付いているのか、チラリと視線を動かしてはぁ…とあからさまなため息を一つ。
「気をつかわんで下さい」
そしてキッパリと言い捨てて、ケンケンパをしながら二人より数歩前を歩いていく。
片足、片足、両足。
そんな規則的な動きをしながら、少し離れた所で振り返る。いつもの笑顔だ。
「私なら大丈夫ですよ。今日はちょっと苛々して取り乱しちゃっただけで……。そうですね、あいつが出所するってのは何処か納得出来ませんが、私1人が泣いたり喚いたりしても意味はないんです。それぐらいは分かってます。だから、気をつかわんで下さい」
私はもう大丈夫。
最後にそれだけ言って、腕と背中の筋を伸ばしながらスタスタと歩いていく。そうなれば置いてかれるのは沖田達であった。
彼女が角を曲がり姿が見えなくなったところで、腑に落ちないような顔をして「可愛くねぇ」と先に言葉を発したのは上司の沖田だった。頭をガシガシかきながらようやく歩き出す。それに遅れて山崎も歩き出した。
「なーにが分かってるだ。アイツはなんも分かってねぇっつの」
「……命日は仕事休むんですかね?」
「いや……」
「働くんですか!?」
「アイツの性格上そうに決まってらァ。わざわざ頼んでまで休みを取るような奴じゃねぇし……」
「それはそうですけど…。……あの人を殺した犯人が出所するのって…」
「命日の翌日。皮肉にもその日がアイツの非番なんでさァ。……どうすんのかねィ」
「どーするもこーするもないでしょう」
「俺ァそいつと糸とを会わす気はない」
「ですね。……でも結局は糸ちゃん次第ですし」
「…そうだな…」
ここで男二人が頭を悩ませて考えたとて、全ては彼女が決めること。そう思えばこのやり取りはとても不毛に思えるが、それ程彼女が想われているというのが分かる。
慕っていた兄を殺されて、絶望の淵に追いやられていた彼女を沖田は知っている。知っているだけに、彼女の強さを信じてほっておく事は出来なかった。
それなら、何故銀時に話したのだろうか。
それは沖田自身も不思議でたまらなかった。
彼女への好意の熱意に負けたといったらこっぱずかしいし、そもそも銀時に熱意は持ち合わせない。だが有無を言わせぬあの雰囲気に、知らず知らず頼っていたのかもしれない。それは、今、彼等が「彼女は大丈夫だろうか」と純粋に考えていた悩みを銀時に話して、もしかしたら何とかしてくれるかもしれない、彼女を癒してくれる存在になるかもしれない。そんな淡い希望を抱いていたのか…。
彼女は沖田達よりずっと先に屯所へ戻っていて、玄関へ入るや否や近藤の暑苦しい抱擁にわーわー叫んでいた。
「遅いから心配したでしょうがアァア!!!」
「貴方は私の母親ですか!!?ちょ、局長!暑苦しい!そして苦しい!!!」
容赦ない彼女のアッパーによって一体のゴリラの死体が出来上がったが、沖田は平然と屯所に上がり「さー飯だー」と言ってその場を去っていく。
「糸ー行くぜィー」
「はい」
取り残された山崎としては「え、これ俺が処理すんの」とようやく損な役回りに立たされた事を理解する。
見事なまでな拳にやられたその彼を、何とか引き摺りながら山崎も玄関を離れていく。
「きょくちょ……!!重いっス……!!!」
「……糸は」
「はいー……!!?」
意識を取り戻した近藤は淡々と話し出すが、巨体を引き摺っている山崎としては言葉を一つ一つ返していくにも必死そのもの。
「きっと寂しいよな」
「………」
「……あの子、俺に言ったんだ。"いつでも会いに行けるのに"って。本当に無意識な言葉だったんだろうなー……」
「……」
「俺局長なのにほんっとデリカシーない言葉いっちゃったかもなーやっちゃったなー」
眉をハの字に曲げて落ち込んでいる近藤を相変わらずズルズル引っ張りながら、山崎はすっかり暗くなった空を見上げた。食堂の隊士達のざわめきが何処か遠くに聞こえるこの空間で、少しだけ彼女を知れた心地であった。
「糸ちゃんは、本当に良い子なんですねぇ」
「ん?」
「だって、こんなにも男前な上司にここまで想われてるんですよ?きっと俺が思ってる以上に良い子なんですね」
「そりゃぁなー」
ここの隊士になった頃は今の彼女と比べ物にならないぐらいツンツンした態度だったが、それがいつの間にか和らぎ、陽だまりのような暖かさを持つようになった。
それが彼女のもつ本来の暖かさだったのか、それとも真撰組の影響なのかは分からない。
だが、ここに来た事は間違いではなかった。
例え入隊理由が物騒だったにしろ、"今"の彼女が居る事だけで充分だった。
「きっとまだ寂しいとは思ってるんだろーなァ……」
「それを吐き出せる場所を作ってあげれば良いんですよ」
「そう簡単にいくかぁ?」
「案外万事屋の旦那に先越されちゃったりしてね」
「?銀時がかぁ?」
仮の話ですよ。山崎はそう付け足して小さく笑った。