カリソメ夜 4
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土方から返してもらった刀をしっかり腰にさし、駆け足で彼女はふんどし仮面が引き渡された場所へとやってきた。警察手帳を見せて自分の身分を証明させて、ようやくふんどし仮面とご対面となる。まだ刑務所のような場所では無いので、透明なプラスチック板が2人を隔てている訳では無く、未だにブリーフ姿のままの奴さんと机を挟み向き合った。
「手短に話します。あんたさっき自分の無実を言う為に言いましたね?ブサイクの下着は盗まないだとか何とか…」
「…」
「彼女たちへの謝罪は後日として、何で、被害者女性の顔を知ってるの?どこかで会ったの?」
「会うも何も…」
「会うも何も………何」
「テレビで数人普通に出てるぞ」
「……マジで?」
その言葉を聞いて急に力が抜けてくるように感じた緋村は、あっさりとした答えに少し落胆した。何か繋がりが見えてくるのかと思ったのだ。しかしそれはメディアを介してであり、となるとそれを見た民間人は全員知っているという事になる。ここ数日忙しくてテレビを見れていなかった屯所は、その事に一切気が付いていなかったのだ。
「テレビに………でも何でテレビなんかに…?」
「そんなものテレビを見れば分かるだろう」
「あ?」
知ったような口を聞くふんどし仮面へ、土方に似た鋭い目つきを投げかける彼女。ついでに、こいつが自分の下着を盗んだんだ、という怒りも再び出てきてしまっていた。
「フハハハハ!!真撰組も下着泥棒に手を焼かれるようじゃ落ちぶれたものよのぉ!」
それをいい終えた瞬間、この狭い部屋から「ゴツン!!!!」という痛々しい音を外で待っていた役人が聞き取った。しばらく沈黙が続いたがドアががちゃりと開いて、中から緋村とふんどし仮面が出てくる。しかしどうもおかしいのは、ふんどし仮面が白目を向いて座っていて、その頭上はたんこぶが出来上がっており異様に腫れ上がっていた。それを見た役人は「ん?」とその怪我をマジマジと見上げた。
「何か?」
「いや……こんな怪我こいつにありましたっけ?」
「ありましたありました」
「……や、無かったですよ」
「ありました」
「無かったです」
「ありました」
「無かったで…」
「ありました」
「無かっ…」
「あ り ま し た」
笑顔でゴリ押しされているのだが、その顔が何とも言えず怖いのは、黙ってろこれ以上聞いてくるな、というオーラを出しているからなのだろうか?
「それじゃ、後はよろしくお願いしまーす」
彼女がスッとふんどし仮面の後ろから離れた途端、どさりと崩れ落ちる奴さん。どうやら気絶していた奴さんを緋村が無理矢理触らせていたらしい。
「……やっぱ真撰組ってチンピラだな……」
どこか上ずった声で呟いた役人だったが、本人は至って気にしない様子で役所を出ていた。屯所に帰るまでの道のり、頭を埋め尽くすのはテレビについてだった。
「(自分の下着が盗まれたってなったら、普通テレビに顔なんか出したくないわよね……)」
ごく一般論ならそうなのかもしれない。しかしそんな思いは、通りかかった電気屋の前に飾ってある数台のテレビ放映を見て、見事にぶち壊される事となる。コメンテーターが数人並んで座っているワイドショーだった。そこで、マシンガンのようにひっきりなしに話しているのは一人の天人だった。
「あれ……この天人……」
どこか見た事のある顔に彼女は思わずテレビに近づくと、中から急いで店主が出てきた。その人の顔を見て緋村は軽く頭を下げた。この前、沖田がテレビを一台破壊した電気屋だったのだ。また壊されると思って出てきたらしかったが、居るのは緋村一人と安心したのか「また来たのかい…」と呟いただけであった。
「あの……これ……」
「あ、あぁ、コレね。被害にあった人が吠えてるんだよ」
「被害?」
「真撰組がいま一番苦しんでる事件だよ」
「……あ!じゃあこれが奴が言ってたのか……」
「奴?」
「え?あ、何でもありません!」
今度は壊さないでくれよー、とだけ言ってから店主は店内へと戻って行った。苦笑いを浮かべながらも彼女はまた視線をテレビに戻す。町の音に紛れないように集中してテレビの音だけに耳をすませると、聞こえてくるわ聞こえてくるわ、尽きない真撰組への批判に彼女の頬も引き攣ってくる。
「(何ともまぁ逞しい女性だこと……)」
この心情は緋村なりの褒め言葉であった。自分の下着を盗まれるという恥ずかしい被害を受けたにも関わらず、真撰組への機能についてここまで口出し出来ているのだ。落ち込む暇などは無かったのだろうか、と緋村は考える。しかし、これ以上聞いてても同じだろうと思い、また足を進め出した彼女は通り過ぎた人物にふと足を止めた。つい先程見た事のあるような顔だったのだ。
「(あの人……)」
それはもう脳内を掠る程度にしかない記憶だったかもしれないが、彼女は小走りでその人物を追いかけ、失礼ながらも後ろからその腕を取った。振り返ったのは着物を着ているが人ではなく、天人であった。
「しんせんぐみ…」
「あ、どうも…初めまして、緋村と申します」
まさに、額から触覚が出ているように見える人間では有り得ない風貌であるその天人は、緋村がさっき見たばかりの書類に写っている人物であった。この触覚が何よりの証拠である。
「こんにちは」
「……」
「……あの、少しお話を伺っても?」
「良いわよ。こっちは話したい事がいっぱいあんのよ!!」
どこか気の強そうな声で言い張るその天人に、緋村にしては珍しく退き気味の気持ちだった。どうせ文句ばかり言われるのだろうと思いきや、その通りであった。つらつらと出てくる言葉は全てが真撰組への批判であり、だからこそ彼女は退け気味に、それでも冷静に考えた。
「(やっぱりこの人たちは真撰組に具体的な批判をしてこない…)……」
「ちょっと!!聞いてんの!!??」
天人が大声を出した事により、周りの注目を集めてしまったのか、幾つもの視線が自分を見ているのは緋村には分かった。しかし何事もないように微笑む。
「はい、ちゃぁんと聞いてます。貴女の御考えはよく分かりました。心に刻み、是非とも解決への励みと戒めにしておきますね」
流れるような口調で受け流し、笑みを見せた後、お時間取らせました、と最後に付け足してから緋村は駆け足で屯所へと帰っていった。それを見た天人は彼女の態度が癪にさわったのか、女性らしかぬ舌打を一度してから人の流れへと戻っていく。足取軽く門を抜けた緋村は、まず最初に見送ってくれた山崎の下へと向かった。
山崎君!!大きな声を出しながら監察の部屋に飛び込めば、そこで待っていたのは呑気に饅頭を食っている沖田と山崎の姿だった。いつもなら「沖田隊長!こんな所で油売ってないで仕事して下さい!」と一喝ぐらい入れるのだが、気分が高まっているのかそれさえもせず、肩で息をしながらとある事を聞いた。
「あ、あの、被害者女性の書類って、どこに、ありましたっけ!」
「え?……糸ちゃんの部屋じゃないの?」
「あ!そっか!」
ドタタタタと盛大に足音をたてながら自室に向かう緋村に、沖田が「足音うるさすぎ」と突っ込んだ。
「でも、何か喜んでる風じゃありませんでした?分かった事でもあったんスかね…」
「さあねィ。………ちょっと俺行ってみらァ」
ごちそーさんでした、と言って立ち上がり、ちゃっかり残りの饅頭一個をポケットに入れて歩き出した沖田は緋村の部屋をめざし、遠慮なしにそこへ上がりこんだ。中では資料を見つめている彼女の姿があった。何も言われないので取敢えず適当に腰を下ろすと、書類を見たまま「沖田隊長」と彼女が呼んだ。
「何でィ」
「沖田隊長の知り合いの天人とか居ないですよね?」
「天人の知り合い…?」
「出来れば女性が良いんですけど……」
「悪ィけど俺にはいねぇや」
「ですよねー…」
「…何で急に」
「……」
ようやく目線を上げて自分を見た緋村に、沖田は何度か瞬きして答えを待った。
「もしかしたら事件解決しちゃったりして」
「はあ?何がでィ」
「今ですね、女の勘が、フルに働いてる訳ですよ」
「女の勘!!??」
その言葉に沖田はブフッと遠慮なくふきだし、そして腹を抱えて笑い出した。
「お前の口から"女の勘"っつー言葉が出てくるとは思わなかったぜィ!!!ひひっ、女、の勘ねィ……」
どこか引き笑いをして苦しそうなのだが、笑っている本人は心底おかしくて笑っているのである。
「沖田隊長のバカ!!!!!」
いくら鈍感な緋村といえど、今まさに自分がバカにされているという事ぐらいは分かったので、束ねた資料を机にたたきつけてから立ち上り部屋を出て行く。それを勿論沖田は追いかけた。
「いーっひっひ……どこに行くんでィ糸」
「局長達の所です!ついて来ないで下さい!」
「あー、そんな怒んなって。可愛い顔が台無しでィ」
「笑いをこらえながら言われても嬉しくも何ともありません!」
まだ腹を抱えている沖田を嫌々後ろに引き連れている緋村はまず局長室に入ったがそこには誰も居らず、「また例の女性の所か……」と呆れ呟いたが、気を持ち直して土方の部屋を目指した。そこにはちゃんと仕事をしている土方の姿があった。
「土方副長!」
「緋村ー……お前は何回ここに来たら気が済むんだよ…」
「この事件が解決するまでです!」
簡潔に言い切った部下に、そりゃそうだ、と納得しながらもまた彼女を部屋に通した。何故かその背後では目尻を拭っている沖田の姿があった。
「オイ、何でこの餓鬼んちょは泣いてんだ?」
「糸に泣かされたんでさァ」
「マジでか。やるな緋村」
「沖田隊長は只の笑い泣きです!!もう!副長と話が終わるまで隊長は外に居てて下さい!」
ぐいぐい背中を押された沖田は抵抗する事なく廊下へと締め出された。
「はあ……。ほんっとにあの隊長は…」
「ご苦労さん。…で、用件は何だ」
短くなった煙草を灰皿におさめ、土方は近くに座った緋村に目を向けた。心なしか、土方を見ている緋村の目は真っ直ぐとしていて、何か解決への道が開けたのかと思い彼もどことなく発言に期待してしまう。縁側に座っている沖田が暇そうに欠伸をした時、彼女は口を開いた。
「この事件、犯人は数人かもしれません」
「は……はぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!???」
土方の叫びに、庭におりていた雀達は一斉に飛び去って行った。
「しかも、全員女かもしれません」
「ちょ、おま…っ、何言って…」
「で、土方副長のお知り合いで女性の天人は居らっしゃいませんか?」
「はっ!!!!???」
展開に全くついていけてない土方を助けたのは、さっきまで呑気に笑っていた沖田であった。スパンと障子を開けて、もう一つ欠伸をかましてから「一人だけ、心当たりが居るのを思い出したぜィ」と言った。事件解決への手ごたえをようやく掴んだのか、緋村がよっしゃと意気込み沖田に向けてガッツポーズを作った。それから、その場に座ったまま嬉しそうにバンザーイと言って両腕を上げた。沖田もそれを真似して、いつもの緩いテンションのままバンザイをやった。こういう時は変に仲の良い2人に感化され、土方も訳が分からずとも落ち着いたハスキーボイスで軽くバンザイをやってのけたのだった。
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