カリソメ夜 4
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怪盗ふんどし仮面捕獲。
そんな連絡が入ったのは、緋村が先程見回りに出て一時間後の話であった。その時土方は(スナックから)帰ってきた近藤と今後の隊士の配置について話し合っていた。宣言通り糸が捕まえてたりしてなぁ。そう言って近藤は笑っていた。彼女がふんどし仮面の所行について怒っているのはどことなく知っているし、捕まえたいと言い張っていたのはよく聞いた言葉であった。
しかしながら土方はその報を素直には喜べない。奴が捕まったことは勿論良い事である。少なからず何かの情報を得る事は出来るだろう。ただ、捕まえた人物が緋村であるならば、あの相当な怒りを近藤以上に知っていて、また身を以って分かっているので、今の表情はとても微妙なものであった。
「トシ、どうした?」
「いやぁ………あいつ等いつ帰ってくるかな……」
「連絡受けて結構時間経ってるし……もうそろそろ帰ってくる筈じゃ……」
その直後、玄関の方からわっと声が上がったのが2人が居る部屋まで聞こえてきた。
「お、丁度帰ってきたみたいだぞ」
隊士たちが声を上げたのか、夜とは思えぬほどの声が聞こえてくる。それは奴さんを捕まえる事が出来た歓喜なのか?それとも働いた仲間を称える歓声?……いいや、絶対に違う。と土方は首を軽く横に振った。何の迷いも無く否定出来たのは、声を上げていた対象が知り尽くしている隊士たちだからこそ。本来やるべき仕事ではない、という気持ちを持ちながらあたっているこの事件に対し、奴さんが捕まったといって彼等が歓声を上げる筈も無かった。報酬が出るならまだしも、特別なものが彼等に支給される訳は無い。それなのに隊士たちが喜ぶなんて…。
「?玄関の方かなり盛り上がってるな?」
「………何か悲鳴とか聞こえねぇ?」
「……言われて見れば確かに」
最初の方はそれこそ"歓喜"だろうと無理矢理思いたかった土方だが、聞こえてくる声に急に現実に引き戻された。ワー、と聞こえていた声はよくよく聞いてみると、ギャー、だとか、キャー、とか絶叫に似た悲鳴に変わりだしたのだ。こうなってしまっては仕方が無い、と土方は刀を持って立ち上がった。
「どっか行くのか?」
「おぉ、玄関の方に」
「刀持って?」
「多分緋村が奴さん相手に暴挙かまそうとしてんだろ。それを止めるには刀しかねぇ」
「何サラリと怖い事言ってんのオォォォォオ!!!??」
足にまとわりついてくる近藤を一蹴してから、土方は悲鳴が絶えない玄関へと向かう。彼が想像していた通り、抜き身を持った緋村が据わった目で怪盗ふんどし仮面を睨み付けていて、隊士たちは自分の背中で奴さんを隠すようにして彼女を落ち着かせようとしていた。辺りには既に数人の隊士の屍が転がっている。きっと止めようとして犠牲になったのだろう。土方から見て、今回の事件の犯人とも思われる人物を隊士たちが守っているとも見れるこの状況は、何とも不思議なものであった。
「緋村、落ち着け」
「土方副長……すみません、あと少しで終わります。数秒あれば奴の右腕ぐらいは落とせますから」
やめるんだ緋村!!と周りが冷や汗を出しながら宥める中、何故か土方の後ろからひょっこり姿を現した沖田。ちゃっかしラフな格好に着替えていた。
「土方さん、このまま糸を事情聴取に行かせてやったらどうですかィ?それでこの場はお開きにさせやしょう」
「はぁ?今から事情聴取?」
疲労が一気に押し寄せてくる夜に何を言いだすかと思えば、と言いたげに土方は眉間に皺を寄せた。緋村の耳もピクリと反応する。
「ここで奴さん斬られるよりマシでしょうよ」
「そりゃそうだが……」
「元からコイツの話は私が聞くつもりです。勿論2人っきりにさせてくれますよね」
「誰がするかアァァァ!!!お前間違いなくコイツを斬るだろうが!!!俺も加わるっつんだよ!!」
「斬るんじゃありません、削ぎ落としていくんです」
「余計にさせるかァ!!!取敢えずお前は少し落ち着け。私情を挟みすぎだ!」
「私情……そうですね。公務員ともあろう人間のする行いじゃありませんよね」
反省反省、と自分の頭を軽く叩きながら緋村はやっと刀を鞘へと戻した。その行いを見て隊士たちもホッとしたのか、息を吐く声がチラホラと上がったのが土方には分かった。
「ったく……今日はもう遅い。奴さんは別部屋に拘置、話は明日聞くぞ。総悟、テメーがつれてけ」
「へいへいっと」
ようやく夜らしい静寂と落ち着きが戻ってくる。緋村は解散しだした一人の一番隊士に声をかけた。
「ねえ、拘置所の鍵と、介錯用の鋭い刀を持ってきて。あ、男の首でも簡単に落とせるような鋭いやつね」
「総悟オォォォオ!!!ついでに緋村も部屋に閉じ込めとけ!!!今日は絶対に出さすなよ!!!!」
そんな土方の叫びを最後に、屯所はようやく静かな夜を迎えた。
そうして次の日、隠し切れない殺気を滲ませている緋村を連れて、土方は怪盗ふんどし仮面の事情聴取に臨んだ。記録係りは山崎が受け持った。奴さんは顔の褌は取ったものの、未だにブリーフという格好なので異色ともいえる雰囲気の中それは始まった。まずは初めに、土方に刀を取られた緋村が口を開いた。
「私の下着を返しなさい」
「フン、そんなもん男共に渡したわ」
「斬る!!!!!!」
襲いかかろうとした緋村を思わず山崎が止めて、机越しに座っている土方は煙草を吸いながら軽く頭を傾けた。こうも冷静でいられるのは既に彼女の刀を奪っているからであろう。
「渡した…?つってもここ数日テメェの動きは無かった筈じゃ…」
「そうだ。捕まったら一貫の終わりと思って、毎晩、ばら撒くんじゃなくて一人ずつ家をあたって地道に手渡していった」
「地味だなオイ!!!!しかも何か気持ち悪ィ絵図しか想像出来ねぇんだけど!!!!」
「その隊士の下着も勿論手渡しに…」
「あーあーあーあー!!!口になんか出さなくて良い!!気持ち悪い!!副長、これはもう切腹しかありませんよね。SEPPUKU!!!」
「何で英語口調なんだよ。……いや、まぁ落ち着け。まだ何の情報も掴めてねぇ。シバクにはまだ早い」
まだ長かった煙草を灰皿に押し付け、白い息を吐いてからふんどし仮面を見据えた。その目つきは真剣そのもの。そりゃそうである。もしかしたら今回の事件が全てコイツの犯行であるとしたら、ココでめでたく犯人逮捕、事件解決、事はとんとん拍子に進んでいく。しかしながらふんどし仮面が言った言葉は事件解決への兆しでは無かった。
「犯人は俺じゃあ無い」
その言葉に緋村もようやく大人しくなった。その言葉を信じる訳では無いが、どうにも嘘をついているようには聞こえなかったのだ。
「犯人は俺じゃねぇだぁ?みんなそう言って逃げようとすんだよ」
「手口こそ最近の俺に似たようなものの…」
「あんた最近そうやって下着泥棒してるの!!?最低!!!斬る!!!あ、刀取られたんだった」
「話を最後まで聞け小娘」
「黙れ変態」
「オイ話続けろ。山崎、コイツもう外に追い出せ」
「あーハイハイ、黙っとけば良いんですよね。山崎君、もう大丈夫です。もう黙っときます」
「んじゃ記録始めますねー…」
山崎もようやく定位置につき、奴さんは話を続ける。
「……で、アンタが犯人じゃないとすると誰がしたっつんだよ」
「そんな事まで知る訳ないだろう。ただ俺はしてない、と言う事だけは分かる」
「何でそこまではっきりと言い切れるのよ…」
「俺は、あんなブサイク共の下着は盗まん」
「「「………は?」」」
3人の声が重なる。ふんどし仮面はもう一度だけ言った。
「だから、あんなブサイク共の下着は…」
「何がブサイク?誰がブサイク?アンタ一体何の話を…」
「だから今回連続で起きてる下着泥棒の話を」
「ちょ、ちょっと待て!」
土方がこの話に制止をかけた。ブサイク共、という中傷の言葉がかかっている理由で、考えなければいけない事がある。座ったまんまの土方は、腕を伸ばして緋村の肩を掴み前かがみにさせて、向かいに座っているふんどし仮面に半ば顔を近づけさせた。
「お前、コイツの下着盗んだ犯人か?」
「コイツのを盗んだのは俺だ」
糸ちゃんの下着を盗んだのは怪盗ふんどし仮面っと…。狭いコンクリートの部屋の端で山崎はそう呟きながら記録していた。そんな事書かんで言い、と緋村が頬を軽く赤くしながら睨む。
「この子は格好こそ真撰組だが、顔良し、だからな。下着は色気の無いものだったが」
「副長今すぐ離して下さい。コイツを絞め殺します」
「まぁ待て。……で?ブサイクっつー言葉は今回の事件の被害者を指してんのか?」
「ちょっと待って下さい。私も一応被害者なんですけど…」
「いま立て続けに起きている事件は俺の仕業じゃない。この頃体の節々に痛みがきてるから毎晩のように下着を盗むのは無理になってきたからな……1ヶ月に一回ぐらいの頻度で」
「盗むのを止めなさいよご老体。それに何?立て続けじゃなかったらあんたの仕業じゃなくなる訳ですか?そんな言い草…」
「事件が起きた初日と、俺がアンタの下着を盗んだ日がたまたま重なっただけだ」
「でも1ヶ月に一回の頻度でも盗んでるって事は被害届は出てる筈じゃ……」
「出てるだろうな、町役人の方に。…俺等泥棒稼業の代表として言わせてもらうが、今回は本当に異例だ。何故真撰組が立ち合っているのかが不思議でたまらん」
本当なら、町役人の仕事だ。ふんどし仮面は最後にそう付け足した。ようやく肩を離された緋村は襟を正した。そんな事ここに居る3人はよく分かっている。しかしながら改めて言われると本当に不思議な話であった。例え連続で下着泥棒の事件が起こったとて、どうしてテロ対策部隊の真撰組がこうも頭を悩ませているのか…。
「………今はこれだけにしとくか。山崎、こいつを役人に渡しておけ」
「はいよ」
山崎が立ち上がり、ふんどし仮面の両手首を結んでいる手錠を取った時、緋村が軽く駆け足で奴さんの前に立ちふさがった。そしてニコリと笑い一言。
「今度私や世の女性方の下着を盗んだりしたら、私が殺しにいきますからね」
爽やかに言い残し、部屋を後にした緋村。
「あ、アイツの今の言葉本気だから肝に銘じといた方が良いぜ」
土方の言葉に、山崎もうんうんと頷いたのであった。
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