カリソメ夜 2
お名前変換こちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あぁ…そうですか……手口が大胆って事しかご存知ないのですか……」
「後は世間一般で知られてる、白いブリーフをはいてるだとかモテナイ男の人に盗んだ下着を振り撒くだとかしか……。あの、すみません。何かお役に立てなかったみたいで…」
新八の最後の言葉に緋村はハッとした。勝手にやって来て外で話をさせてしまっているのは紛れもない自分なのに、仕事に力が入りすぎるあまり、情報の少なさのショックが顔に出てしまっていたのだ。それは知っている事を全て話し尽くした新八には失礼な態度でもあった。
「そんな!こちらこそすみません!お話聞けただけでも充分です、案外奴も間抜だって事が分かりましたし」
「え?」
「だって、仕掛けた地雷にまんまと引っ掛かったんでしょう?」
軽く笑う緋村。その柔らかさを見た新八は、警察と話していない様な感覚になった。
「なぁに笑ってやがんでィ」
銀時との決着がついた(?)のか、自由になった沖田が彼女の首に腕を回す。
「仕事しろィ」
「沖田隊長にだけは言われたくないです。さ、長居してもお邪魔でしょうし、私たちは見回りに戻りましょう」
「そうだ仕事に戻りたまえ沖田君そして二度と万事屋に来るな」
二人で何を話していたのやら、銀時の体からは黒い何かが見え隠れしていた。
「それじゃあお二人共、お手数おかけしました。私たちはこれで失礼しますね」
「ご協力ありがとうごぜぇやしたー」
全く誠意が伝わらない沖田の言葉に銀時はイラッとしつつも、階段にさしかかる前、緋村が「あ」と言い一度振り返った事で、そんな気持ちが一気に吹き飛んだような気がしていた。
「坂田さん」
数日前聞いた変わらぬ口調で緋村は銀時を呼ぶ。
「今日は突然お邪魔してすみませんでした。仕事中なもんで手土産も無しで……」
「い、いや!そんな事別に良いんですよ!」
改まった緋村の態度に新八が大きく反応した。周りに彼女のような礼儀正しい人間が居ないだけに銀時の反応だけは少し遅れて、「構わねぇよ」とたった一言。癖のように頭を軽くかきながら視線を流す銀時に、彼女はまだ言葉を続ける。
「坂田さん、そこに居る彼から話は伺いました。奴を捕まえようと頑張ったんですね」
「……まぁ最後は訳の分からんオチで終わったけどな」
「一般人なのに大した度胸ですよ」
「そうか?」
「そうですよ」
銀時の斜め後ろで二人の間柄を見ていた新八。しかし今一つ掴めない、と感じていた。それは銀時の口調はいつもと変わらず、表情もそこからでは見えないから…という事だからかもしれないが、それでも雰囲気だけは違ったように思えたのだ。それは緋村のでは無い、銀時の雰囲気が…。
「(銀さんに限って無い無い無い無い無い……)」
失礼な事を心の中で連呼しながら、新八はその考えを振り払うように首を横に振った。その様子を不思議に思った彼女が新八を見る。目が合えばまたニコリと笑われ、やはり、彼女は真撰組なんかじゃなくて普通の女性じゃないのか、なんてまた思ってしまう。
捜査にご協力頂きましてありがとうございました。緋村の声は、今朝、土方の部屋を訪れた時と同じ心地良いトーンであった。
「お仕事、お気をつけて…」
「ありがとう。頑張りますね。それじゃ坂田さん、失礼します」
「おぅ」
「あ、そだそだ…。この一週間の一面に、ちゃんと載せてみますね!」
小さくガッツポーズを作り胸を張る緋村。しかし意味の分からない二人は、何を、と返す。顔に満面の笑みを貼り付け……ているように見えるが、腹の底では(ふんどし仮面への怒りが)煮えくり返っているようなその想いを前面に押し出しつつ、それでも微笑んでいるのだから尚更怖い。
「真撰組隊士!見事、怪盗ふんどし仮面を血祭りに上げる!っていう見出し、要チェックですよ!」
誰が血祭りに上げるかなど聞く程野暮では無い。
「それじゃ失礼!」
一際明るい声を残し、先におりた沖田を追いかけていった。数秒して車のドアを閉めるような音が聞こえ、一台のパトカーが万事屋から離れていくのが分かった。血祭りに…、という言葉はいぜん聞いた事がある新八。と言うかすぐ身近に居る姉がその当時言っていた言葉では無かっただろうか?まだそこに居たまま二人は話す。
「銀さん…」
「………」
「あの人…姉上ばりに怖い女性ですね」
「…見かけによらずにな」
確かに彼女は髪こそ短くあれど、物腰はいかつい男とは全く違う。それこそ今の様な聞き取りでは役に立つのだろう。まさしく新八もそうであった。緋村の雰囲気にのまれ、まるで普通の女性と話しているような錯覚。しかし"血祭り発言"なるものを聞くと、真撰組隊士であると思い出してしまう。
「銀さん、彼女と知り合いなんですか?」
「何度か街で会った事があるな…」
「へぇー……隊士って言っても珍しい方でしたね」
「そだな。……精々二日後三日後の見出しに載れるよう応援しといてやれや」
「流石に血祭りを応援する事は出来ません」
そうして二人が万事屋に入った時に神楽と定春も戻って来たのであった。
一方こちらは機嫌良く進んでいくパトカーの中。運転席にはやはり緋村が乗っていて、沖田は至って快適そうに座席にもたれている。
「沖田隊長の言う通りでしたねー」
「何がでィ」
「坂田さん達が奴を一度捕まえた事ですよ。また嘘かなーなんて思っちゃいました」
「また、とは失礼な奴でさァ。俺がいつお前に嘘を言った」
「貴方の日々はほぼ嘘で塗り固められてますけど」
「糸……俺がお前に嘘をつくと思ってんですかィ!俺はお前をこんなに愛し…」
ているのに、と冗談めかしそれでも本気の顔を作りながら言おうとしたが、それを遮ったのは彼女が出すクラクションの音。
「はーい、前の車早く発進しなさーい」
「……………」
「さあ沖田隊長、仕事の話に戻りましょう」
「……………へいへい」
観念したように緋村の話を聞く為静かになった沖田。それを横目で確認して、彼女はさっき新八から聞いた事を思い返す。
「あの眼鏡の彼の言う事は私たちが得ている情報と何ら変わりませんでした。でも、私、それで気付いた事が一つあるんです」
「……」
「怪盗ふんどし仮面っていう私がいつか血祭りにあげる男は」
後半は彼女の目標である。
「盗んだ下着を世のモテナイ男性方に振りまくんですよね?事件が起こったのが今朝にしても、何だか行動が無くないですか?」
ちょうど信号にさしかかり緋村はブレーキを静かに踏む。