カリソメ夜 2
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「おーい、新八ー、茶ァー」
「もう!それぐらい自分でやって下さいよ」
ソファーにくつろぎ悠々とジャンプを読んでいる銀時の要求に、文句を言いながらもやってくれる所は新八らしい。彼が台所に行ってくれたのを確認し、よっこらせ、と少々ジジ臭い事を言いながら起き上がり、たるみきっている背筋を伸ばす。腰も何度か捻ってから頭をかいた。神楽は定春の散歩に行っていてここには居らず、新八はご存知の通りお茶をいれてくれている。端からみれば何とも暇な光景であろうか。しかし万事屋とて、実は昨日(久しぶりに)仕事が入っていて、今日休んでいたとて別に構わないという精神が実はあったりした。
「(あ゛ー……今日は何もしたくねぇ)」
仕事の翌日は疲れるのか机にジャンプを置き、茶を飲んだら昼寝でもしようかと考えた時、滅多にならないインターホンが鳴る。こういう時に限って鳴るという事は仕事の依頼であるという事を銀時は分かっていた。仕事が欲しい時にいつも来なくて、いらない時にそれは舞い込んでくるものなのだ。新八が気前よく返事をする前に銀時は台所へと急ぎ、「居留守使え」としかめっ面で言った。こんな奴が万事屋の主人で良いのか……、と呆れつつもここは言う事を聞くしか無い。
まだ諦めずに鳴らしているが静かにしておけば帰ってくれるだろう。万事屋の風上にも置けない銀時がそれを待っているのだが、相手はこちらの思いを裏切るように全く諦めない。というかチャイムの音の間隔が短いものになってきて、最早連打してくるではないか。中に居る二人にはたまらなく騒音であり、嫌がらせを受けているような気分になってくる。
そうして我慢比べは相手の勝ちとなり、銀時は「っるせーんだよ!!!」と叫びながら玄関を開ける事となった。ピシャン、と勢いよく戸が開いた途端に音も止んだ。外に立っていたのは思いがけない人物で、銀時は怒声の後から言葉が続かなかった。
「こんにちは、旦那」
「沖田隊長があんなに鳴らすから坂田さん怒ってるじゃないですか」
黒制服を着た二人組み。沖田と緋村であった。
「二人揃って何の用……あれ、沖田君その額のタンコブどうしたの」
「聞かないで下せェ旦那」
沖田の声を聞きつけた新八が銀時の後ろから顔を出し「立ち話もなんですから中へどうぞ」と言ってくれたのが、それをやんわり断ったのは緋村であった。
「あ、お気遣いなく。私たち坂田さんに少しだけお話がありまして」
「!銀さん!アンタ何かしでかしたんですか!?」
「何もしてねぇっつの!」
「心配いりやせん。旦那は何もしてやせんぜィ。ただ強いて言うなら糸に心を奪わ……」
沖田が全てを言い終える前に銀時の拳が彼のタンコブへと直撃した。
「沖田隊長?今なんか私の名前が出ませんでしたか?」
しゃがみ込んだ沖田を見下ろす緋村だが、これ以上踏み込まれると困るのは銀時。緋村、と彼女の名を呼んで顔を上げさせた。
「話って何だ?」
「あ、あぁそうですね、その為に来たんでした」
ここで沖田も復活し、立ち上がる。そして真剣な顔つきで銀時に向かって一言。
「旦那。下着泥棒をするなんて隅に置けねェや。して、手口は?」
言わずもがなもう一度銀時の拳が飛ぶのだが、今度はそれを手のひらで受け止めて真面目そうに続ける。
「いやぁ、黙秘権を使うんですかィ?」
「俺としてはお前をすぐにでも黙らせてやりてぇよ……!!!」
にじみ出る怒りが拳にこもっているのだが、如何せんそれを受け止めたままなので状況は硬直状態。訳が分からずとも緋村は呆れ口調で沖田隊長と呟く。
「ちゃんと仕事して下さいっ!」
そんな彼女の声を銀時の後ろから聞いている新八は、あれ、と今更ながらに思った。真撰組に女隊士なんか居たっけ、と。銀時に倣い玄関から顔を軽く出してみれば沖田の横に居るのは確かに隊士で、それからやはり女性であった。何やらいがみあっている銀時と沖田の間から緋村を覗いていればフと目が合い、ニコリと微笑まれる新八。思わず頭を下げてみれば相手も軽く頭を下げた。女性であるのに、その下げ方は武士のように礼儀がしっかりしているように見えた。確かに真撰組だ、と思ったのである。
「旦那も志村も知ってるかも知れやせんが、今朝、下着泥棒の連続事件があったのはご存知ですかィ?」
「存じてますとも」
「その犯人が旦那じゃないかなって思いやして」
「ストレートすぎて腹立つアァァァアァア!!!!!!」
今にも喧嘩が勃発しそうな雰囲気で、違うでしょうが、と沖田を注意する緋村。「すみませんアホ上司で」と先に詫びを入れてから話をしだした。
「その連続事件に"怪盗ふんどし仮面"が関わってるんじゃないかっていう線が浮かび上がってまして、一度奴と接触した事がある坂田さんに話を聞きたいなぁと思い伺いました。だから決して坂田さんがやましい事をした訳じゃ無いんですよ」
「それなら良いんですが…」
「オイコラお前俺を信じてなかったのかよ」
「そういや志村も奴と接触したんじゃ…」
「万事屋さんなだけあって、やっぱり色んな事をやってらしてるんですねぇ!」
「勘違いしちゃいけやせんぜィ糸。旦那はなぁ、表向きは万事屋だが裏は…」
…、と話の途中で銀時の手が沖田の口をおさえる。
「何を言おうとしてるかは知らねぇが、沖田君そろそろ黙っててくれないかなー?」
顔は笑っていても明らか怒りを必死に抑えてる声を出す銀時。沖田は口を抑えられてもムガムガとまだ何かを言っている。そんな二人を見ている緋村と新八。
「……」
「……」
「……あの、僕で良かったらお話します」
「有難いです」
黙っとけエェェ、と遂に銀時の怒声が響く中で緋村は新八の話を聞き始めたのであった。
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