カリソメ夜 1
お名前変換こちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝稽古も終わった屯所の清々しい朝。雀が可愛らしく鳴き、朝飯の良い匂いもしてくる。稽古の汗を拭いて、面タオルで乱れた髪を適当に整えながら廊下を歩く土方は、やっと自室に戻り、早々と着替えを済ませる。朝飯を食べる前にベスト姿に着替えるのは彼の真面目な性格からである(汗を吸い込んだ道着を早く脱ぎたいのもあるが…)。もちろん沖田は寝間着のままで朝飯に挑んでいる。注意するのも疲れて土方も角を立てたりはしなかった。シャツのボタンをしめ、それでも上の1,2個を開けたままポケットに入れっぱなしだったタバコに手を伸ばす。時刻は7時、今日もそれなりに平和に終われば良い、と土方が思った時、閉めている障子の奥から声がかかる。朝聞いても憂鬱とは思わせない、程よい高い声。入れ、と言うと静かに障子が開いて彼女がひょっこりと顔を覗かせた。
「おはようございます土方副長」
「んー」
土方同様、しっかり制服に着替えている緋村が軽く一礼をして部屋に入ってきた。まだ火の点けていないタバコをくわえたまま挨拶を返す上司を見て、「朝から健康に悪い方ですね」と彼女は苦笑い。うるさい小言では無いので、土方は気にせず火を点けた。
それから緋村が持ってきたカゴに自分の胴着を折り畳むように入れる。本来朝稽古と言うのは少人数制みたいなもので、一番隊が稽古の時もあれば二番隊の時もある。三番隊が稽古だったら翌日は四番隊……といった風に屯所に居る全員で稽古をする事は、スペース的に実現出来ない事であった。
今日は一番隊諸々は休みの日なので、隊士である緋村がこうやって胴着を回収して幾つもある洗濯機に放り込むのだ。誰かがこういう当番を嫌でもやらないと、面倒くざかりの隊士たちは汗臭い胴着をそのまま共同部屋などに放置するのだ。女中からのクレームを経て、同情した緋村が手伝うという事で通称・回収係りが生まれた。
「はい、確かに回収しましたー」
これで全員分かな、と緋村言う。そんな様子をタバコを吸いながら土方は見た。沖田総悟というサボり魔、サディスト、腹黒な人間の下、それなりにしっかり働いてくれている彼女。一番隊では彼女が一番良く働いてくれている。それだけではなく沖田の面倒(寝てたら起こす、さぼったら怒る、逃げたら追いかける等々…)を見てくれていて、例えば監視役と言うべき土方が出張中の時などはとても重宝される人材であった。ぶっちゃけチンピラ集団と言われ評判の悪い真撰組。せめて女である緋村が何かと株を上げてくれれば……と副長である土方は思ったりするものだった。男っぽい感じであろうとやはり緋村にむさ苦しさなど無かった。
「緋村、お前今日から見回りに多く出てくんね?」
「はい?構いませんけど……何故ですか?」
「んでもって笑顔を振りまきながら歩け」
「何ですかその見回り」
せめて少しでも評判が上がれば…、という儚い願望を抱きながら土方が何となくテレビをつけた所、一つのニュースが飛び込んできた。
「今朝未明、女性の下着ばかりが盗まれる事件が多発し、犯行は怪盗ふんどし仮面の手口とよく似ていて…」と、淡々に読み上げるアナウンサー。
「怪盗ふんどし仮面?……あぁ、そんな奴も居たな……まだ捕まってねェのか?なぁ、緋村……………緋村?」
カゴだけを残しいつの間にか姿を消している緋村。居ない奴に賛同を求めても仕方ない、と視線をテレビに戻そうとするが、如何せんカゴが置きっぱなし、回収係りに携わっていない"副長"としてはこの(汗臭い)カゴを運ぶなど言語道断である。タバコを灰皿に押し付け、おい緋村ー、と言いながら腰を上げ行方も分からぬまま部屋を出る。誰も居なくなった土方の部屋で、つけっぱなしのテレビが今日の天気を告げていた。
1/4ページ