空気を掴む手
お名前変換こちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
9月に入ったばかりだと言うのに江戸の暑さは中々で、残暑と言うよりもまだ真夏日のように感じ取れた。
実際、それぐらいの暑い日が続いている。いつになれば涼しくなるのやら、ベタベタする汗をそのまま放置しながら街を歩いていると、少し先から栗色の髪の男が見えた。あぁ知り合いだ、と思った矢先、あっちも俺に気付いて軽く頭を下げてきた。
制服姿である所を見ると(一応)真面目に仕事中らしい。腰には刀があるのに手にラムネを持っているというのは見なかった事にしておこう。涼しそうな顔で働きやがって。そう文句を言ってみた。
「あー、旦那ー、こんにちは。パチンコ帰りですかィ?」
「違ェよ、ちょっと用事があって外に出てただけだ」
「へー…」
「お宅は?」
「見回り中でさァ」
「1人でかよ」
「そんな時もありやす」
どんな時だよ、と突っ込めば「墓参り…」との答えが返ってくる。
「は?」
「いや……今日は緋村と見回りだと思ってたんですけど、何か手違いだったみてぇで…」
「?」
「アイツ今日非番で、んでもって墓参りに行ってるんでさァ」
「ふーん」
「…旦那」
「んぁ?」
「ちょいと一緒に休みやせんかィ?」
ラムネ片手に笑いかけてくる沖田の顔は、ガキそのものだった。
公園のベンチの上、男二人が並んで座るというのはあまり良いものではない。そう言えばココはこの前緋村と一緒に座って、成り行きで線香花火をした所だ。上を見上げればやはり木が俺達を覆っている。クソ暑い中、小さな子どもは元気よく公園の中を走り回っている。その声は蝉と張り合うかのように響いていた。
「この前」
急に沖田が話し出すが、俺は顔は向けずに耳だけで聞いた。
「この前糸と線香花火したでしょう?」
なんて鋭いガキなんだ。俺は思わず顔を向けてしまったが、沖田の顔は俺が思っていたのと全然違っていた。もっと茶化すように意地悪に笑っているかと思えば、全くのハズレ、どことなく物憂げな表情に何も言えなくなる。
「…糸、嬉しそうにしてやしたぜィ」
じゃあ何でお前はそんな顔をするんだ。そう聞けたらどれだけ楽だったろうか。沖田が空になったラムネのビンを揺らせば中のビー玉が渇いた音を立てる。微かに太陽の光を反射してキラキラと輝いているように見える。でも派手じゃないその光かたを、俺はつい最近見た事があったような…。
「旦那ァ、単刀直入に言いまさァ。今後糸に関わんのはやめてもらえやせんかねィ」
「は…?」
やっと聞き返したと言うよりも、無意識に空気が口から出たのに近かった。関わるな、だ?どうやって否定しようかと頭を巡らせた。俺と糸はそんなに関わった覚えも無いし、沖田にそんな事を言われる筋合いも無い。しかし引っ掛かるのは沖田のさっきの顔だ。
1/2ページ