君の隣で
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「はーい、検問中でーす。皆さんご協力下さーい」
太陽が丁度頭のてっぺんに来ている中、黒い制服を着て仕事をこなす俺達その名も真撰組。
「あー、その車ちょっと止まって下さーい。……ん?山崎君!大丈夫?ボーっとてますけど…」
「あー大丈夫大丈夫」
女の子の糸ちゃんがこうやって頑張ってるんだもんねー、と言ってみると「仕事ですから」と簡潔な答えと、軽く笑みを返してくれた。そりゃご尤もな答えで。
何の支障もなく納得して、並び始めた車を一台ずつ調べた。何もこんな暑い日に桂も現れなくても良いじゃないか。って言うか検問なんかしたって意味ないだろ。普通に桂が車に乗って真撰組の前に現れる訳が………無いとも言い難い。
「ちょっと沖田隊長!!??何で自分だけパトカーの中で涼んでるんですか!!」
糸ちゃんの怒声もこの炎天下の下じゃ何となく迫力を増しているような気がする。これが土方さんなら、反射的に逃げたい。
「隊長!!!!」
「あー、五月蝿い奴でィ、休憩ぐらいさせろ」
「アンタは常に休憩休憩の人生でしょうがァア!!!」
街の人たちは2人の口喧嘩をさも恐ろしいものを見るかのような視線だけど、そんなの真撰組にとっちゃいつもの事、止めるのすら面倒くさくなってくる。
「オーイ。あれ止めなくて良いのかよ」
2人を無視して仕事に戻ろうとしていたところ、不意に後ろから声がかかる。
「良いんですよー、いつもの事ですからー」
と言いながら振り返った所、そこには万事屋の旦那が暑そうに手で汗ダクの顔を扇ぎながらスクーターに跨っていた。何か眩しいな、と思ったらこの人ノーヘルで乗っていた。その銀色の髪が太陽に照らされるととてつもなく目に痛い。
「旦那、痛いです、あ間違えた、眩しいです」
「どこをどう間違えて”眩しい”が”痛い”に変わるんだよ」
「まぁそんな事もありますって。それより旦那、減点ですね」
「はぁ!?何でだよ!!」
「ノーヘルじゃないですか」
「これはお前等が検問やって中々車が動かねぇから待ってる間あのクソ暑いヘルメットをはず…」
「はい免許書見せて下さい」
「最後まで説明させてェェエエ!!ってか、お前等は対テロ集団だろうが!何で白バイみたいな事」
「臨機応変に対応ですよ、旦那」
「腹立つ!!!ジミーのくせに生意気ィィイ!!!」
「それじゃ専門の人に引渡しますからねー」
「専門……って何だよ」
「おーい糸ちゃーん」
車の列の向こう側に止めてあるパトカーの所で、まだ2人は喧嘩をしていた。喧嘩って言っても部下である糸ちゃんが一方的に沖田さんを責め立ててるだけであり、しかもそれは正論ばかり。肩を持つべきは彼女の方であって、中断させるのを今一躊躇う。彼女に怒られた後、沖田さんはかなりの確率で仕事をするからだ。
「あー、気付いてないなぁ…」
「緋村じゃねぇか」
「…………知り合いですか?」
「沖田隊長ォォオ!!!!」
一際大きく、彼女の声が響いている。
「いや、知り合いっつぅか……何度か話した事がある」
「へぇー……何か想像で出来ませんね、旦那と糸ちゃんが話してる所なんて」
「うっせぇ」
旦那は一度咳払いをして、それはそうと、といい始める。
「あいつ交通専門な訳?何かさっき呼んでたけど…」
「交通専門じゃなくて喧嘩専門です。旦那みたいな口ごたえする人を片っ端から片付ける係り」
「どんだけ物騒な専門!!??」
「女の子なのに凄いですよねぇ」
「怖ェよ!!」
でも案外可愛いトコあるんですよ、とフォローも入れてみる。沖田さんの下で働いてるから根性もそれなりに曲がってくるだろうし、腹黒くもなるかもしれないけど、仕事はこなすしっかり者だ。この前なんかは誰かさんの助言通りに髪をハサミで切ったり…。
「髪、短くなっちゃったでしょう?似合ってると思うんですけど、少し切りすぎちゃったかなぁって…」
「…ジミーが切ったのか?」
「はい。何でも誰かに言われてその気になったっぽくて………旦那?どうしました??」
「や、何でもねえ…」
「………」
旦那の表情が少し変化したのを見て、ははぁ、と思った。昔からこういう類の勘ははずれた事は無い。どういう経緯で旦那と彼女が知り合ったのか考えてみれば、一番考えられるのは沖田さんが妥当だった。あの人も良い働きするなぁと思った所で相手はあの糸ちゃん。人の事はよく分かっているくせに中々自分の事を分かっていないくせ者だ。良い子なのは分かってるけど、多分、自分の恋路とかにはとても疎そう。いや、疎いに違いない。間違いなく疎い。
「……ショートの髪もよく似合ってますよねぇ。俺の腕が良いからですかね」
「そーかよ」
ぶっきらぼうな答え方だった。旦那なりの照れ隠しとかそんな感じだろう。…まさか自分の言った通りに髪を切ると思ってなかったから動揺しているのか、それともあまりの可愛さっぷりに動揺しているのか、はっきりとしたのは流石に分からない。まぁ彼女の素直さとか、そういうトコにはやられてんだろう。でも彼女は手強いかもしれませんよぉ、と思ってみる。素直な所もあるが、それはほんの一部の話であって、基本自分の容姿を気に掛けるような性格ではないと思う。
……だからこそ旦那は凄い。こうまでの糸ちゃんの髪について助言して、しかもそれを彼女が実行したのだから、その権力は沖田隊長並か土方さん並だろう(近藤さんの助言は割と無視してる…)。
「おーい、帰って良いかー?」
「駄目ですよー。……それじゃ糸ちゃんトコに言って話してきて下さい。最終的に彼女が判断するんじゃないですかね」
「だぁかぁらぁノーヘル運転なんかやってねーのに!」
文句を言いつつ足元に置いてあったヘルメットをかぶっていた。少し渋滞気味の車の合間をぬって、旦那は糸ちゃんの所へ行くかと思いきやそのまま走り去っていく。別にノーヘル運転していた、とか最初から思っていなかったので無理に止めたりはしない。
「もう!!沖田隊長!!隊士が必死に働いているのに上の人間がそんなんで良いんですか!」
「いや、だって暑ィし」
「それはみんな一緒です!」
いつまでも続きそうな二人の喧嘩。まだまだ怒っている彼女の後ろを、旦那は速度を落とさずに走りぬけていった。
当たり前だけど、彼女は全く気がつかない。これはまだ、俺だけが知ったはなし。
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