夏は気まぐれ(下)
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着付けを終えた彼女と、大きなたんこぶが出来てしまった銀時がしばらくのんびりと過ごしていると、買い物を終えた2人と一匹が帰ってきた。今から夕食が始まる訳だが、もちろん作るのは新八と彼女である。
「俺もう腹ぺこ~」
「だったら銀さんも手伝って下さいよ」
「いや、申し訳ねぇけど頭痛が酷くてな…」
「頭痛ですか?」
「実はさっきお前の隣に居る奴にゲンコ…」
「はーい、私達だけで作ろっか新八くーん」
新八の背をぐいぐい押して台所に向かえば、私が味見するアル、と手伝う気はないのに神楽がついてきてしまった。可愛いからよしとしよう、と彼女は許し、3人による夕食作りが始まった。
浴衣が汚れない様に油はあまり使わず、そして袖が邪魔にならない様に襷がけをする。新八の腕の細さに驚いたり、神楽の肌の白さに驚いたり、とにかく一人暮らしの人間が味わえない人との会話が彼女の心に沁みて、気がつけば終始笑顔だった。
大量に作った筈のご飯も神楽によってたいらげられ、残飯率0%とという数字をたたき出した。
クーラーのない部屋で、それも巨大な毛むくじゃらな犬も居る中でご飯を食べると、それが例え夜であっても暑いのだが、浴衣のお陰で気持ちはどこか涼しいものがあった。
そして今、きつくなった帯を少しずらしながら食べ終わった食器を全て棚へいれ終えた。
「何から何まで手伝ってもらってすみません…」
「良いの良いの。それにしても、新八君は本当に料理が上手よね。今度教えて欲しいな」
「え!?いやいやいや千早さんの方がよっぽど上手だと思いますよ!」
「またまた謙遜しちゃって~」
かなり年下の男の子とする会話とは思えないな、と彼女は思った。この子は主婦という生き物の上に新八という人間の皮が乗っかっているのだろうと思った。
ようやく襷がけを崩せば、心なしか肩の圧迫感が無くなった。
「私達もリビングでテレビ見よう」
そう言って台所を離れようとすれば、銀時がやって来て「下行くぞ」と彼女に声をかける。
「下…?」
「お登瀬さんの所ですか?」
「おとせさん…?あぁ!万事屋の大家さん!下ってのはスナックの事ですね?私がこの前ミイラ化寸前までいった店」
「お前そこで何された訳!?」
それにしても何故に彼女だけを誘うのかと問えば、もちろん酒を飲むからだと銀時があっけらかんと言う。どうせ2人きりになりたいだけだろコイツ、と新八は思ったが目の前に彼女が居たので黙っておいてやった。
いつまでもきょとんとしている彼女に「先に行ってるからな」とだけ言い残し銀時はさっさと家を出てしまった。
「………行っちゃった」
「千早さんも早く行ってやって下さい。じゃないと銀さんが拗ねちゃいます」
「拗ねるぅ?銀さんがぁ?あり得ないなー」
「銀さんは千早さんにゾッコンですよ」
「あはは!!面白い冗談ねぇ」
実際冗談でない事を新八はよーく知っていた。付き合う前から此方が恥ずかしくなるぐらいの思い合いをしておきながら、この期に及んで彼女はまだ銀時からの自分の価値を理解していない。
一度彼女と飲みに行った際、二日酔いに襲われていた銀時は「あいつは化け物だった」と終始呟いていたが、こんな優しい人間がアルコール一つで変わるとは到底思えなかった。今晩を機に、彼女がもっと銀時に遠慮せずに近寄れれば良いなと新八は思った。本当によく出来た優しい眼鏡をかけた男の子である。
だが彼女がアルコールを飲んだら化け物になるのは悲しいが事実だった。
そうとは知らず、意気揚々と銀時の後を追いかけて家を出た彼女を神楽と一緒に見送った。
「銀ちゃんばっかりお姉ちゃん独り占めしてずるいアル」
「汚い大人のする事だね」
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