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最近インクがかすれ始めたペンを持ち、所属している部署の社員名が書いてあるホワイトボードを眺める。すぐに自分の場所を見つけ、名前の横に書き込んだ。
午後、有給。
全然使いきれないまま毎年リセットされてしまうのだ、使える時に使っておかないと勿体ないってもんでしょう!
という事で皆様、お先に失礼しまーす。
もう帰るのか(午後の)戦いはこれからだぞー、という声を軽くあしらいながら会社を出る。いや~、昼過ぎの外の空気ってこんなに清々しいんですね!最高!
「午後から休んで何する気だー!彼氏とデートかー!」
「窓から身を乗り出してまでそんな事を叫ぶなァァアアア!!!」
羞恥の欠片も無い職場の人間から逃げる様に、私は駅まで猛ダッシュしたのだった。
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太陽の光は程よく暖かい、町を吹き抜ける風も微かに夏の匂いを含んで清々しく、そして懐は寒い。
…え、この寒暖差は何?
地球温暖化が叫ばれる今、なぜに俺だけ冷え症よろしく絶好調に冷えきっているのか。
理由は簡単、諦めが悪すぎたから。
「あー……あそこで止めてりゃなぁ……」
今でも耳にこびりつく音。軽快と表現するには程遠いけたたましいBGM。押し寄せてくるかのように出てきた銀色の玉は俺の横で積み重なり、そしていつの間にか消えていた。ついでに財布からも所持金が消えていた。畜生、あそこで止めてりゃ……!
追い求めると逃げ去られるというもので、俺は今まさに過去何度も味わった事がある絶望感と虚しさを抱え万事屋へ帰ろうとしている。
新八あたりにまた説教されんだろうなぁと思えば気が重くて仕方ない。一体何度目ですか、と切り出されれば言い訳の仕様が無かった。あいつはホント良い主婦になるよ全く。
幸せを感じるってのは一瞬だ。それはパチンコに限らず。自分が幸せだと感じている時は、もうその幸せとサヨナラする手前の事で、失って初めて分かるあの暖かさ。…まあお金は頑張って働けばまた戻ってくる世の中になっているものの、最近は仕事を選ばなければキャンキャン吠える人間が近くに居る。
危険な仕事ほど金が貰えるというのはその分リスクもあるもので、それを承知で俺一人で引き受ける事なんざよくあった。よくあったのに、今じゃどうだ、それを制止してくる人間数人と犬1匹とロボット一体と……数えてたらキリがない事を有難いと思うべきか、なんというべきか…。
自業自得だという気持ちも多少はある分、それとなく後ろめたい気持ちを引きずりながら歩く我が家への道。
初めの頃は、まさかこんな気持ちを抱くとは思いも寄らなかった。博打で負けたって、酔っ払って朝まで道で寝てたって、怒ってくる様な人間は周りには居なかった。
気が付けば色々背負ってて、重いだ五月蝿いだと自分で言っておきながらも離す気はない。人間不思議なもので、どんな場所にでも根を張り続ければいつの間にか沢山の関係性を作り上げるらしい。俺の場合、その関係性は多彩、という異色な人間ばかりだけども…。
一人というのは案外楽だが「孤独」を感じたらもう負けだ。今まで落としてきたものを全て拾いたくなる衝動に襲われて、それから自分の無力さを知る。
もう二度とこんな思いをしたくないと誓うくせに、いつの間にか何かを背負い込む。幸せって一体どんなもんかね、何もない方が楽なのか、何かを背負う方が楽なのか。それなりに人生を歩んできたものの、永遠のテーマだなこりゃ。
千早は、昔の俺を知らない。そりゃそうか、話した事も無いし。
いつまでも黙っていられるとは思っていない。いつかは話さないといけねぇもんかなと軽く考えてるあたり、今の俺に話す気はあまり無い。と言うよりも話したくない、千早には尚更だ。そりゃそうだろ?大事にしてる人間には自分の嫌な部分なんか見られたくないもんだ。うわ、今サラリと大事って認めちまったな。そういう柄じゃねぇから是非聞かなかった事にして下さい。
大体騙されちゃイカンよ。あの女は歌舞伎町の生きる伝説だ。そして仕事の鬼だ。口癖は「あー忙しい」だ。可愛くないの極みだな。
あ、でも今日は有給を取るとか何とか言っていた様な気がする。最近4時間睡眠がたたって目のクマが凄い事になっているから、午後は仕事を休んでひたすら睡眠を取り続ける予定らしい。そういう平和な思考は嫌いではない。
そうだな、千早を見てると思い浮かぶ言葉は”平和”だ。歳から考えてもアイツも攘夷戦争をそれなりに知っている年代ではあると思うが、俺もまだそこにはふれない。アイツが、俺の過去に対して深く聞いてこないのと同じように。ああ見えて空気は割と読めるからね、そこは互いに探り探りって事で…。
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