ほしほしと恋に落ちる
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まどろむ様な感覚に、重い腕も腰もずっしりと沈んでいく感じがしていた。このままずっと沈み続けた先に何があるのだろうか。はて、私は浮かび上がってくる事が出来るのだろうか?
そんな、途方のない夢を見た。
「…秋月、……おい秋月…」
「ん……?」
肩を数回揺さぶられ、くっつきぱなしだった瞼がようやく剥がれていく。睫毛の隙間からもれてきた光はやっぱり優しい。嗚呼、万事屋さんの匂いがする。
「寝てるとこ悪ぃな。予告通り病院行くぞ。んでもって、そのついでにお前の家に行って服とかも取りに行くから」
「…………1人で行けますからね?」
「寝言は寝て言え」
ペチン、と額を叩かれ、私は布団を口元まで引っ張った。今の私はまず間違いなく顔が赤い。いや、風邪的な意味じゃなくてですね…?
万事屋さんの優しい光と同様、坂田さんの銀髪もぼんやりと目に優しく光っているように見えた。取りあえず何か腹に詰め込むか、と言ってほんの小さく首をかしげている坂田さんがとてつもなく可愛い。可愛すぎて熱が上がってきたような気がします…!!
「それ以上首をかしげては駄目です!!」
「はぁ!!?」
遂に耐えられなかった私は叫ぶだけ叫んで、布団を頭までかぶり彼に背を向けて丸まった。中にこもり出した熱がとても熱く、不意に今朝の事を思い出す。
「肝心な時に、俺に頼ってこないお前が一番ムカつく」
「……………」
それは、つまり、何ですか?どう説明すれば良いか分かりませんが……何でしょう、どうなんでしょう。生まれて二十数年が経とうとしている私ですが、可哀想な事に恋愛に関して経験豊富な方ではありません。知識が無いと言いますか、察する能力に欠けると言いますか、とにかく素人といっても過言ではない訳です。ですが、そんな私が坂田さんのこの発言を異常なぐらい気にかけている…。
本当にどう説明すれば良いか分からない。どういう意味で言ったのか聞きたいなら坂田さんに聞くのが手っ取り早い。でもそれは凄く恥ずかしいし、大人としても何処と無く間違った行動の様に思える。
つまりは、よく分からん。
でも、でも、何でしょう……こう胸が温かくなると言いますか、頬がカッと熱くなると言いますか………坂田さんは、どういった意味でこんな事を言ったのだろう……?
そう1人でもやもやと考えていた時でした。遠慮なしにめくられた布団のせいで、一瞬体がヒヤリとした。
「!!!」
「出て来い我が侭女。とにかく飯だ。これ羽織ってリビングで待っとけ」
剥がされた布団の代わりに一枚の羽織りが無造作にかけられた。それから部屋から出て行く足音も聞こえる。
「………」
しばらくして起き上がって、言われた通り羽織りを肩にかける。サイズがでかすぎる所を見ると、坂田さんのものなのだろう。そう考えた瞬間また熱が足元から頭まで這い上がってきて、手で顔を隠したまま恥ずかしさを振り払うように頭を振った。
「(わーわーわーわー恥ずかしい!!!!)」
でも、坂田さんはいつもの坂田さんだった。
「………ちょっと熱で頭がおかしくなってんのかな…私………」
その結論に達すれば、熱が徐々に引いていくような気がした。そうだそうだ、私がちょっと浮かれすぎてただけだ。坂田さんに心配されて嬉しかったんだな、ウン。きっとそうだ。そうに違いない。…誰かそうだと言って!
このままじゃ私"浮かれ死"するんじゃないかなぁ、と重い体をリビングに運びながら思った。
時計はお昼の11時をさしていて、太陽の光が窓から溢れている。台所からは何か食べ物の匂いがしていた。…万事屋さんは落ち着くなぁ…。
従業員の子が1人も居ない事が不思議だったけど(仕事に出かけてるのかな…)、とにもかくにも体がまだダルイ。図々しくてごめんなさい、と謝罪しながらソファーに横になった。起き上がって初めて分かる、自分の体調の悪さ。体の中に鉛でも入っているかのように重く、沈んでいく夢を見るのはこの重さを示しているのだろうか。目をつむればまたすぐにでも寝れそうな気がする。そんな時だった。
「オイ、大丈夫か」
上から降ってきた声と、前髪をかきあげられる感覚に目を少し開けた。そこには眉間に皺を寄せた坂田さんが私を見下ろしていた。
「大丈夫……です」
「嘘つけ。……飯よりもこりゃ先に病院だな。薬もらいに行くぞ」
「え、いや、ちょ……!」
「お前に拒否権は無い!」
ビシ、と指を指して言われれば言葉に詰まった。
なんてタチの悪い風邪なんだ、とウイルスに悪態をついてみた。その間に坂田さんは外に出る準備を始めている。私も起き上がって鞄から財布を取らないと駄目なんだけど、体を起こすのが酷く億劫に感じた。この怠け者め…!と罵っていると、横になっている私の首に腕を滑り込ませてきて「よいしょ」という軽い掛け声と共に軽々しく起き上がらせてくれた。
「………坂田さんはヘルパー向きな方ですね」
「それ褒め言葉か?」
至近距離で見る苦笑い顔に胸をときめかせている暇もなく、今度は膝と肩の下両方に腕がまわされる。……ん?何が始まろうとしているのでしょう。
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