カウントダウン(4)
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背景、あ、間違えた。
拝啓、坂田先生。
無事に受験票が届きました。どうやら論文は間に合ったようで、私は面接を受ける事が出来るみたいです。
かしこ。
「受験番号374……」
「いやー、良かったよ間に合って。あの時は本当にどうなるかと…」
朝、学校に行くまでの間、自転車で並走している総ちゃんに向けてあの時の心境を語った。もちろん先生と二人乗りしましたなんて事は言わないけど、郵便局に間に合わないかと思った、なんて事をつらつらと話してみても総ちゃんは何やら呟いてばかり。何を呟いているのかと思えば、それは私の受験番号だった。
「受験番号がどうかした?」
「"374"……"みんな死"」
「縁起でもない事言ってるんじゃないですよスットコドッコイが」
あまりにも不吉な事を言っている癖に、本人はケタケタと笑ってばかりで反省の色などみられない。頬を若干膨らませながら少し早めに自転車をこいでみれば、笑いながら「すまん」と謝る総ちゃんが難なくついてくる。
「しかし中途半端な時期だなァー」
下り坂の途中、風を浴びながら間伸びた声でそんな事を言われた。一体何が半端かと聞いてみれば、それは私の受験日…つまり、面接日らしい。
「そう?」
「どうせなら定期テストも文化祭も終わった後の方が良くね?」
「えー…それはしんどいよ。嫌な事は早く終わらせたい」
「今まで自分の進路の話をしなかった奴が良く言いますねィ」
「う゛……」
痛い所を突かれ何も言えなかった。
話題を変えてやろうと思い、フと頭に浮かんだ昨日のバラエティ番組。きっと彼も見ただろうと睨んで口にしようと思えば、その前に総ちゃんが急に「最近はどうでィ?」なんて聞いてくるもんだから思わず首を傾げた。
「なんの話?」
「銀八とだよ。なんか進展はあったんですかィ?あんまり期待してねーけどな」
「オイ心の声が漏れてますよ」
だってお前の事だし、と失礼な事を言ってますけどね貴方、全く進展がなかった訳じゃないっての!
そりゃ仲が急激に良くなったのかと聞かれればそうじゃない。私と先生はまだあくまで"教師と生徒"の枠からは出ていなくて、そもそも振り向いてもらおうと頑張っているのは私だけ。先生は、きっと私が想っている以上に私の事を"生徒"として見てくれているのだろう。あ、自分で考えたら泣けてきたぞ……。
いやいや!でも、ここ最近は何かと良い事が多いのではないかとも思う。あの郵便局事件は完全に自己管理の甘さが露呈されたものではありましたが、そのお陰で貴重な体験をする事も出来た。少しの汗と煙草の残り香が風にのって私の鼻にも届く。私じゃきっと足もつかないほど高かった自転車のサドル、大きな背中、暮れていく藍色の空。その時の私は、とてつもなく幸せの中を進んでいたのだ。
「まぁ適当に応援してまさァ」
「適当じゃなくて全力に応援してくれるとありがたいんですけど…」
そう呟いてみたけど、先に校門を越えていった総ちゃんには届かなかっただろう。
駐輪場で友達に「おはよう」と声をかけていきながらいつもの場所に自転車を止める。
今日は、先生と何か喋れるだろうか?
面接の練習の予約でもしておこうか?
考えただけで口元が緩みそうで、思わず頭を振って気を持ち直した。まだ"教師と生徒"の枠を出ていないというのにこんな事で喜んでいてはいけない!卒業はきっとあっという間に私達に押し寄せてくる。そうなったら私にチャンスなんてものはないのだ。先生の教え子である内に頑張らないといけない。
「(うしっ!今日も頑張るぞ!)」
意気込んで、いつもの様に自転車の鍵を抜き取ろうとした時だった。
手が、フと止まる。
頭の中で何かが引っ掛かったのだ。それから冷えたように感じる体。何だコレは。
どこかで感じた事があるようなこの感覚。
――……そうか
郵便局に向かう途中、先生は私の言葉に対してそう言っていた。あぁ、この感覚はあの時と一緒だ。何の前触れもなくガラリと変わった雰囲気に、鈍感な私の肌でさえその異変を感じる事が出来たのだ。今みたいに、体が少し冷えるような心地を。
あれが一体何だったのだか、今になって急に気になりだす。只あの時は坂を上ったばかりだったから、先生が疲れて弱弱しく呟いただけだったのかもしれないけど、そんな理由で斬り捨てられる程軽い言葉では無かったような気がする。まぁ心の内が全く読めない先生ではあるけど、すぐ後ろに乗ってたからこそ分かる事もある。
あれは、本当になんだったのだろう。
「あらハル、おはよう」
「!あ、お、おはよ!」
妙に声をかけられるまで、私は止まったまんまだった。
教室に一緒に行く中、他愛もない話をしながら笑ったりしていたけど、その冷えはまだ少し胸に残ったまま、私を一日を迎えたのだった。
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