カウントダウン(1)
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こんなにメンドくさいものとは思わなかった。
「んで、ここに名前書け。…って待て待て下書きなしで書く気か?控えは持ってないんだからまずシャーペンで書いて…………何だその顔は。何が不満ですかコノヤロー」
「………時間が欲しいです」
「言わんこっちゃねぇ。だから俺は前々から進路の話はしてたじゃねぇか。それをお前は脱獄ばっかりで…」
「脱獄!?」
脱獄という言い方はあまりよく分からなかったけど、先生が春頃から進路の話をしてきた意味が今ようやく分かりました。
時間、誰か私に時間を下さい。
先生に自分の進路をようやく話せてから早数週間が経った。そこからの私の忙しさったらない。
溜めに溜めていたやらなければいけない事が雪崩のように襲い掛かってきて、気が付けば周りは真っ白、あやうく勢いに流されていきそうな時、私は坂田先生の力をかりて何とか生き残ってます。今の所。
終礼終わりのガヤガヤした雰囲気がまだ残ってる中、部活のない私ですが、学校に残り願書を書くのに必死です。
「んで、ここに親の名前を書いて、印鑑を押して…」
「ここには何て書けば良いんですか?」
「そこは空白で大丈夫だろ」
「じゃあ……ここに特技を書け的な事を書かれてるんですけど………私の特技って何ですかね?」
「脱獄」
「前科一犯もないのに!?」
特技欄はいつも迷う。一体どこまで書けば自慢にならず且つ自分を存分にアピール出来るのか……。
「特技…資格かぁ……」
「段位は書いても大丈夫ですよー」
「だんい?」
「剣道のだよ」
「え、そうなんですか?」
「あれもちゃんとした資格の一つだからな」
さすが先生なんでも知ってるんですね、と心の中で呟いた。
たまにクラスメートからかかる「先生さようならー」という声に「おー」と適当に返事をしながら、先生は私の前の席から立ち上がる事はない。手に持たれているのは希望校に送る論文で、それをこうやって毎日のようにチェックしてくれているのだ。やっぱり教員なだけあって指摘される所やアドバイスは全て的に射ていた。いつもの気だるそうなイメージがある分、このギャップには驚かされる日々です。
「か、書けました…!」
「ハイお疲れさん。じゃあ次は論文の直しするぞ」
「………………」
「明らか不満そうな顔するんじゃありませんっ!」
出席簿で軽く頭を叩かれればパコンッと良い音が響いた。それが可笑しかったのか、先生は何やら楽しそうに笑っていた。
「休憩にするか?」
「え?」
「ずっと座りっぱなしの書きっぱなしだしな」
そう言われて時計を見てみれば時刻はもう5時。気がつけば教室にも廊下にも生徒の姿は1人も無かった。
どことなく寂しい放課後に西日がカーテンの間から差し込んでくる。
直しだけしたら今日はもう帰っていいぞ、と先生。
「あ゛ー……しっかし高校生の椅子ってこんなに小さいものだったかねー……腰が痛ェよ…」
立ち上がった先生は腰を軽く叩きながら筋肉の悲鳴に嘆いていた。おぉ、先生って近くで見たらやっぱり背が高いな、とちゃっかり観察しておきながら「そうですね」と適当に返事をする。
確かに時間が欲しいと思ったのは受験の為でもあるけれど、こうやって先生と2人っきりの時間をもっと増やしたいせいもあるなんて誰にも言えない。そうだそうだ、これは心の日記帳にだけ書いておこう…。
先生が指摘してくれた論文の直しももう全体的に見て完成に向かっていた。何度も直してくれたお陰で中々良いものが出来たんじゃないだろうか。不思議と合格できそうになる気分になるのだから、先生はやっぱり凄い。
「先生書けたッッ!!!」
窓際に腰掛けて校庭を見下ろしていた先生に声をかける。ペタペタとサンダルの音を響かせながら先生は近づいてきて、片手でまず論文を取る、そしてもう片方は私の頭を優しく撫でてきた。
「おー、偉い偉い」
「…」
………穴という穴から湯気が出そうなぐらい一瞬で体が火照った瞬間でした。憎い!憎いぞこの眼鏡教師め!何でそうやって期待かけさせるような事をしてくるんだ!
いつもは気だるそうな表情をして学校内に居るというのに、今じゃこうやって西日に照らされながら優しく笑っている。何だコイツは!偽者か!
「きょ、今日もありがとうございました!!」
「あ?もう帰……―――」
先生の言葉を最後まで聞かず、お弁当とお菓子しか入っていないスクールバッグを手に持ち、私は恥ずかしさのあまりまともに顔を見ないまま教室を飛び出した。ああいう雰囲気は苦手すぎる!先生は卑怯だ、あんな優しい顔は卑怯すぎる!
先生なんて…先生なんて………好きだバカーーーーーー!!!!!!
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