ホントは仲良しです
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がちゃー…ん。剣道場の横にある倉庫の中でホウキが倒れた音が響く。そして一人の女生徒が膝も手もつき項垂れる。まるで燃え尽きたような格好の彼女に一人の人物が話しかけた。
「どうしたんでィ」
ぶっきらぼうな言い方をしながら、自身はホウキを使い何やら遊んでいる。一人でも練習出来るようになっている打ち込み台に、まるで本物の竹刀を握ってるかのように器用に打ち込んでいく。パパン、と良い音が耳に挟みながら、女生徒はゆっくりと体を起こしたがそこに座り込む。
「何座ってんでさァ。さっさと掃除終わらせてクラブやるぞ」
「掃除………ねぇ、一つ聞いていい?」
「何でィ」
「なんで後輩は掃除しに来ないのよオォオォォォ!!!!!」
頭を抱えながらの叫びには訴えられる何かが感じられるが、打ち込みをやめた沖田には呆れた顔で彼女を見るだけであった。しかし彼女はめげない。倒れたホウキを手に取り、野球バットのようにぶんぶん振り回しながら思いのまま叫んでいる。教室の掃除になれば不真面目だが、クラブが関与してくる掃除になれば真面目な夏目にとって珍しい光景だった。
「いっつもいっつも私達ばっかり掃除してるじゃない!先輩にやらせてどういうつもりだあいつ等!」
「まぁ、帰りの鍵返却とかやってくれてるじゃねーか」
沖田の口からまさか後輩を庇うような言葉出ると思っていなかったのか、夏目は振り回していたホウキを止めて、尊敬の意を込めて「総ちゃん…」と呟いた。……嘘です。腕を止めたのは止めたが、あきれ返った声で「総ちゃん…」と呟いた。
「総ちゃん、そういう台詞はね」
「おぅ」
「いつもちゃんと掃除をしてる人間が言うべき台詞だよ。いつもさぼってる人間が言ったって何の感動も起こらないよ」
「掃除してるだろが」
「してないよ。打ち込んでるだけじゃん、しかもホウキで。ケンタ君(打ち込み台の名前)に謝ってよ。"打ち込んでごめんね"って」
「誰が謝るかィ」
「うーわー可愛そうなケンタ君」
「あんたそんなにケンタ君が好きだったんですかィ?何かすいやせんねィ、いっぱい打ち込んじまって」
「いいえ、お気になさらず。掃除を邪魔されるよりケンタ君とじゃれあってくれてる方が作業も捗りますから」
「あぁ?」
「何よ」
後半からは何かと喧嘩腰の二人の間に冷たい風が吹きぬける。互いに格好は制服と言えど持っているホウキは彼らにとっては立派な武器になり、背景には戦場が似合う。
「文句があるなら掃除の一つや二つしてみろっつの!教室の掃除もさぼってるじゃん!」
「さぼってねーし」
「昨日生徒指導の先生に怒られてたの見たし!」
「覗き魔!」
「黙れぇ!!」
動きにくい上履きをものともせずに一発打ち込む夏目の面を、沖田は見事に受け止めて流す。しかし彼女は体勢を崩さないまま籠手を狙い、思わずスキをつかれた沖田は大きく横へ逃げた。
「逃げるのか沖田ぁ!」
「逃げさせる程ハルの攻撃が甘いんでィ」
「うるっさい!」
完全に掃除の事を忘れている2人の間に、何やってんですかぁ、と呆れ声の山崎が止めに入った。既に剣道着に着替えている彼を見て、夏目はささっと彼の後ろに隠れた。きっと味方を見つけたような気分なのだろうが彼はこの状況を全く理解していない。
「山崎君何とか言ってよ!総ちゃんってばロクに掃除もしないんだよ!?今時チンパンジーだって掃除出来るんだから!!!」
「オイ山崎後ろに居るそいつをこっちに寄越せ」
「ヒィイィィ!!?あんた今とてつもなく黒いオーラ出してんの分かってます!?」
この時ようやく山崎は巻き込まれてしまったという事を悟った。じりじりと滲み寄って来るのは魔王よりも厄介なサディステッィク星の王子と謳われる青年で、自分の後ろに居る女学生を襲おう(?)としていた。どうするべきなのか……状況は分からずとも、一般的に見れば女である夏目を守るのが常識なのかもしれない。だが3Z随一の情報通な山崎は知っていた。夏目がそんじゃそこらの女生徒とは違うという事を…。そう、それはまだ彼が高校1年生という年だった頃、体育Aという教科は選択性になっており、男の彼は柔道という競技に惹かれ迷わずそれを選択した。彼にとっては初めての柔道着…。若干浮かれた気分でやり始めた柔道は楽しいものがあった。数人女子も居る中で、和気藹々と習っていく技の数々…。もちろん力の無い女子にとってはツライものがあっただろうが、飲み込みが早い山崎にとって壁のようなものは無かった。しかし転機は突然現れる。隣のクラスで凄い女子が居るらしいぜ。そんな言葉を耳に聞いた山崎だったが、全く興味は無かった。その凄いを意味するのが容姿的な意味なのかそれとも勉学的な意味なのかを知るつもりも無い……。だが凄いという意味はそんなものでは無かった。とある日、彼は遂にその凄い女子を目の当たりにした。女子の割には短い髪、平均よりかは小柄な体型、自分と同じく真新しい柔道着を身に纏い、柔道場にて柔道部の女子に見事に技を決め込んでいたその彼女を……。あの子強いな…。どこか呆れたように思った山崎だったが、起き上がった彼女は厳ついものではなく、笑顔が可愛らしい普通の女の子だった。数日後、その子が仮入部期間を終え、自分と同じ剣道部に所属した事を知るのである。つまり、柔道部の女子を見事に負かしたのが今山崎の後ろに居る夏目だ。この状況から彼女を助けるべきか自分が逃げるべきか……。ひとまずその両方を天秤にかけてみる。そして彼が迷う事なく選んだ方は…――。
「じゃあ俺先に戻っとくねー」
逃げであった。しかし夏目はそれを許さない。
「どこに行くの山崎君?」
彼の背中に当てられたのは一丁の拳銃……ではなく、ホウキの先端であった。ならこの緊迫感は何なのか、彼の額からはとめどなく汗が流れて自然と両手が上がる。
「たった一人の女の子を置いて逃げるの?ねぇ逃げるの?」
「いや、逃げるなんてそん事スルワケナイジャナイデスカ」
「片言になってやすぜィ?」
ホウキを自分の肩にあてながら沖田は一歩一歩確実に近づいて来る。この狭い倉庫では分が悪いと感じた彼女は、盾にしていた山崎を思いっきり沖田に突き飛ばし剣道場目掛けて走り出す。飛ばされた山崎はいとも簡単に沖田に避けられ重ねてあったマットとキスをする事となった。
「待ちやがれィ!!!」
2人が居なくなった事により倉庫は急に静かになるが、へばっていた山崎が何かに気付いたように体を起こす。沖田と土方の喧嘩ならいつもの事なのだが、夏目と沖田がああやっていがみ始めると後々厄介なのだ。周りに知らず知らず被害を及ばすというか、まるで小学生の喧嘩のように先に謝るという事を絶対にしない。いつの間にか仲直りするという、中々拍子抜けさせるタイプなのだ。
「早く止めといた方が良いかも…」
ぶつけた鼻はまだ痛いものの、山崎もすぐにあの2人を追い始めていた。だが、剣道場に着くまでの道で、既に(近藤の)断末魔らしき声が響き渡っている。ついでといっちゃ何だが、風船が割れる音までもが聞こえるではないか。ははは…、と引き攣った笑みの山崎が剣道場のドアを開けると、そこの中心には沖田が、夏目と選手交代でもしたのか土方と睨み合っていた。
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