女王の後日談
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巷では空前の酸こんぶブームが巻き起こっていた。ニュースでもその事ばかりが取り上げられ、江戸のお姫様が美味しそうに食べている映像が流されている。
世にも奇妙なその流行りに、まさか自分が原因として関わっているとも知らず、今日も神楽は酸こんぶをくわえていた。
只でさえリビングには独特な匂いが漂っているというのに、外でも酸の香りに包まれるのは銀時にとってはどうも喜ばしくなかった。
「どいつもこいつも……酸こんぶの何処が美味いんだよ…」
「見てヨ銀ちゃん。そよちゃんだって美味しそうに食べてるアル」
「おま、"ちゃん"づけかよ。友達かってんだ」
「友達アル」
「お前に友達が居たのか?」
「銀ちゃんと違っていっぱい居るアル」
「ほぉー。例えば」
「糸も私の友達ネ。この前だってやりあったアル」
その言葉を聞いて、今まで黙っていた突っ込み役の新八が勢いよく飲んでいた茶をふいた。平和な日常を営んでいればきっと出ないであろう「やりあった宣言」。銀時も思わずジャンプから神楽へと顔を上げた。
「殺し合う程仲が良いっていうアル」
「それどこの国の常識!?」
「神楽ちゃん緋村さんと喧嘩したの!?」
「んー……喧嘩じゃないけど…」
いつも元気な神楽が言葉を濁すのは珍しい。
そもそも、ここ数日の神楽の様子が少しおかしかったのを2人は分かっていた。本人が話そうともしないので敢えて聞かないでおいたが、どうやら緋村も少し関係しているであろう事が今のでよく分かった。
「別に喧嘩とかじゃなくて、ちょっとぶつかっただけアル」
あれは丁度、酸コンブ好きの姫のニュースが流れ始める前日だった。しょぼくれた顔で神楽が帰ってきて、その日は夜ふかしもせずロクに口も開かずすぐに寝床へ着いたのは。
「糸もお仕事だから仕方なかったネ。それに、ちゃんとお別れの時間もくれたアル。あ、でもクビになるかもとか言ってたっけ……?」
「お前アイツと何したんだ?」
全く話が見えてこないのに痺れを切らし、銀時が思わず口を挟んだ。やりあっただ、喧嘩じゃないだ、クビになるかもしれないだ、繋がりのない情報ばかりで余計に混乱した。
何をした、と聞かれて、神楽はあの日の事を思い出す。どこから話せば良いのか悩んで、口を開いたのは夕暮れの歌舞伎町で真撰組と出会った時から話し出した。それはもう、簡潔に。
「歌舞伎町で真撰組と会って、私の傘を糸が刀で応戦してきたアル。終わり」
「もう終わり!?」
「全っ然分かんねぇから!!何で真撰組と戦ってる訳!?しかもアイツと!」
「あっちも必死こっちも必死、だからバトルしたアル。で、糸"このままじゃクビになっちゃうよー"って私に呼びかけてたアル」
「駄目だ、分かんねぇ。誰か通訳連れてきてくれ」
きっと彼女達にしか分からない何かがあるのだろう。話が進みそうにない所で、万事屋の呼び鈴が鳴った。3人の目が合い、即座にジャンケンが始まって、見事に銀時の一人負けが決まった。
めんどくさそうに舌打ちをもらし、今行きますよー、とやる気のない声を上げながら玄関へ向かう。
ガラス戸の向こうには一人分の影しか見えず、それも小柄なシルエットだ。女の依頼者か、と思いながら戸を引けばそこには思わぬ人物が立っていた。
「こんにちは坂田さん」
「!珍しいな、1人か」
「はい、沖田隊長と見回りしてたんですけど邪魔なんで川に突き落としてきました」
「……」
恐ろしい事件が見え隠れした所で、それを覆い隠す程の穏やかな笑顔で銀時に笑いかけるのは、今まさしく話題になっていた緋村だった。
「突然ご訪問してすみません。あの…神楽ちゃんは居ますか?」
「おー。神楽ァー、ちょっと来ーい」
銀時はリビングの方へ声をかけて、良かった居たんだ、と安堵のため息をこぼす彼女へもう一度視線をうつした。
「お前さぁ、この前神楽と喧嘩したのか?」
「え、喧嘩ですか?……した覚えは無いですけど……あ、でも!戦いました!」
「益々訳が分かんねぇ…!」
「さすが万事屋さんの一員なだけあって強いですねぇ。一瞬刀にヒビが入っちゃったかと思いましたよ。…あ、もしかして怒ってます?大丈夫ですよ、本気で斬るつもりなんかなかったですし」
「当たり前ネ、糸がこの歌舞伎町の女王を斬れる筈が無いアル」
「あ、神楽ちゃん久しぶりー」
ニコニコと笑って手を上げる緋村に、神楽も笑顔を返す。一般的な女子なら、刃を交えて普通に接せれるものなのか心底不思議だ。
万事屋と真撰組のそれぞれの紅一点が、こうも仲良くなって顔を合わせる事自体は微笑ましいが、厄介な性格が厄介な出来事を起こさない様にとだけを銀時は願っておいた。
「今日は神楽ちゃんに渡すものがあって来たの」
「何アルか?」
「姫様からの預り物。神楽ちゃんに届けてくださいって昨日頼まれたから」
「そよちゃんに会ったアルか!?」
「うん、護衛の仕事があったからね。元気そうだったよ」
「そっかぁ……!」
姫様、そよちゃん、護衛…。
傍から聞いてた銀時と新八も、その言葉をさす意味が全く分からない訳ではない。緋村の口から出た姫様と、神楽が呼んでいるそよちゃんとは、もしかしたら今酸こんぶブームを巻き起こしている、あの……?
「はい、これ」
「?酸こんぶの箱アルか?」
「中に手紙が入ってるみたい。この前の一件で姫様の自由がもっと縛られちゃって、手紙すら出せなくなってるの。でもその箱に入れたら私が外に持ち出してもバレないでしょ?まさか真撰組の隊士が加担してるとは思わないだろうし」
「嬉しいアル!!!ありがと糸!!」
「どういたしまして。あと少しでもしたら姫様の自由ももう少しは許されると思う。いつか会いに行けたら良いね」
「こ、今度行くのはいつアルか!?」
「まだ分からないけど……行く時には、手紙の返事を取りに来れば良いんでしょう?」
肩をすくめてニコリと笑う緋村に、神楽は勢いよく抱きついた後に腕をしめる。
「ありがとう!糸大好きアル!!」
「えへへ、どういたしまして。そして神楽ちゃん、痛い、あと苦しい」
「大好きアルゥウウ!!!」
「いだだだだだ!!!!」
夜兎の渾身の抱擁を受けて若干彼女の目に涙がたまってくる。
この前は頭踏んづけてごめんネ、と謝る神楽に、別に良いよ、とあっさり許す緋村。頭を踏んづける動作なんて日常にあるだろうか、と思わず新八が頭を悩ませた。
「ちょっと一回離そうか神楽ちゃん!何か口から出そう!」
「糸ほんっと大好きアル!そよちゃん連れ戻しに来た時は嫌だったけど、やっぱり糸は私の友達アル!!」
「友達なのは分かったから一回離そう!いだだだだ!!!!」
「……何はともあれ、彼女達にしか分からない事があったんでしょうね」
「神楽の攻撃を受けて生きてるとは中々…。って言うか緋村あれ死ぬんじゃね」
「とか何とか言ってー、実は神楽ちゃんが羨ましいとか思っちゃってんじゃないんですか~?」
「…………」
「マジでか」
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