どぎまぎ
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「あれー?坂田さんじゃないですか。こんにちは」
「……こんにちは」
やって来た茶屋の暖簾を同時にくぐった人物が居たと思えば、それはまさしく緋村であった。この前のような重い空気もなく、朗らかに挨拶をしてくるこの人の良さ…。屯所には勿体ねぇなと思いながら店内に入った。
「いらっしゃいませ。2名様でよろしいですか?」
営業スマイルの店員に迎えられ、俺たちは有無を言わさず相席となった。
「何かすみませんね。もしかして誰かと待ち合わせとかしてたんじゃないですか?」
「や、別にんな事ァねぇけど……あんたは?」
「私は休憩がてら来ただけですよ」
休憩中なのに腰には刀がしっかりとあって、夜に溶け込みそうな藍色の着物を着ていた。
「この前みたいな色の着物は着ねぇの?」
「え?」
「刀も持ってきちまって……ホント物騒な集団だな」
「何か癖みたいになってきますよね」
照れ笑いをしながら刀を持って座っているその様は何とも不思議なもんだ。黒髪は肩より少し長くて、シンプルに後ろで結われている。よくよく見てみれば、その髪の先端は異様にギザギザで、大袈裟に言うと使い古した歯ブラシのように傷みまくっていた。
「緋村……お前、髪の毛刀で切ったろ」
「……………」
目を見開かせ、片手で自分の髪をいじり始めた。まるで確認しているかのようだが、一番よく分かったいるのは自分自身だろう。数秒して、ばれました、なんて疑問系で言ってくる。だから照れながら言う事じゃなくね?
その髪の経緯は非常に簡単だった。
お金も無ければ時間も無くて、刀だけありましたから。
そりゃ刀で切るしかねぇ……って何でじゃァァアア!!!それが最善策という訳では無い筈だ。
「また伸びてきちゃいましたね……(刀で)切ろうかな」
「待て待て待て待て待て待て」
きっとまた刀で切るつもりなのだろう。ここまで緋村に突っ掛かるのは何故だか分からないが、取り敢えず女子として刀で髪を切るなんざ言語道断。せっかく良い質なのに、これではあまりにもよろしくない。
「切るんなら俺が切ってやる」
「や……でも悪いですし……持ち合わせもそんなに…」
「金はいい。とにかく自分で切んなよ。あとショートカットにすっけど良いな?」
「私もショートはどんとこいですよ!」
……ショートカット?
はて、何か気になるが、取り敢えず目に入った服装に自然と眉間にシワが寄った。
やはり休憩と言えど、二十の女が藍色1枚では華が無さすぎる。
「……服も少し気にかけろよ」
「服ですかぁ?」
「闇に還りたいお色ダネ」
「んー…。私が華やかなもの着てても仕方なくないですか?」
「この前の桜色のは」
「あれは隊士のお姉様がお古を下さったんですよ〜。ほんとありがた〜い」
こいつは、町娘のようにお洒落に対して関心がそんなに無いのだろう。
「……何か自分の着物ぐらい持っといた方が良いぞ。藤色みたいな着物…」
「藤色ですか?良い色ですよね、お財布と検討してみます!」
……藤色?
はてさて、また気にかかる。そう考える俺をよそに、甘味が運ばれてきた。緋村の方だった。
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