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いつもバレーボールのことばかり考える私に、自分の身の回りに気を遣うなんて思考がある訳がなかった。
それじゃ駄目だよ、と優しく私を叱ったのは大学時代の彼氏。
かなり名の知れたモデルだと言うのに、何故私と付き合ったのかは未だ分からない。
「凛の髪、きちんとしたら綺麗なんだから」
「普通、だと思うけど」
「そんなこと無いよ」
ちょっと癖ッ毛だけど、凄く綺麗。
ドライヤーの風で少し聞こえ辛かったものの、里津花の穏やかな声は私の鼓膜をしっかりと揺らす。
「自分でもちゃんとやって欲しいけど、そうすると俺がやることなくなっちゃうなぁ」
「どうせ私やらないから、里津花がやることなくなることなってないよ」
つっけんどんに返すと、背後でドライヤーの電源を切った里津花が小さく笑った。
「何か複雑だな、それ」
どうして、と百八十度捻ろうとした身体は里津花によって戻される。
「こら、凛」
その叱り方は、まるで母親だ。
一度それを零したら膝詰めの説教を喰らったので、心の中だけに留めておく。
「動かない。乾かし終わったけど、まだ終わってないからね」
「はぁい……」
里津花は中性的な顔をしていて、案外力が強い。
否応なく再び前を向かされた私は大人しくしている他ない。
じっとしているうちに、終わったようだ。
「はい、お疲れ様」
「ありがと」
今度こそ身体を捻って里津花の顔を見る。
「どういたしまして」
ふっと笑みを浮かべた里津花に、悩みがあるなんて知らなかった。
*******************
あれから、もう四年だ。
歳月が経つのは早い。
いつの間にか里津花とは別れて、別々の道を歩んでいる。
別れる際に言われた言葉と『御守り』は、今も私の手元にある。
――バレーを続けることは辛いかもしれない。でも、周りに押し潰されちゃ駄目だ。身を引く時は凛自身のタイミングで、だよ。
コートで大きく飛べるように、と渡された『御守り』のミサンガは、足に付けている。シューズとの摩擦で少し糸が切れ始めている。
ロッカールームに、スタッフがやってくる。
「そろそろ時間です!」
スタッフからの呼びかけに応え、ベンチから立ち上がる。チームメイトと肩を並べ、ともにコートへの一歩を踏み出す。
座っていたベンチの傍に私を守ってくれた紐が落ちたことに、私は気づかなかった。
END.
それじゃ駄目だよ、と優しく私を叱ったのは大学時代の彼氏。
かなり名の知れたモデルだと言うのに、何故私と付き合ったのかは未だ分からない。
「凛の髪、きちんとしたら綺麗なんだから」
「普通、だと思うけど」
「そんなこと無いよ」
ちょっと癖ッ毛だけど、凄く綺麗。
ドライヤーの風で少し聞こえ辛かったものの、里津花の穏やかな声は私の鼓膜をしっかりと揺らす。
「自分でもちゃんとやって欲しいけど、そうすると俺がやることなくなっちゃうなぁ」
「どうせ私やらないから、里津花がやることなくなることなってないよ」
つっけんどんに返すと、背後でドライヤーの電源を切った里津花が小さく笑った。
「何か複雑だな、それ」
どうして、と百八十度捻ろうとした身体は里津花によって戻される。
「こら、凛」
その叱り方は、まるで母親だ。
一度それを零したら膝詰めの説教を喰らったので、心の中だけに留めておく。
「動かない。乾かし終わったけど、まだ終わってないからね」
「はぁい……」
里津花は中性的な顔をしていて、案外力が強い。
否応なく再び前を向かされた私は大人しくしている他ない。
じっとしているうちに、終わったようだ。
「はい、お疲れ様」
「ありがと」
今度こそ身体を捻って里津花の顔を見る。
「どういたしまして」
ふっと笑みを浮かべた里津花に、悩みがあるなんて知らなかった。
*******************
あれから、もう四年だ。
歳月が経つのは早い。
いつの間にか里津花とは別れて、別々の道を歩んでいる。
別れる際に言われた言葉と『御守り』は、今も私の手元にある。
――バレーを続けることは辛いかもしれない。でも、周りに押し潰されちゃ駄目だ。身を引く時は凛自身のタイミングで、だよ。
コートで大きく飛べるように、と渡された『御守り』のミサンガは、足に付けている。シューズとの摩擦で少し糸が切れ始めている。
ロッカールームに、スタッフがやってくる。
「そろそろ時間です!」
スタッフからの呼びかけに応え、ベンチから立ち上がる。チームメイトと肩を並べ、ともにコートへの一歩を踏み出す。
座っていたベンチの傍に私を守ってくれた紐が落ちたことに、私は気づかなかった。
END.
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