2.『悪女』殲滅作戦?
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ヒロインの名前ヒロインの名前は2ページ以降登場します。
デフォルト名特有の話の流れがあるので、設定した名前によっては話が噛みあわない場合があります。
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女性が走った先にあったのは、隠れ家のような雰囲気のあるカフェ。
走った勢いのままドアを開き、中に入っていった。
「くっそ!」
翼は舌打ちとともに速度を上げ、カフェのドアを勢いよく開いた。
「いらっしゃ……うわぁお」
中途半端な挨拶の発生源はカフェの店員らしき青年。こちらを見て引き攣った笑みを浮かべていた。
周りを見ると、客はいない。ただ一人、大と翼より前に入って来た女性を除いては。
そしてその女性はカウンターに鞄を置いて肩で荒く息をしながら、こちらを凝視していた。
「あん、たなぁ!」
大股で女性に近づいた翼は、大が止めなければ女性に掴みかかっていただろう。
「おい、止めろ!」
「アンタ、里津花のこと利用して! どういうつもりだ!」
「は……?!」
女性から飛び出たのは、困惑に近い声。
「ちょ、どういう……」
「里津花を弄んでるってなら承知しないからなッ!」
また一歩詰め寄る翼に、女性は一歩下がりながら眉に皺を寄せた。
「あいつから何も話がないなら、私から言う権利はない」
ふい、と翼から顔ごと視線を逸らした女性。
翼は肩を怒らせ、更に詰め寄る。
「んだと?!」
「いい加減にしろって!」
大が止めに入るも、怒りにスイッチが振り切れた翼を簡単に止められる訳がない。
どうしようかと考えていると、
「ちょいちょいちょいお兄さん方ストップ!」
バタバタと慌てたような足音とともに、翼と女性の間に先程の青年が入る。
「高塚、」
女性が翼を睨んだ状態のまま青年に呼びかける。
背後に庇った女性を一度見た『高塚』と呼ばれた青年は、すぐこちらに視線を戻した。
「梓さん、取り敢えず黙って。今、梓さんが喋ったら拗れる」
「あ?!」
高塚の一言に、女性が一気に喰らい付いた。
だが、彼にとっては慣れたもののようだ。女性の方に再び向き直る。
「ホラそうやって喧嘩腰になるから黙っててって言ってんのに! 里津花さんにこっぴどく叱られれば良いんだっ!」
すると、女性は一気に顔を引き攣らせた。
「ちょ、高塚それだけは、」
「残念賞、もう通報済みです」
「こんの……!」
どうやら、この中での力関係は青年の方が上らしい。
ひらひらと持っていたスマホを女性の方に振った高塚はニヤリと笑みを浮かべていた。
こちらからは見えないが、話の流れから見るに電話なりLINEなりで里津花に繋いだのだろう。
今にも高塚に喰ってかかろうとした女性の足を止めたのは、カウンターの方から聞こえる着信音。
流れているメロディは、明らかに里津花のソロ曲だ。
ここで女性が頬を染め上げていれば少女漫画の筋書き通りだが、現実はそうもいかない。
女性は顔が赤くなるどころか、心なしか青い。慌ててカウンターに置いていた鞄からスマホを取り、耳に当てていた。
「はい、こ……」
少し上擦った声は、途中で止まった。
「いや、これはその、違うって! 仕事は大丈夫! ……ホントだって!」
電話の向こうの声は聞こえないが、誰が相手か予想はつく。
「これは……里津花お怒り?」
「……だろうな」
頬を引き攣らせる翼に、大は溜息を吐く。
女性と里津花の話はまだ終わらないようで、必死に取り繕おうとしている言葉が聞こえる。
「家まで来なくても良いって! 何かあったら……!」
こちらに背を向けた女性が、「うぐっ」と喉を詰まらせる音を出した。
「すみませんでした……。……分かった、鍵開け……、はい、待って、ます……」
ようやく電話が終わったようで、耳を機械から離し、親指を滑らせていた。
そして出たのは、深い溜息。
「梓さん、何怒られたの」
怪訝な表情を浮かべた高塚に、女性が溜息を吐く。
「さっきのが仕事うまくいってない時の八つ当たりじゃないかって疑われて、あと3日前から夕食以外抜いてるのバレた」
「あーあ」
呆れたように溜息を吐く高塚。
「……あの、」
このままでは埒が明かない。そう判断した大が口を開く。
「今のって」
「あぁ……」
疲弊した様子の女性が、深い溜息とともに頷いた。
「お察しの通り、貴方達が一緒にユニットやってる世良里津花から。一応……、私はあの人の彼女……になります」
いかにも気まずい、といった表情で告げた女性の言葉。次第に視線が逸らされ床に落ちて行ったのも、致し方ない。
だが高塚は、それに茶々を入れてきた。
「今の、里津花さんが聞いたら拗ねるなー。言ってやろ」
「言うな馬鹿! これ以上罪状増やされたらこっちの身体が持たない!」
罪状って、と突っ込む前に、女性の顔を見て固まってしまう。
顔を真っ赤にしながら身体が持たない、と言った。それはつまり、そういうことだろう。
例によって、また茶々を入れるのは高塚だ。
「ひゃー梓さん昼からえっちぃ」
「お、前なぁ!」
「若いのは良いことですが、時と場所を弁えなさい」
正論を投げたのは、いつの間にかカウンターの中にいた壮年の男性。しかし、その声色は窘めるものではなく少々からかう口調だった。
それをすぐに察知した女性は、悲鳴とともに壮年の男性の方へと悲鳴を上げた。
「マスター!」
「そろそろ彼も来るでしょうから、気をつけなさい」
「嘘ですよねそれ?!」
ぎょっと目を見開きカウンターの方へと乗り出す女性。
対するマスターは軽く笑い声を上げるだけで、何も返さない。
彼らの茶番劇(仮)を見せられ、大達は呆然とするほかない。
「何か、ちょっとあの人可哀想になってきたかも」
最初は悪女呼ばわりしていた翼も、さすがに言えなくなったようだった。
そうこうしているうちに、新たな来客。
背後から軽やかな音が響き、高塚が「いらっしゃいませー」と声を掛ける。
「噂をすれば里津花さんじゃないですかー!」
ご無沙汰してますー! とカフェの内装に似合わぬ大声が聞こえた。
「元気そうだね、高塚君。梓、いる?」
「もっちろぉん! 絶賛確保済みでーす!」
「ありがとう。ここ1週間くらい逃げられてたから」
「うっわぁ梓さんギルティ」
ぽんぽんと交わされる会話の中で、女性が心配になってくるのは自分だけだろうか。
大は思わず翼の方を見る。
「大、翼」
明るい声だが、大は肩を強張らせた。
「り、里津花……」
翼と2人、背後を振り返る。
翼の声が引き攣っていた。
「何か、誤解させちゃったみたいだね」
困ったように笑う里津花。
そのまま大と翼の間を通り抜け、カウンター席にいた女性の隣で足を止めた。
ぎくりと肩を跳ねさせた女性を余所に、里津花はその肩をそっと抱いた。
「この子は梓。俺の彼女なんだ」
そう紹介された女性、もとい梓は、引き攣った笑みを浮かべて「どうも」と軽く頭を下げた。
――正直に言おう。
もう少し状況が平和な時に紹介して貰いたかった。