1.彼は猫? 犬? それとも狼?
夢小説設定
ヒロインの名前ヒロインの名前は2ページ以降登場します。
デフォルト名特有の話の流れがあるので、設定した名前によっては話が噛みあわない場合があります。
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それから数日後、高塚が危惧していた事態が発生した。
いつも通り店で会う日時を決め、里津花はカウンターで酒を嗜みながら梓を待っていた。
しかし、当の梓は30分が過ぎても姿を現す気配がない。
メッセージアプリに何か連絡がないかと確認してみるが、日時のすり合わせをした時点から何も新しいメッセージが来ていない。
電話でもするか、と携帯を持った時だった。
入口のドアに掛かったドアチャイムが軽やかに鳴る。
マスターと高塚が「いらっしゃいませ」と声を飛ばす。
丁度里津花と話をしていた高塚は入口の方を振り向きーーーひゅ、と息を詰まらせた。
「ごめん、遅れた……」
重い足取りでこちらまでやって来たのは、梓だった。
余程急いでいたのか、息は荒くスーツが僅かに乱れていた。
「梓さん?! 大丈夫なんですか?!」
スツールに腰掛けようとする梓に、高塚が詰め寄る。
対する梓は視線だけ上に向け、端的に注文する。
「高塚、いつもの」
「梓さん、悪いことは言わない。裏で休んでいきなさい」
テーブル席の応対をしていたマスターが戻ってくる。その顔は、厳しい。
声を掛けられている当人は、マスターの顔を見る気配がない。
「ちょっと走って疲れただけですよ。大丈夫です」
「小溝さん」
里津花は梓の顔を覗き込む。
「何、世良」
ゆっくり、というよりも重い身体を何とか動かそうとするかのように、梓が里津花に視線を動かす。
「ごめんね」
一言断りを入れ、手の甲を梓の額に当てる。
梓が驚く様子はない。寧ろ、里津花の体温を甘受するかのように小さく息を吐いた。
「マスター、奥借りても良いですか?」
里津花の一言で、状況を察したマスターは静かに頷いた。
「どうぞ。後で薬を持っていくよ。高塚君、案内してあげてくれ」
「分かりました」
高塚が頷き、先を案内するように歩き始める。
「ありがとうございます」
里津花は小さく頭を下げ、スツールを降りる。そのまま梓の身体を自分に寄り掛からせ、降ろした。
その間も、抵抗する様子はない。意識もあるかどうか怪しい。
高塚の案内で入ったスタッフルームは、一般家庭のリビングと近かった。
梓さんのこと頼みます、と頭を下げてきた高塚は小走りで店の方へ戻っていく。
残された里津花は、足取りのおぼつかない梓の手を取りソファに誘導した。
「パンプス脱いで、寝て」
「寝てって言われても」
意識が少しはっきりしてきた様子の梓は困ったように視線を泳がせる。
「良いから」
有無を言わせないよう真っ直ぐ梓の目を見れば、観念したようにパンプスを脱ぎ始めた。そして一息吐き、のろのろとソファに寝そべった。
羽織っていた上着を足元に掛けてやる。
「寒くない?」
梓の肩を擦ると、ほぼ焦点が合っていない瞳が向けられる。
「……部屋、寒い」
「……重症だね」
スタッフルームは里津花が上着を脱いでも大して気にならない程度には温かくなっている。
そんな中で寒さを訴えるのだから、普通の状態ではない。
里津花は傍にしゃがみ、ゆっくりと頭を撫でる。
次第に瞼は閉じていき、小さな寝息が聞こえた。
「世良さん、どうですか」
丁度入って来た高塚の手には、梓と里津花の手荷物があった。
ごめんね、と詫びを入れ、両方とも引き取る。
「すぐに寝た」
「ですよね……」
高塚と二人、深く溜息を吐いた。