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二口くんとのお話

「ねぇ、これとかいいじゃん!黒のTシャツに袖のところにブランドのロゴがちっちゃく入ってるだけだからシンプルだし、派手なのが苦手な堅治だって着れると思うの!」

スマホにTシャツの画面を表示させて堅治に突きつける。

「だーかーらー、なんでお前とお揃いのTシャツ着なきゃいけねぇんだよ?部活の練習で着るんだから汗かくし汚れるし、服なんか何だっていいだろ」

蒸し暑さで機嫌が悪いのも相まって、しかめっ面で睨み返す堅治。

事の発端は、男バスのマネージャーをやってる女友達が、彼氏であるキャプテンと色違いでお揃いのTシャツを着ているのを見かけたこと。
「一緒に選んで買ったんだよ」ってはにかんで答えた友達が、とてつもなくかわいくて、それと同時にものすごく羨ましくなったのだ。

「お前がなんて言おうと、お揃いなんて勘弁だからな?わかったか?」

普段からぶっきらぼうで口の悪い堅治の、いつも以上に荒々しい口調に圧倒され、撃沈してしまった…

付き合い初めてもうすぐ3か月。
そろそろ前に進んだって、お揃いを持ったっていいじゃん。
同級生で選手とマネージャーという関係から何となく抜け出せず、平行線を辿ったままの距離感に焦りを感じる。

「贅沢言うな…ってことかな」
幸せが逃げるかもなんて、そんなこと思う前に大きなため息をついた。

男バレはインターハイ予選で敗退してしまって、3年生が引退した今は、堅治や青根くんが中心となって春高に向けて猛練習をしている。
デートなんかしてる暇はない、分かってるけど…だからこそ、お揃いを持つことで繋がりを持ってたかった。

それよりも。
同じマネージャーをやってる滑津ちゃんと堅治のペンケースが、偶然だけど色違いでお揃いなんだよぉ…
たぶん偶然なんだけどね、文具好きの私はすぐピンってきちゃった。
あのメーカーのペンケース、推し活向けの商品だからカラバリも多くて、使いやすくて、シンプルだからキーホルダーとかつけてデコってもかわいいんだよね。
たまたまだとしても妬いちゃうよ。

私、まだ堅治と「お揃い」がないんだもん…

部活から家に帰るとネットで注文してた服が届いてた。
お母さんがボーナス出たから服を買っていいわよって言ってくれて、デートで着れたらいいなって思った黒のフリルのワンピースと、部活中に着たいなって思ったスポーツブランドのTシャツを注文してたんだ。
黒のフリルのワンピースは膝丈で、ちょっと清楚系な感じ。サンダルに合わせてかわいく着れたらいいな。
Tシャツは薄い黄色に、裾の方にブランドのロゴが水色で書いてあって、左側の袖にブランドのワッペンが付いてる。黄色に水色って夏って感じ!明日部活でこれ着よう!

********

次の日。
Tシャツの色とリンクさせたくて、ツインテールにしたヘアゴムを黄色にしてみた。
黄色がパステル系の薄い色だから、伊達工のジャージの緑と合わせても派手になりすぎすかわいい…よね?

「おはようございます!」
ルンルンで体育館に入ったら、アップ中の黄金川くんに「おはようございます、先輩!」って笑顔で迎えてもらった。
あれ?黄金川くんのTシャツ…
白Tシャツで、裾に緑のロゴのプリントがあって、袖にブランドのワッペンがついてる。

もしかして…

「黄金川くん、そのTシャツ、イロチでお揃い!ほら、見てみて!」
裾を引っ張って、プリントされたブランドのロゴを見せる。
「うわー、マジっすね!俺もこのブランド好きで、これ裾のロゴが緑で俺の高校じゃんって思って買ったんすよ」
「たまたまだけど、お揃いって仲間って感じでいいねー」
「そうっすね、先輩と俺は仲間ってことで」

イエーイって、ハイタッチを交わして騒いでたら。

「ちょっと何騒いでんの?」
2人の間に体を割り込ませてきた堅治。

「あ、二口先輩、見てくださいよ、〇〇先輩と俺のTシャツ、たまたまなんすけどお揃いで、いやー仲間って感じでいいっすね」
しっぽ振って喜んでる子犬みたいに、キラキラな目をして嬉しそうな黄金川くん。

「あぁ?……ちょっと、〇〇、こっち来い」
いきなり堅治に腕を引っ張られて体育館の裏に連れていかれる。

「待ってよ、何?どうしたの?」
何とか逃げようと抵抗するものの、男の子の力にかなうわけもなく、体育館裏の壁を背にするように追い込まれてしまった。

「なんで黄金川とお揃いだからって浮かれてんの?」
明らかに機嫌の悪そうな顔を近づけてきて、睨んでくる堅治。
「浮かれてないよ…たまたまじゃん…」
びくびくしながら答える。目を合わせたら終わりだ…と本能的に感じて、思わず逸らしてしまう。
「なんかモヤモヤする。お前が俺以外の奴とお揃い着てて楽しそうにしてるの、許せねぇ」
「だけど堅治、お揃い着たくないって…」
「…着たくないわけじゃねぇよ……恥ずかしいだけ…くっそ、こんなこと言いたくねぇけど」

顔を真っ赤にしながらボソッと呟く堅治が、なんだかかわいくて愛おしくて、思わず抱きついてしまった。

「はあ?お前、なんしてんだよ」
「妬いたんだ?かわいいねぇ笑」
「違ぇよ、妬いてねぇ」
「その割には、ちょっと焦ってる」
「…うっ…妬いた、すげぇ妬いた」
「じゃあ、お揃い着てくれる?」
「わかったよ、部活終わったらTシャツ見に行くぞ」
「あとさ…ペンケースもお揃いにしたい」
「なんで?」
「滑津ちゃんと堅治のペンケース、お揃いなの…偶然だと思うけど…ちょっと見てて辛い」
「そうなんだ…って、お前も妬いてんじゃねぇか、わかったよ、文具も見に行こうな」
「うん、堅治ありがと、好き」
「なんだよ、こんなとこで、俺も好きだよ」

二口、〇〇ちゃん、どこー?そろそろ部活始まるよー!
滑津ちゃんの声が聞こえて、
「しゃーないなぁ…戻るか」って差し出された大きな手。
「うん、今日も頑張ろうね」
その手を取り体育館に戻った。

その日から、2人だけのお揃いが増えて、特別が増えて、秘密も増えた。
他の子達より、デートの回数も少ないし、進む速度もゆっくりだけど、焦らないで2人のペースで歩いて行けたらいいな。
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