PKMN二次創作
ポケモン・アカデミアへ入学するに当たって、”己が捕まえたポケモン”を一匹以上連れていることというのが絶対の条件である。
更にポケデミアは全寮制であり、決められた場所以外でポケモンを出すことはポケモンの体長、重さによって厳しく制限されている(自室でホエルオーなど以ての外である)。
ポケデミアは八年制である。
学期ごとに進級試験があり、合格者にはその権利と、バッヂを進呈される。これは、ポケモンリーグ公式のものと効果を同じくする。
つまり、入学時にレベル100のポケモンを連れていたとしても、卒業時までいうことを聞くことがなくなる。これは、同学年間で格差が大きく出ないようにする苦肉の策である。
▼▽▼▽▼▽
レンリは担任の言語学教師・サクヤのホームルームを受けながらも、昨日自身に起きた不思議な出来事について反復をしていた。
転校してきたばかりのレンリを迎えたのは、以前ポケモンスクールに通っていた時と全く同じ、熱烈な歓迎であった。
有名な俳優の親を持つ子、特有のもの。
瓜二つとまではいかないが、その恵まれた容姿と環境は、彼が老いて朽ち果てるまで存分に発揮されている。
そして不気味がられている教師・シャラの登場。
彼に言われるがまま連れられ、向かったバトルコートで現れた第二の刺客(などといったら語弊があるが……)。
アキラと紹介されたポケモントレーナーは、何故か自分のポケモンを使わずに対峙してきた。
(シャラ先生のポケモンにしては、言うことを聞いていたな)
と、机の下でポケデミアの生徒手帳を広げて
要項を確認する。
確か、進学試験を受けないと、バッヂを貰えなかったはずだ。そのバッヂの効果には、”人からもらったポケモンのいうことを聞く”ものもある。
勝利した暁には、自分を連れてきた目的を話してもらうつもりであったが、それは誤魔化されてしまった。
しかし、その代わりにもたらされたのは……
「レンリくん、レンリくんったら! 次は移動教室だって。バトルコートCの場所は分かるわよね?」
隣の席のハンナの声がする。
昨日自己紹介された際には、頬を赤く染め上目に「私はクラスの委員長だから、なんでも聞いてちょうだいね!」と、引っ付いて回ってきた彼女が、今日はなんとも思わない様子でレンリを突き放す。
「あ、ああ……ありがとう」
そう答えるが、もう彼女の姿はない。
レンリは仕方がなく、ポケデミアの地図を確認しなければならなかった。
▼▽▼▽▼▽
バトルコートCはガラル地方のジムを参考にしたもので、観客を多く収容できる造りになっていた。
圧倒的な広さに唖然とするレンリだったが、クラスメイトはもう慣れたもので、友人同士でおしゃべりを交わしている。
(……もうグループが出来上がってしまっている)
望まずとも常に人に囲まれて育ってきたレンリは、生まれて初めて孤独に苛まれることになっていたのだった。ボールの中のラルトスも、混乱を隠せないのかフルフルと震えている。
そんな気まずい思いに気付いたのか、お情けで声をかけてこいと周りに言われて来たのは、転入のときには真っ先に声をかけてきたトレーナーであった。
「おおい、転入生! ここでのバトル実用学は初めてだよな」
「ああ……」
まさか昨日、アキラとバトルをしたとも言えず、曖昧に答える。
「まあ、難しいこと考えなくても、普通に当たった相手とバトルすれば大丈夫だからさ。そんなに硬くなるなよな」
「ありがとう……」
ポン、と肩を叩くと、その生徒は元のグループへと戻って行く。
昨日といえば、「おれ、レンリの親御さんのサイン欲しいんだよな」などと強請ってきたのだが……
「さあみんな、楽しい楽しいバトル実用学の時間だぞ! …………うん?」
などと考えていると、授業の始まる鐘とともに現れる教師。そして、レンリに気づいた反応に、何故か期待してしまう彼であった。
「ああ、転入生か。自己紹介しよう、私はユズカ。バトル実用学の教師で、1-Aの担任だ」
「……えっと。レンリです」
思った通りの反応ではなかったので、気落ちしてしまうレンリであった。
「なかなかいい目をしているな!だが、バトルの腕はどうなんだろうな。そうだ、いつもはクジでペアを決めるんだが……
おい!誰か彼とやりたいという立候補者はいないか!?」
勝手に話を進めるユズカ。まばらに手が上がる。
その様子にもレンリは息を飲む。昨日は、自分とバトルしたいなどという連中が山ほど詰め掛けたというのに。
「よし、じゃあそこのキミとバトルしてもらおうかな。他のものは私のクジを引き、終えた順にバトルをしてくれ!」
「……よろしくね、レンリさん」
「こちらこそよろしく。……えっと……?」
指名されたトレーナーが歩み寄るが、昨日人に囲まれ一度に自己紹介を受けたレンリには名前がわからない。
「そうよね、まだわからないわよね……私はリハ。クラスメイトなんだから、ちゃんと覚えなきゃダメよ?」
「そっ、そうだね……あははは……」
人からたしなめられた経験の少ないレンリは、思わず苦笑いを浮かべるが、あまりその様子に納得がいかない様子のリハである。
人からーー特に女性にーーそんな顔をされたことのないレンリは、またまた戸惑ってしまい、謝罪の言葉を述べる。
「……ごめんなさい」
「いいわ、許してあげる。でもこの子はどうかしら」
スタスタと歩き自分の位置に立つリハに急かされ、慌てたレンリは走るを余儀なくされたのであった。
「ラルトス、かげぶんしん」
「ぼうぎょの低さをカバーするってわけね。サンド、どくばり!」
たくさんのラルトスの中の一匹へ、サンドのどくばりが当たってしまう。
「フェアリータイプにこうかばつぐん。タイプ相性はわかっているかしら?」
「やるね……ラルトス、かなしばり!」
これではアキラの使った戦法ばかりだな、と口元が緩む。ラルトスも負けじとかなしばりを送り、どくばりを封じ込める。
「くっ……! なら、すなかけよ!」
「なっ!」
土を払うと同時に、ラルトスの視界からサンドが消える。(どこへ隠れたんだ……!?) レンリも見失ったサンドを見回すが、「しまったっ、あなをほるか! ラルトス、テレポー……」
「おそいわ! あなをほる攻撃!」
「……!」
「勝負ありね」
あまりにも早い決着である。レンリは、まだまだ僕には経験が足りていのだとラルトスをボールに戻して息をついた。
「そう……だね。どうもありがとう!」
戦闘不能にやったラルトスを戻し、レンリは笑顔でリハと握手を交わす。
「あら……レンリさんって、よくみるとハンサムかもね?」
「そうかな? あははは……」
『よく見ると』などいう婉曲的な発言と疑問符は、未だ嘗てされたことがない。
しかしレンリはそんなことよりも、バトル中にひらめいた他の戦法を試したくて仕方がなかった。
「ユズカ先生!」
「負けてしまったのか、転入生。次がある!常にファイトだぞ」
「お話ししたいことが……」
監督をしているユズカは教師である。同じ教員同士であるシャラの情報も、聞けるのではないかという確信がレンリにはあった。
「私に聞きたいこと? 」
「はい。シャラ先生には、どこに行けば会えますか?」
常にさっぱりとした態度であったにもかかわらず、シャラの名が出た途端にゲッ、と苦い顔になるユズカ。
「……奴に用など作らんほうがいいぞ、キミ」
「えっ!?」
「すまない、審判をしなくては。今行くぞ!」
そう吐き捨てた後に、別の生徒たちのバトルの監督で呼ばれたユズカは、レンリを置いて立ち去ってしまう。
「なんなんだ……一体……」
その後も、バトルの終わった生徒にシャラの名を出しては居場所を聞くが、逃げんばかりの反応……つまり、随分な嫌われようであった。
最終的には彼の授業になれば自ずと会える! と意気込むレンリに、ポケモン生物学の授業は七年生以上の選択科目という事実さえ襲うのだった。
レンリは、授業がすべて終わり自室に戻ってきた時も、途方にくれ浮かない顔であった。
制服のままベッドに飛び込み、静かにラルトスを呼び出して話しかける。
「なんなんだ、一体。そう、なんていうか、僕ってもうすこし人望あったよね……?」
ラルトスは短い指を前で組み、うんうんと頷いている。
レンリがラルトスを捕まえて、そう長いわけではない。しかし、ラルトスというポケモンの特質上、トレーナーの気持ちにはポケモン一倍敏感であった。
アキラというトレーナー。シャラという教師。
もう一度会って、この事を聞かねばならない……。
アキラというトレーナーが、理事長か誰かの子どもで、緘口令を敷いたとかーー?
後者は教師という立場である以上、職員室に行けば会えるかもしれない。そうだ、担任ではない教師に用を作ってーー
次の休みに、1-Pの教室を訪ねてみるのも悪くないかもーー
慣れない環境で気の張った二日間を過ごしたレンリは、段々うつろうつろとしてくる。
(あ、僕、寝るーー)
頭では色々とやらなくてはならないと分かっているものの、ベッドにダイブしたままの姿勢で、レンリは夢の中へと誘われるのであった。
▼▽▼▽▼▽
レンリのクラスである1-Dがバトル実用学の授業中、1-Pは自由時間を告げられていた。
野生のポケモンを捕まえるも良し、空いているバトルコートでバトルを行なっても良し、バトル山に赴いて己の腕を試すも良し。フェナスシティで買い物を楽しむも良し。
1-Pは少人数制である。
少ないクラスメイトが散り散りに行動する中、アキラは一人躊躇うことなくバトルコートCに向かって行った。
▼▽▼▽▼▽
他のクラスのバトル思考学(バトルを見物し、指示の意図を解明する授業)中でもあったが、だだっ広い観客席に人は疎らであり、アキラはとあるコートをじっくりと眺められる席に静かに腰を落ち着けた。
1-Pの生徒が一人紛れ込んでいると気付かれた時には、ギョッという目で見つめられもしたがアキラがそれを気にかけることはなかった。
ーー無論、己が優先すべきはレンリとリハのバトルである。
ラルトスが回避率を上げ、かなしばりでどくばりを封じ込めた際には、普段からポーカーフェイスであるアキラの表情に少々の変化が見られた。
サンドが砂を撒いた際にリハの勝利を確信したアキラは立ち上がるが、行く手には陰が立ちはだかる。
「あなた……1-Pの生徒よね?」
「ええ、如何にも」
恐る恐る自分の所属先を確かめる女生徒に、アキラは無感情に対応する。
「私、1-Dのハンナ」
「1-Dの委員長ですよね。存じ上げております」
「……そう。
単刀直入に言うけど、うちのクラスの生徒に何か、あなた方がしたんじゃないかと思って……」
「まさか。どうしてそんなことを?」
微笑を浮かべて応対するアキラだが、ハンナの顔は固い。
「転入生が、1-Pに興味を持ってた。あなたたちの存在は、うちの学校には、その」
「タブーだと?」
「そこまでは言わないけど……」
口籠るハンナ。少し息を吐き出してから話を続ける。
「とにかく、あまりちょっかいかけないで欲しいの、お互いのために」
「そんなことしませんよ」
「……他のクラスメイトさんにも伝えておいてね。それじゃあ……」
そそくさと退散するハンナを氷のような目で見つめるアキラ。やがて、静かに口を開く。
「……ええ。そんなことしませんよ。
“こちら”からは、ね」
アーボックように口元を吊り上げたトレーナーの表情を見るものは、アキラのポケモンたちしかいなかった。
更にポケデミアは全寮制であり、決められた場所以外でポケモンを出すことはポケモンの体長、重さによって厳しく制限されている(自室でホエルオーなど以ての外である)。
ポケデミアは八年制である。
学期ごとに進級試験があり、合格者にはその権利と、バッヂを進呈される。これは、ポケモンリーグ公式のものと効果を同じくする。
つまり、入学時にレベル100のポケモンを連れていたとしても、卒業時までいうことを聞くことがなくなる。これは、同学年間で格差が大きく出ないようにする苦肉の策である。
▼▽▼▽▼▽
レンリは担任の言語学教師・サクヤのホームルームを受けながらも、昨日自身に起きた不思議な出来事について反復をしていた。
転校してきたばかりのレンリを迎えたのは、以前ポケモンスクールに通っていた時と全く同じ、熱烈な歓迎であった。
有名な俳優の親を持つ子、特有のもの。
瓜二つとまではいかないが、その恵まれた容姿と環境は、彼が老いて朽ち果てるまで存分に発揮されている。
そして不気味がられている教師・シャラの登場。
彼に言われるがまま連れられ、向かったバトルコートで現れた第二の刺客(などといったら語弊があるが……)。
アキラと紹介されたポケモントレーナーは、何故か自分のポケモンを使わずに対峙してきた。
(シャラ先生のポケモンにしては、言うことを聞いていたな)
と、机の下でポケデミアの生徒手帳を広げて
要項を確認する。
確か、進学試験を受けないと、バッヂを貰えなかったはずだ。そのバッヂの効果には、”人からもらったポケモンのいうことを聞く”ものもある。
勝利した暁には、自分を連れてきた目的を話してもらうつもりであったが、それは誤魔化されてしまった。
しかし、その代わりにもたらされたのは……
「レンリくん、レンリくんったら! 次は移動教室だって。バトルコートCの場所は分かるわよね?」
隣の席のハンナの声がする。
昨日自己紹介された際には、頬を赤く染め上目に「私はクラスの委員長だから、なんでも聞いてちょうだいね!」と、引っ付いて回ってきた彼女が、今日はなんとも思わない様子でレンリを突き放す。
「あ、ああ……ありがとう」
そう答えるが、もう彼女の姿はない。
レンリは仕方がなく、ポケデミアの地図を確認しなければならなかった。
▼▽▼▽▼▽
バトルコートCはガラル地方のジムを参考にしたもので、観客を多く収容できる造りになっていた。
圧倒的な広さに唖然とするレンリだったが、クラスメイトはもう慣れたもので、友人同士でおしゃべりを交わしている。
(……もうグループが出来上がってしまっている)
望まずとも常に人に囲まれて育ってきたレンリは、生まれて初めて孤独に苛まれることになっていたのだった。ボールの中のラルトスも、混乱を隠せないのかフルフルと震えている。
そんな気まずい思いに気付いたのか、お情けで声をかけてこいと周りに言われて来たのは、転入のときには真っ先に声をかけてきたトレーナーであった。
「おおい、転入生! ここでのバトル実用学は初めてだよな」
「ああ……」
まさか昨日、アキラとバトルをしたとも言えず、曖昧に答える。
「まあ、難しいこと考えなくても、普通に当たった相手とバトルすれば大丈夫だからさ。そんなに硬くなるなよな」
「ありがとう……」
ポン、と肩を叩くと、その生徒は元のグループへと戻って行く。
昨日といえば、「おれ、レンリの親御さんのサイン欲しいんだよな」などと強請ってきたのだが……
「さあみんな、楽しい楽しいバトル実用学の時間だぞ! …………うん?」
などと考えていると、授業の始まる鐘とともに現れる教師。そして、レンリに気づいた反応に、何故か期待してしまう彼であった。
「ああ、転入生か。自己紹介しよう、私はユズカ。バトル実用学の教師で、1-Aの担任だ」
「……えっと。レンリです」
思った通りの反応ではなかったので、気落ちしてしまうレンリであった。
「なかなかいい目をしているな!だが、バトルの腕はどうなんだろうな。そうだ、いつもはクジでペアを決めるんだが……
おい!誰か彼とやりたいという立候補者はいないか!?」
勝手に話を進めるユズカ。まばらに手が上がる。
その様子にもレンリは息を飲む。昨日は、自分とバトルしたいなどという連中が山ほど詰め掛けたというのに。
「よし、じゃあそこのキミとバトルしてもらおうかな。他のものは私のクジを引き、終えた順にバトルをしてくれ!」
「……よろしくね、レンリさん」
「こちらこそよろしく。……えっと……?」
指名されたトレーナーが歩み寄るが、昨日人に囲まれ一度に自己紹介を受けたレンリには名前がわからない。
「そうよね、まだわからないわよね……私はリハ。クラスメイトなんだから、ちゃんと覚えなきゃダメよ?」
「そっ、そうだね……あははは……」
人からたしなめられた経験の少ないレンリは、思わず苦笑いを浮かべるが、あまりその様子に納得がいかない様子のリハである。
人からーー特に女性にーーそんな顔をされたことのないレンリは、またまた戸惑ってしまい、謝罪の言葉を述べる。
「……ごめんなさい」
「いいわ、許してあげる。でもこの子はどうかしら」
スタスタと歩き自分の位置に立つリハに急かされ、慌てたレンリは走るを余儀なくされたのであった。
「ラルトス、かげぶんしん」
「ぼうぎょの低さをカバーするってわけね。サンド、どくばり!」
たくさんのラルトスの中の一匹へ、サンドのどくばりが当たってしまう。
「フェアリータイプにこうかばつぐん。タイプ相性はわかっているかしら?」
「やるね……ラルトス、かなしばり!」
これではアキラの使った戦法ばかりだな、と口元が緩む。ラルトスも負けじとかなしばりを送り、どくばりを封じ込める。
「くっ……! なら、すなかけよ!」
「なっ!」
土を払うと同時に、ラルトスの視界からサンドが消える。(どこへ隠れたんだ……!?) レンリも見失ったサンドを見回すが、「しまったっ、あなをほるか! ラルトス、テレポー……」
「おそいわ! あなをほる攻撃!」
「……!」
「勝負ありね」
あまりにも早い決着である。レンリは、まだまだ僕には経験が足りていのだとラルトスをボールに戻して息をついた。
「そう……だね。どうもありがとう!」
戦闘不能にやったラルトスを戻し、レンリは笑顔でリハと握手を交わす。
「あら……レンリさんって、よくみるとハンサムかもね?」
「そうかな? あははは……」
『よく見ると』などいう婉曲的な発言と疑問符は、未だ嘗てされたことがない。
しかしレンリはそんなことよりも、バトル中にひらめいた他の戦法を試したくて仕方がなかった。
「ユズカ先生!」
「負けてしまったのか、転入生。次がある!常にファイトだぞ」
「お話ししたいことが……」
監督をしているユズカは教師である。同じ教員同士であるシャラの情報も、聞けるのではないかという確信がレンリにはあった。
「私に聞きたいこと? 」
「はい。シャラ先生には、どこに行けば会えますか?」
常にさっぱりとした態度であったにもかかわらず、シャラの名が出た途端にゲッ、と苦い顔になるユズカ。
「……奴に用など作らんほうがいいぞ、キミ」
「えっ!?」
「すまない、審判をしなくては。今行くぞ!」
そう吐き捨てた後に、別の生徒たちのバトルの監督で呼ばれたユズカは、レンリを置いて立ち去ってしまう。
「なんなんだ……一体……」
その後も、バトルの終わった生徒にシャラの名を出しては居場所を聞くが、逃げんばかりの反応……つまり、随分な嫌われようであった。
最終的には彼の授業になれば自ずと会える! と意気込むレンリに、ポケモン生物学の授業は七年生以上の選択科目という事実さえ襲うのだった。
レンリは、授業がすべて終わり自室に戻ってきた時も、途方にくれ浮かない顔であった。
制服のままベッドに飛び込み、静かにラルトスを呼び出して話しかける。
「なんなんだ、一体。そう、なんていうか、僕ってもうすこし人望あったよね……?」
ラルトスは短い指を前で組み、うんうんと頷いている。
レンリがラルトスを捕まえて、そう長いわけではない。しかし、ラルトスというポケモンの特質上、トレーナーの気持ちにはポケモン一倍敏感であった。
アキラというトレーナー。シャラという教師。
もう一度会って、この事を聞かねばならない……。
アキラというトレーナーが、理事長か誰かの子どもで、緘口令を敷いたとかーー?
後者は教師という立場である以上、職員室に行けば会えるかもしれない。そうだ、担任ではない教師に用を作ってーー
次の休みに、1-Pの教室を訪ねてみるのも悪くないかもーー
慣れない環境で気の張った二日間を過ごしたレンリは、段々うつろうつろとしてくる。
(あ、僕、寝るーー)
頭では色々とやらなくてはならないと分かっているものの、ベッドにダイブしたままの姿勢で、レンリは夢の中へと誘われるのであった。
▼▽▼▽▼▽
レンリのクラスである1-Dがバトル実用学の授業中、1-Pは自由時間を告げられていた。
野生のポケモンを捕まえるも良し、空いているバトルコートでバトルを行なっても良し、バトル山に赴いて己の腕を試すも良し。フェナスシティで買い物を楽しむも良し。
1-Pは少人数制である。
少ないクラスメイトが散り散りに行動する中、アキラは一人躊躇うことなくバトルコートCに向かって行った。
▼▽▼▽▼▽
他のクラスのバトル思考学(バトルを見物し、指示の意図を解明する授業)中でもあったが、だだっ広い観客席に人は疎らであり、アキラはとあるコートをじっくりと眺められる席に静かに腰を落ち着けた。
1-Pの生徒が一人紛れ込んでいると気付かれた時には、ギョッという目で見つめられもしたがアキラがそれを気にかけることはなかった。
ーー無論、己が優先すべきはレンリとリハのバトルである。
ラルトスが回避率を上げ、かなしばりでどくばりを封じ込めた際には、普段からポーカーフェイスであるアキラの表情に少々の変化が見られた。
サンドが砂を撒いた際にリハの勝利を確信したアキラは立ち上がるが、行く手には陰が立ちはだかる。
「あなた……1-Pの生徒よね?」
「ええ、如何にも」
恐る恐る自分の所属先を確かめる女生徒に、アキラは無感情に対応する。
「私、1-Dのハンナ」
「1-Dの委員長ですよね。存じ上げております」
「……そう。
単刀直入に言うけど、うちのクラスの生徒に何か、あなた方がしたんじゃないかと思って……」
「まさか。どうしてそんなことを?」
微笑を浮かべて応対するアキラだが、ハンナの顔は固い。
「転入生が、1-Pに興味を持ってた。あなたたちの存在は、うちの学校には、その」
「タブーだと?」
「そこまでは言わないけど……」
口籠るハンナ。少し息を吐き出してから話を続ける。
「とにかく、あまりちょっかいかけないで欲しいの、お互いのために」
「そんなことしませんよ」
「……他のクラスメイトさんにも伝えておいてね。それじゃあ……」
そそくさと退散するハンナを氷のような目で見つめるアキラ。やがて、静かに口を開く。
「……ええ。そんなことしませんよ。
“こちら”からは、ね」
アーボックように口元を吊り上げたトレーナーの表情を見るものは、アキラのポケモンたちしかいなかった。