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刀剣乱舞


本丸に、時の政府からの通達が届いたのは突然のことであった。


曰く「貴殿の本丸で最も練度の高い刀剣と同じものを派遣する」。

それがどんな試みであるのか腹の中はわからないが、その文を読んだ近侍の同田貫は気が気ではなかった。

この本丸で一番レベルの高い男士も、正しく彼であったからだ。



周囲からは、やれ仲良くやれよだとか。巧くあしらえだとか。はたまた、審神者が妙な気を起こしたら止めろだとか。(どんな気だよ……)

おおよそ自分には熟せぬ役回りであるとの自覚はある。


まさかこんな形で、己の同一個体と対面するとはーー
どの本丸の刀剣男士でも大方反応は同じだろう。
思いもよらぬ政府からの使者。演練とは訳が違う。


自分よりも練度が低いのか、はたまた高いのだろうか。同じく、修行をした身であるのか……
使者の到着する時間を間近に控え、悶々と考えることはあったが、(そういうのは俺の役割じゃねえよな)と両頬を叩く。

「うっし、出迎えてやるとすっか」


▼▽▼▽▼▽


意気込んだ同田貫とその審神者が本丸の入り口で目にしたのは、政府からの使いである自分と同じ個体。

「話は聞いてるよな? ……俺の練度が高い本丸って事で、しばらく世話になるぜ」


で、あるのだが、その姿を見た審神者はわなわなと震え指をさした。
その同田貫は戦闘服や内番の服、はたまた軽装とも違い、黒い礼服を纏っていたのである。

「あ? この格好? ……個体認識用の羽織だとさ。動きにくいったらありゃしねえ」

政府からの使者の同田貫は頰を掻く。
そっくりの姿で登場すると思っていたのは、本丸の同田貫も同じである。


確かに、一見判別もつかない刀剣男士だ。そう配慮するのは当然のことだろう。


しかし、この審神者の動揺っぷりと目の輝きが自分ではない自分に向けられているのを、なんだが分からないがよく思えない、と心に靄がかかるのも確かである。


「それにしても同田貫の練度が高いって、この本丸の主は見る目があるのかもなあ」

本丸の刀がそんなことを思っているとはつゆ知らず、主と刀を見比べてにししと笑う政府の男士。


褒められているのは確かだが、確かであるのだが……


苦虫を噛み潰したような表情を抑える己の同田貫に、波乱の日々の開始を察した審神者は、頭を抱えるのだった。
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