このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

刀剣乱舞

「ご主人様にいじわるをされてみたい」

「…………はぁ?」


畑当番の終わりも間近という時に話を切り出したのは、ここ一週間はペアを組んでいた働き詰めの亀甲である。

「ぼくがご主人様を呼びに言った時に、狸寝入りをしていてほしい。 何度呼びかけても答えないご主人様……狼狽えるぼく……それを笑いながら見ているご主人様……」

「…………」

自分の返事がないのも気にせず相手は続けるが、手を動かせと一瞥をくれる。

「いけないいけない、無駄話をしてしまったね。しかしその事でぼくを叱るご主人様も良い……っ!」


さっきから何を言っているんだ、こいつは。
疲れすぎておかしくなったのだろうか。

やれやれと雑草を抜く作業に戻るが、ふと、自分がされた主の狸寝入りを思い出し、手を止める。


正確な日にちは覚えていないが、それはいつか近侍を勤めていた夕暮れ、飯の支度が出来たと主を呼びに言ったときの事である。


「飯の準備が出来たとさ」、と。そのような声をかけたはずだ。

しかし、執務室の机に突っ伏した主は微動だにしない。

寝ちまったのかよ、と肩に手をかけ揺らすものの、伏せた目は開かれることがない。

これ以上どうしろっていうんだと何分か悩みたじろいでいると、そこにはニヤニヤ顔の主が観察していた。



……そんな一幕があったと漏らせば、亀甲は声を震わせる。


「……同田貫くん……きみはなんて羨ましい体験をしてるんだ……!」

まさかそんな輝いた目で返されるとは思いもしなかった。


「……へーへー、じゃああんたも夕飯の時に呼びに行けばいいんじゃねえの?」


「前に行ったとも! まじめに仕事をこなすご主人様だった……」


がっくりと肩を落とす亀甲だが、審神者として、真面目にしている姿の方が正しいのではないか。ーー
同田貫は混乱する。

(いや、まさかな)

まさか自分にだけ「いじわる」とやらをしたわけではあるまい。


頬が火照ったのは、二十時間も続く土弄りの所為だ。
1/7ページ
スキ