楽観主義
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女子高校生。人生の中で最も輝いていると言っても過言では無い華の時期である。今日はテストの早帰りで、それ利用してめいいっぱい遊ぼうと計画していた。今日は他校の友達と帰りに新作コスメを見に行ってみようと駅に集合しようとしているのだ。
普段帰る時間より早く、幾分か太陽が高く上っていた。可愛いと評判の冬の制服を翻して歩く。お手入れを欠かさない髪がつやつやと輝いて、風に乗って滑らかに舞い上がる。
ことが起こったのは、人の少ない横断歩道を渡っているときだった。
「危ない!」
誰のものかも分からない叫び声が聞こえた刹那、タイヤの擦れた甲高い音と人間には耐え難い衝撃、破裂音と共に視界が暗転した。
「ん、ぁ……」
目を覚ますと真っ白だった。一瞬天国かと思ったが、それにしては寒すぎる。ゆっくりと辺りを見渡すと雪景色だった。どこだここは。私は雪も降っていなければ木なんてさして高くない街路樹しかないビルだらけの場所にいたはずだ。それが今は空気が美味しいどころか寒すぎて空気が痛い大自然の中にいる。お直し屋さんに校則ギリギリまで短くしてもらったうえに2回折ったスカートは雪が降るほど寒い地域にはどう考えても合っていない。ブレザーの袖からはみ出したセーターの袖を伸ばして手を覆った。しかし、これだけでこの寒さに耐えられるはずがない。持ち物も暖まるのはコードレスのヘアアイロンと、最近買った電気ホットビューラーくらいか。さすがに命の危機を感じたため助けがいないか探そうと立ち上がる。辺りを見回しても人気がまったくない。ふつふつと湧き上がる不安と今自分が置かれている不可思議な状況に対して感情が処理しきれず、○○は眉を顰めた。
「ぅ、うぅう……さいあく」
半べそをかいて脚を雪に取られながら歩く。冷たい雪によって爪先がかじかんだ。
さて話は変わるが、流行りとは回ってくるもので、一周まわってルーズソックスが人気を取り戻し始めていた。少々レトロなものはかわいいのだ。そんな流行りにのった結果、現在ルーズソックスをはいていた。それがこのバカ寒地獄で一命を取り留めているのだから、これからルーズソックスを拝みながら生きていかなければならない。大袈裟だと思うだろうが、JKとは箸が転がるだけでとんでもオーバーリアクションをとり笑う生き物である。反応が良い奴は面白いのだ。そんな余談は置いておいて、極寒により思考が鈍くなってきている。空腹により身体が怠く、動く気力すら失われてきていた。周りも吹雪こそ無いものの、1面雪だらけで現代的な建物がひとつとしてない。遂には
○○は座り込んで、項垂れて体を丸くしていた時だった。
「そこに誰かいるのか?!」
ふと声が聞こえたので、バッと顔を上げた。辺りを見回して一生懸命探すがなかなか人を見つけられなかった。
「は…はい!います!助けてください!」
この機会を逃してはならないと、必死に声を荒げた。普段通りでない喉の振動にひきつれて声が裏返りそうになったが、それも構わず何度も助けてくださいと繰り返した。
段々近づいてきた最初の遭遇者は男の人だった。こちらに近付いてきてしゃがみ、顔を合わせた。
「君は……」
「えっと、…△△○○っていいます。迷子になってしまって」
今伝えられる情報を端的に伝えた。相手は私がなんでこんな所で薄着で彷徨いていたのかを怪訝に思ったのか、不思議そうな顔をしながら見つめてくる。
だが、自分でも分からないのでこちらも眉を下げて困った顔をしておく。交通事故にあったと思ったら一面雪景色だったのだから混乱しているのだ。
気まずい沈黙の後、ひゅるる…と吹く寒風に耐えられなくなり、がくりと膝が折れる。
「お…、……な!…い!」
体に触れられ、上体をもたげられた。薄れゆく意識の中、途切れ途切れになった男の人の声を最後に再び意識を手放した。
「ァ、起きた」
○○が目を覚ますと、外ではなく部屋の中であった。ぼやける視界と思考の中で起き上がろうとすると、凍死寸前だったんだから寝てなさいと諭された。
「すみません、ありがとうございます…」
かすれた小さい声しか出なかったが、そんな声を拾ったのか僅かに微笑んでこちらを見る彼が最後に見た男だった事に少しだけ安心した。先程萌を助けた男は前山と名乗って、柔らかく微笑む。可愛いまつ毛と梅干しみたいな口がチャームポイントの彼はちょっと待っててね、と言って退出してしまった。
さて、どうしようか。私は車に跳ねられて死んだのではないか。
疑問は多すぎる位あるが、整理できるほど脳みそが覚醒していない。○○は深く考えずに、なんとか…なるか。と結論づけて、ぼうっと辺りを見回す。
○○は、今この風景と前山さんの服装から何となくだが、この場所を自分が生きていた時代じゃないとは分からないまでも、少なくとも自分の住んでいた地域ではなく、どこか遠い所に来てしまったのではないかと予想した。しかもこの場所は、友達と観光で行った明治村の建物の内装に酷く似ている。明らかに現代的では無いそれに、自分に何が起こったのか分からない状況も相まって、思わず眉を顰めてしまう。
少しすると、ガチャリと静かに開けられたドアから前山さんと共に何人かの男の人達が入ってきた。驚く程足音がしないのが不気味だったが、なんと言っても怖いのは謎の白い額当てのようなものを身につけた男性である。目元のところは傷跡だろうか。痛そうだなと考えていると、その当の本人がお上品に別の男の人が準備した椅子に座る。準備した人たちは白い額当てをした男性の後ろに立ったまま控えた。……多分この白い額当ての男性が偉い人なんだろう。彼はぼんやりとしている私の目をしっかりとらえて口を開いた。
「やぁ、お嬢さん。私は第七師団の鶴見と申します。突然で悪いが、聞きたいことがあるのです。こちらも素性を知りたいのでね。それで、君の持ち物についてなのだが……」
第七師団、とはなんだろうか。ふと彼の強い視線から目を逸らし、後ろに控えていた男の手の辺りを見ると、銃を持っていた。歴史の授業の資料で見たような、昔の銃。肩が自然に強ばり、喉が引きつった。急に自分が置かれている立場の弱さを否が応でも理解して、どっと汗がふきだした。逃げ出したら弾丸一発で殺される。そんな確信を元に、鶴見の方に視線を戻して話を聞いた。
「これはなんだね?」
「……えぇっと、スマホです」
「ほう、これは」
「え、ヘアアイロン…ReFaです」
うーん、さっぱり分からんな!と歯をカチカチしながら鶴見はそう言った。それがあまりに異様な行為で、この人は人間じゃないのではないかと疑った。
「君は何処から来たんだい…今の年号は言えるかね?」
「え、えっと…ぅ、どっちも、分からないです」
「本当かね?…断片的でも良い。思い出せる事はないのか」
ヒソヒソと内緒話をするような声から私が追い詰められると分かるほど声のボリュームを上げていく鶴見。人の圧に慣れていない○○はあ、う、と喃語ばかりを発してしまって、目の奥がツンとした。下手な事言ったら殺されるんじゃないかと、目の焦点が定まらなくなってしまう。銃はこんな場所で気軽に持てるものでは無い。私は事故にあってタイムスリップしたというのでもいうのか。そんなことを、この人に信じてもらえるのか。
「君の持ち物は興味深い物ばかりだ…どれもこれも見た事がない。今の日本の技術では再現できないだろう」
「………」
「再度言う。どこから来た」
ガツンと頭を打たれたようだった。冷たい声で放たれたその問いに、気が狂った女だと思われても、本当の事を答える他なかった。
「…わ、からないですけど、ここに来る前は駅に居て…あと、少なくとも私がいた所は雪がこんなに積もらなかったです。私が知ってる今の年号は…令和です」
「令和ァ……?今は明治だが。…西暦はなんだ」
「…2024年です」
「…………ふむ」
後ろの軍人が眉を顰めた。もう一方の軍人は銃を握り直している。頭がおかしいとしか思えない○○の言葉に警戒を強めた。
○○は鶴見の言葉を信じる事が出来ず、顔が真っ青になる。
すると鶴見は○○の様子を伺いながら徐に1冊の冊子を取り出した。
世界史と表紙に書かれたそれに、○○は本格的にマズいと目を見開いた。
「では、これは。世界史と書いてあるが、肝心の内容が暗号のようになっていて読めんのだ」
「…ぁ、え?」
読めない、と言った彼に思わず疑問の声をあげる。○○は開かれたページを見たが、普通の文字が書いてあった。
「君は…読めるのかね」
愉快そうに、獲物を捕らえるような底冷えした問いにびくりと肩を震わせた。今からでも私が作ったジョークグッズなのだと嘘をついてしまおうかと思ったが、それにしては証拠品が揃いすぎている上に、彼を欺き続けることも不可能に近いという事が嫌でも分かる為、冷や汗を流して黙る事しか出来なかった。
「ふーむ、キミはハンク・モーガンという訳だね?」
「はんく…?」
「俄に信じられんが、未来人ではないかという事だ」
未来人という言葉にびくりと過剰に反応してしまう。図星なのがバレてしまっただろう。でもこんな突拍子もない話、誰もが信じるはずもない。ここで肯定したら自分はどうなるのか、違いますといってこの場を切り抜けられるほど頭は切れないと思うし、とうだうだ考えていると、おじさまが優しく肩に手を置いた。
「落ち着きなさい、今は君をどうこうするつもりは無い。…ただ、協力関係を結びたいと思っているのだよ。君が元いた場所に帰る為にこちらも協力しよう。その対価としてこちらも情報が欲しいのだ。わかるね?」
ピンと張り詰めた様な空気が彼の声で一気に弛緩していった。それと同時に涙腺も緩み、ぼたぼたと涙がこぼれる。泣き止まない○○の背中を穏やかに叩いた。しかし、話したとして本当に協力するとは限らない。出会ったばかりの人間を信用出来るほど平和ボケはしていなかった。できる限りこちらの優位性も保っておきたい。それなら限界まで勿体ぶるしかないだろう。
「信用出来るまで、話せません。私が話したとして、その後貴方が協力してくれる保証はどこにもない。信用出来ると思ったら話させてもらいます。それでどうでしょうか」
「…そうか、ではその条件で手を組もう」
初めて交渉のようなものをした。これで大丈夫なのかは分からない。涙はとまらなかった。大の大人、しかも異性の本能的に勝てないと分かる相手に圧をかけられた為だ。何も知らない10代後半のペーぺーの女が対抗出来るはずが無かった。
あれから開放されたあと、気絶したように眠ってしまい次の日に処遇を伝えられた。
「とりあえず、君は看護婦だと言う事にしようか」
「わ、かりました」
私は今から看護婦になったらしい。
咄嗟に分かりましたと返しはしたが何も分かっていない。とりあえず答えただけである。はダラダラと汗を流して内心びぃぴい言いながら現状把握につとめた。
まずここは北海道の、兵舎近くの病院である事、退院したらエセ看護婦を演じられるように知識を叩き込むということ、第7師団とはなんなのか、今が明治何年なのか、鶴見に控えていた男が月島と尾形という事…とにかく様々な事を飲み込んだ。
とりあえず熱も下がり回復もしてきたため明日には退院できるとの知らせがあった。
明日からのことを考えると気が重くて、問題から目を逸らしたくなった。
普段帰る時間より早く、幾分か太陽が高く上っていた。可愛いと評判の冬の制服を翻して歩く。お手入れを欠かさない髪がつやつやと輝いて、風に乗って滑らかに舞い上がる。
ことが起こったのは、人の少ない横断歩道を渡っているときだった。
「危ない!」
誰のものかも分からない叫び声が聞こえた刹那、タイヤの擦れた甲高い音と人間には耐え難い衝撃、破裂音と共に視界が暗転した。
「ん、ぁ……」
目を覚ますと真っ白だった。一瞬天国かと思ったが、それにしては寒すぎる。ゆっくりと辺りを見渡すと雪景色だった。どこだここは。私は雪も降っていなければ木なんてさして高くない街路樹しかないビルだらけの場所にいたはずだ。それが今は空気が美味しいどころか寒すぎて空気が痛い大自然の中にいる。お直し屋さんに校則ギリギリまで短くしてもらったうえに2回折ったスカートは雪が降るほど寒い地域にはどう考えても合っていない。ブレザーの袖からはみ出したセーターの袖を伸ばして手を覆った。しかし、これだけでこの寒さに耐えられるはずがない。持ち物も暖まるのはコードレスのヘアアイロンと、最近買った電気ホットビューラーくらいか。さすがに命の危機を感じたため助けがいないか探そうと立ち上がる。辺りを見回しても人気がまったくない。ふつふつと湧き上がる不安と今自分が置かれている不可思議な状況に対して感情が処理しきれず、○○は眉を顰めた。
「ぅ、うぅう……さいあく」
半べそをかいて脚を雪に取られながら歩く。冷たい雪によって爪先がかじかんだ。
さて話は変わるが、流行りとは回ってくるもので、一周まわってルーズソックスが人気を取り戻し始めていた。少々レトロなものはかわいいのだ。そんな流行りにのった結果、現在ルーズソックスをはいていた。それがこのバカ寒地獄で一命を取り留めているのだから、これからルーズソックスを拝みながら生きていかなければならない。大袈裟だと思うだろうが、JKとは箸が転がるだけでとんでもオーバーリアクションをとり笑う生き物である。反応が良い奴は面白いのだ。そんな余談は置いておいて、極寒により思考が鈍くなってきている。空腹により身体が怠く、動く気力すら失われてきていた。周りも吹雪こそ無いものの、1面雪だらけで現代的な建物がひとつとしてない。遂には
○○は座り込んで、項垂れて体を丸くしていた時だった。
「そこに誰かいるのか?!」
ふと声が聞こえたので、バッと顔を上げた。辺りを見回して一生懸命探すがなかなか人を見つけられなかった。
「は…はい!います!助けてください!」
この機会を逃してはならないと、必死に声を荒げた。普段通りでない喉の振動にひきつれて声が裏返りそうになったが、それも構わず何度も助けてくださいと繰り返した。
段々近づいてきた最初の遭遇者は男の人だった。こちらに近付いてきてしゃがみ、顔を合わせた。
「君は……」
「えっと、…△△○○っていいます。迷子になってしまって」
今伝えられる情報を端的に伝えた。相手は私がなんでこんな所で薄着で彷徨いていたのかを怪訝に思ったのか、不思議そうな顔をしながら見つめてくる。
だが、自分でも分からないのでこちらも眉を下げて困った顔をしておく。交通事故にあったと思ったら一面雪景色だったのだから混乱しているのだ。
気まずい沈黙の後、ひゅるる…と吹く寒風に耐えられなくなり、がくりと膝が折れる。
「お…、……な!…い!」
体に触れられ、上体をもたげられた。薄れゆく意識の中、途切れ途切れになった男の人の声を最後に再び意識を手放した。
「ァ、起きた」
○○が目を覚ますと、外ではなく部屋の中であった。ぼやける視界と思考の中で起き上がろうとすると、凍死寸前だったんだから寝てなさいと諭された。
「すみません、ありがとうございます…」
かすれた小さい声しか出なかったが、そんな声を拾ったのか僅かに微笑んでこちらを見る彼が最後に見た男だった事に少しだけ安心した。先程萌を助けた男は前山と名乗って、柔らかく微笑む。可愛いまつ毛と梅干しみたいな口がチャームポイントの彼はちょっと待っててね、と言って退出してしまった。
さて、どうしようか。私は車に跳ねられて死んだのではないか。
疑問は多すぎる位あるが、整理できるほど脳みそが覚醒していない。○○は深く考えずに、なんとか…なるか。と結論づけて、ぼうっと辺りを見回す。
○○は、今この風景と前山さんの服装から何となくだが、この場所を自分が生きていた時代じゃないとは分からないまでも、少なくとも自分の住んでいた地域ではなく、どこか遠い所に来てしまったのではないかと予想した。しかもこの場所は、友達と観光で行った明治村の建物の内装に酷く似ている。明らかに現代的では無いそれに、自分に何が起こったのか分からない状況も相まって、思わず眉を顰めてしまう。
少しすると、ガチャリと静かに開けられたドアから前山さんと共に何人かの男の人達が入ってきた。驚く程足音がしないのが不気味だったが、なんと言っても怖いのは謎の白い額当てのようなものを身につけた男性である。目元のところは傷跡だろうか。痛そうだなと考えていると、その当の本人がお上品に別の男の人が準備した椅子に座る。準備した人たちは白い額当てをした男性の後ろに立ったまま控えた。……多分この白い額当ての男性が偉い人なんだろう。彼はぼんやりとしている私の目をしっかりとらえて口を開いた。
「やぁ、お嬢さん。私は第七師団の鶴見と申します。突然で悪いが、聞きたいことがあるのです。こちらも素性を知りたいのでね。それで、君の持ち物についてなのだが……」
第七師団、とはなんだろうか。ふと彼の強い視線から目を逸らし、後ろに控えていた男の手の辺りを見ると、銃を持っていた。歴史の授業の資料で見たような、昔の銃。肩が自然に強ばり、喉が引きつった。急に自分が置かれている立場の弱さを否が応でも理解して、どっと汗がふきだした。逃げ出したら弾丸一発で殺される。そんな確信を元に、鶴見の方に視線を戻して話を聞いた。
「これはなんだね?」
「……えぇっと、スマホです」
「ほう、これは」
「え、ヘアアイロン…ReFaです」
うーん、さっぱり分からんな!と歯をカチカチしながら鶴見はそう言った。それがあまりに異様な行為で、この人は人間じゃないのではないかと疑った。
「君は何処から来たんだい…今の年号は言えるかね?」
「え、えっと…ぅ、どっちも、分からないです」
「本当かね?…断片的でも良い。思い出せる事はないのか」
ヒソヒソと内緒話をするような声から私が追い詰められると分かるほど声のボリュームを上げていく鶴見。人の圧に慣れていない○○はあ、う、と喃語ばかりを発してしまって、目の奥がツンとした。下手な事言ったら殺されるんじゃないかと、目の焦点が定まらなくなってしまう。銃はこんな場所で気軽に持てるものでは無い。私は事故にあってタイムスリップしたというのでもいうのか。そんなことを、この人に信じてもらえるのか。
「君の持ち物は興味深い物ばかりだ…どれもこれも見た事がない。今の日本の技術では再現できないだろう」
「………」
「再度言う。どこから来た」
ガツンと頭を打たれたようだった。冷たい声で放たれたその問いに、気が狂った女だと思われても、本当の事を答える他なかった。
「…わ、からないですけど、ここに来る前は駅に居て…あと、少なくとも私がいた所は雪がこんなに積もらなかったです。私が知ってる今の年号は…令和です」
「令和ァ……?今は明治だが。…西暦はなんだ」
「…2024年です」
「…………ふむ」
後ろの軍人が眉を顰めた。もう一方の軍人は銃を握り直している。頭がおかしいとしか思えない○○の言葉に警戒を強めた。
○○は鶴見の言葉を信じる事が出来ず、顔が真っ青になる。
すると鶴見は○○の様子を伺いながら徐に1冊の冊子を取り出した。
世界史と表紙に書かれたそれに、○○は本格的にマズいと目を見開いた。
「では、これは。世界史と書いてあるが、肝心の内容が暗号のようになっていて読めんのだ」
「…ぁ、え?」
読めない、と言った彼に思わず疑問の声をあげる。○○は開かれたページを見たが、普通の文字が書いてあった。
「君は…読めるのかね」
愉快そうに、獲物を捕らえるような底冷えした問いにびくりと肩を震わせた。今からでも私が作ったジョークグッズなのだと嘘をついてしまおうかと思ったが、それにしては証拠品が揃いすぎている上に、彼を欺き続けることも不可能に近いという事が嫌でも分かる為、冷や汗を流して黙る事しか出来なかった。
「ふーむ、キミはハンク・モーガンという訳だね?」
「はんく…?」
「俄に信じられんが、未来人ではないかという事だ」
未来人という言葉にびくりと過剰に反応してしまう。図星なのがバレてしまっただろう。でもこんな突拍子もない話、誰もが信じるはずもない。ここで肯定したら自分はどうなるのか、違いますといってこの場を切り抜けられるほど頭は切れないと思うし、とうだうだ考えていると、おじさまが優しく肩に手を置いた。
「落ち着きなさい、今は君をどうこうするつもりは無い。…ただ、協力関係を結びたいと思っているのだよ。君が元いた場所に帰る為にこちらも協力しよう。その対価としてこちらも情報が欲しいのだ。わかるね?」
ピンと張り詰めた様な空気が彼の声で一気に弛緩していった。それと同時に涙腺も緩み、ぼたぼたと涙がこぼれる。泣き止まない○○の背中を穏やかに叩いた。しかし、話したとして本当に協力するとは限らない。出会ったばかりの人間を信用出来るほど平和ボケはしていなかった。できる限りこちらの優位性も保っておきたい。それなら限界まで勿体ぶるしかないだろう。
「信用出来るまで、話せません。私が話したとして、その後貴方が協力してくれる保証はどこにもない。信用出来ると思ったら話させてもらいます。それでどうでしょうか」
「…そうか、ではその条件で手を組もう」
初めて交渉のようなものをした。これで大丈夫なのかは分からない。涙はとまらなかった。大の大人、しかも異性の本能的に勝てないと分かる相手に圧をかけられた為だ。何も知らない10代後半のペーぺーの女が対抗出来るはずが無かった。
あれから開放されたあと、気絶したように眠ってしまい次の日に処遇を伝えられた。
「とりあえず、君は看護婦だと言う事にしようか」
「わ、かりました」
私は今から看護婦になったらしい。
咄嗟に分かりましたと返しはしたが何も分かっていない。とりあえず答えただけである。はダラダラと汗を流して内心びぃぴい言いながら現状把握につとめた。
まずここは北海道の、兵舎近くの病院である事、退院したらエセ看護婦を演じられるように知識を叩き込むということ、第7師団とはなんなのか、今が明治何年なのか、鶴見に控えていた男が月島と尾形という事…とにかく様々な事を飲み込んだ。
とりあえず熱も下がり回復もしてきたため明日には退院できるとの知らせがあった。
明日からのことを考えると気が重くて、問題から目を逸らしたくなった。
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