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火龍改聖杯譚

 火がくるくる回っていた。
 腕がぐるぐる変わる変わる振るわれた。
 世界がガラガラ崩れていった。

(一)
 カルデアのマスター、藤丸立香は炎が轟々と燃え盛る岩場に立っていた。火の粉がチロチロ蛇の下のように伸びてきて、藤丸の足に絡みついた。
「あつい…」
 おかしな夢だと分かっていた。マスターというのはサーヴァントの夢を引き摺られるように見てしまうことがあるのだ。
 けれど、今回の夢は何か・・違うと頭のどこがが警鐘を鳴らしていた。
 不意に、カラカラ小枝が転がるような、竜骨兵が歩くような音がした。なんだ?
「ぎゃ、エネミーッ!」
 いつもシュミレーターで見ているエネミーとは若干デザインが違う骸骨が、カラカラ髑髏を震わせて、藤丸の一寸先に居た。
 さっきまで気配すら感じさせなかった、新手のエネミーに粟立つ。
 咄嗟に足の位置を整えて、いつでも走り出せるように集中する。
 その瞬間__
 ザ、ザ、赤い鞘に包まれた小刀を持つ白髪の美男が、その赤い小刀の峰で、ガッと、エネミーをひと砕きで伏せてしまったのだ。
 突然の美男に目を白黒させる藤丸。男は薄い唇を開いて言った。
「しー」
 男らしい無骨で、けれど洗練された人差し指がフミ…と藤丸の唇に押し付けられる。
 藤丸の胸は高鳴った。服装はサマーアイランドのティアマトみたくセーラー服になったし、彼の動作にドキマキして、ないはずのツインテールをくるくるして「ン……」と声を絞りだした。
 美男の瞳は小刀の鞘と同じく、赤かった。
「帰りましょうか、途中まで送ろう」
「あ、ありがとう」
 なんとか声を絞り出して言った。

 藤丸は美男がどこからか取り出した提灯の明かりに照らされて、歩いていた。提灯から溢れる光がチロチロ歩くたびにゆらめいて、美男の美しい輪郭をなぞる。
 藤丸は彼にサーヴァントと近しいような気配を感じた。
「あなたはいったい…?」
「名を語ることは出来ませんが…そうですね、ただの釣り好きですよ」
「なぜ釣り好きが、この地獄みたいな世界へ??」
 至極当然の返しである。人首が花のように咲き誇り、血が降り注ぎ、炎が虫の代わりに飛ぶ世界である。さっきから歩いている岩の上も正直に、礼装がなければ「熱いっ死ぬッ!!」と藤丸は歩けなかったであろう。釣り好き…自称グランドキャスター候補のアイツか…?
 そんな藤丸の「地獄」という返しを彼は気に入ったのか、にいっと笑って、頭の上に一括りにされた白髪を揺らす。
「縁のようなものです。私はそれを辿ってここに来た。あなた以前に地獄を訪れたことは?」
「な、何度か(冥界も含めて)」
「ははあ、面白い人だ」
 通りで辿りやすかった。
 呵呵、ついには大口を開けて笑ったが、どうやら終わりが近かったようだ。
 彼は懐から竹で作られた釣り竿を取り出し、糸をシュルシュル伸ばす。伸ばした糸を近くの木の根に巻き付けて、徐に引っ張った。
「ふ、」「ふ、」
 腰を低くして、膝を曲げて踏ん張って、木の根が持ち上がる。
「あ、光」
「あの先があなたのいる場所です。見えますか?」
 今も力を込めて根を持ち上げ続ける彼が、顎をついっと光の方へ遣った。
「ア俺…………し、死んでる!?」
「少し深い眠りについているだけですよ」
 光の先を目を凝らして見て見ると、マイルームではなく医療室に運び込まれた自分が、アスクレピオスやダヴィンチちゃんにカルデアのスタッフと、大勢の人に囲まれて眠っていたのだ。
 珍しく焦った顔のアスクレピオスが額に浮かべた粒を拭きながら、必死に魔術による治療を試みている。サンソンがナイチンゲールが必死にカルテを書いて、職員と怒鳴るように話し込んでいる。
 更にさらに目を凝らすと、マーリンに太公望、モルガンといった魔術に優れた面々が、何やら発案して試しては発案者を殴る…という成功と失敗を繰り返しをしていた。
「え、えらいこっちゃ…」
「早くお行きなさい」
「そうする」
 先ほど愛しの後輩がハラハラ涙を流して、モニターに向き合うという胸を締め付けれる光景も見てしまったのだ。戻らないわけにはいかない。
 藤丸は根の下に体を滑り込ませて、ふと、思った。
「あなたは?」
「知りたいか?」
 にいっ、美男が笑った。
「い、いいです」
 藤丸は逃げるように、木の根の穴を滑った。
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