ザーザーと梅雨の始まりを告げる音が聞こえる中、何故かワタクシは
外に出ていた。

『ま、ワタクシは元々深海に居るから大丈夫なんですけど…』

誰にも聞こえない独り言を呟く濡れても気にしていない自分自身に
不思議と笑みが溢れるが何故笑っているのかも分からない………

『ワタクシは…………タコちゃんじゃない………』

彼の…タコちゃんと呼ばれた時の声色を思い出した
ギューッと胸が締め付けられて苦しい。

『アハハ…タコちゃんになれないだけでそんなに悲しむ………
ネイダールさんっ………ワタクシではダ…メなんで…すか？』

答えは返ってこない、当たり前だ…ここにはワタクシだけしか
居ないのだから…

『何でっ…何で…こんなワタクシに優しくして自分のコートを
渡したんですかっ!!ワタクシっ…ずっとこのロングコート……
肌身離さず着ちゃっているんですよっ……』

今なら泣いても誰も見ていないですよね…
あぁ…ずっとネイダールさんを思い過ぎて仕事もままにならなくて
このロングコートだけが彼と同じでワタクシを抱きしめてくれて
慰めてくれている…

『大きいなぁ…………こんな大きなコート、ワタクシに
渡されても………』

そして気付く自分自身が彼に惚れて恋をしたのだと
同時に彼の想い人にはなれない事も…

『あーダメですね…コレではワタクシが……………
ッ………タコちゃんになれないワタクシはダメ……なんです………』

何度も自分自身に言い聞かしたコートを抱きしめる手の力が強くなる
重い足を引きずりながら歩き出す視界が歪み前が見えづらい………
ワタクシはこんな性格だっただろうか？
フラフラとしながら徐々に意識が遠のくのを感じた………

『このまま…雨に濡れて………いるのも良いですね………』

遠くで誰かの声が聞こえたがそのままワタクシは目を閉じて意識を失った。