『セラス様？大丈夫かい？今日も夜になったら………』

『ジョーカー、セラス様から"哀しみ"を感じる…
暫くはそっとしておいてやれ。』

『う、うん。何かあったら教えてね、ディストピア。』

アルフレッドの記憶を消去（デリート）してから数日
俺は帰って来たら常に椅子に座り抜け殻のような感じになり虚空を眺めていた…
時折ジョーカーが心配してくれたがディストピアが説明してくれていつもディストピアだけが残り静かな空間が漂った…
バタンッとドアが閉まるのと同時にディストピアが呟いた。

『"大丈夫だぞ、グレー…今は小生とお前しかいない。
おいで…"』
（我を見る度にその切なくでも愛おしい者を見る瞳の奥に隠れている"哀しみ"はきっと…………光のアルフレッドにしか………）

声がして振り向くと優しく笑っていてでも泣きそうな表情をしたディストピアが居た…
そうか…俺の"哀しみ"を察知したのか？
ふらふらとディストピアに近寄り力無くもたれかかると
ギューッとアルフレッドと同じように抱きしめられた…

『"泣きたいときは泣けばいいんだ…小生には出来なかった…グレー、我慢はしちゃいけない…大丈夫…誰も見ていないから…"』

声だけ聞けばアルフレッドそのもので…
光の暖かさが無いのに何故だろうかまるでアルフレッドに言われてるようで
目を閉じたら自然と静かに涙が流れた。

（涙が流せるのは我にとっては羨ましい…誰かに寄り添い泣けることは我にとっては…あぁ…全てが…羨ましいことだ。）

『ッ…アルフレッド…好きだ…愛している…』

ディストピアの服の一部をギュッと握りしめてアルフレッドを思う…
もう、本人には届かない思いを彼に投げつけるのは
間違いなのだろうか？

『…ありがとう、小生もグレーを…』

『違う！アルフレッドは俺を…好きになるな！』

思わずディストピアを押し倒し怒鳴り散らしてしまった
目をパチパチしながら彼はビックリしていた
少し困惑した表情をしながらそれでも彼はアルフレッドを演じ続けてくれた。

『ッ…どんなお前でも小生はグレーを愛する…から…
グレー…笑っていてくれ。』

アルフレッド似た声で…………
手が震えていた、そりゃあそうだ彼はアルフレッド似た何かでありアルフレッドでは無いのだから。
それでもアルフレッドのフリをしてこうして俺を励まそうとしてくれるのは……………優しさ…………か。

『フッ…ディストピアにしては頑張ったな、アルフレッドに似させて俺を励ますなど…成長したな…コレは良い研究…………け……』

瞬時途端に身体の力が抜けディストピアに支えられる形に抱きかかえられベッドに連れて行かれた…

『無理はするな、やっと効いてきてくれたんだな…
セラス様すいません、睡眠薬を少し入れさせてもらいました…失礼な事をお許しください。』

布団をかけられ頭を優しく撫でられる…………
薄れゆく意識の中でディストピアが呟いた。

『"ありがとう…小生を愛してくれて…小生も…お前が………"』

全て聞く前に意識が途絶えた
あぁ…せめて本人の声と温もりで……聞きたかったな………
アルフレッド…………。