「カイジくん、大学行ってくるね」

東の空が明るくなり始めたころ、けたたましく鳴り響くアラームで私は目を覚ました。今日は大学へ行く日。
顔を洗って、メイクをして、着替えて、髪もセットした。あとは家を出るだけ。そう、それだけ……

そっと気持ちよさそうに眠る男に声をかける。
すると、彼は目をこすりながらぼんやりと私を見つめた。

「え、もう行くのかよ……」

カイジくんはのそりと私の手を引き寄せ、自分から離れないように腰にしがみついた。上目遣いで、甘えるような瞳がこちらを見上げている。

「まだいいだろ……もう少しだけ……」

胸がギュッと締め付けられるような感覚。まただ。
彼の不器用さと子どもみたいな甘え方に、毎度どうしようもなく心がときめいてしまう。

「でも……今出なきゃ間に合わなくなっちゃう」

それでも、彼の腕は離れない。ごそごそと起き上がるとさらに強く抱き、顔を肩にうずめる。

「大学なんかいいだろ……俺と一緒にいようぜ」

カイジくんの言葉は軽くて、無責任だ。
だけど、この瞬間だけは甘美な誘惑にしか感じられなかった。

心の中では分かっている。今ここで彼を突き放さなければいけないと。

でも、彼のぬくもりと上目遣いが私を完全に捕らえていて離さない。

「……カイジくん、そんなこと言われたら、大学行けなくなっちゃうよ」

「行かなくていいだろ」

カイジくんは小さく笑いながら、引き留める。
その姿が可愛くて、可愛くて、何も言えなくなった。

「もう……本当に甘えん坊なんだから」


今日こそ大学に行くはずだった。
でも、私がカイジくんの誘惑に勝てるわけない。

「いいよ……カイジくんと一緒にいる」

「マジで？ やった……さすが、俺の名前｣

心のどこかで「これでいいのかな」と思いつつも、私はカイジくんの甘えん坊な姿にどうしようもなく魅了されていた。

「カイジくん、ほんとかわいいね……」

カイジくんは私の不安を気にすることなく、髪を撫でられ無邪気に微笑んでいた。