萌芽

 長い冬が終わった。まぶしい日差しのあふれる窓辺で、妹たちが少しはなれて向かい合っている。
「ほら、あともう少しよ」
 小さな妹が姉のところまで這っていった。姉の腕を支えに立ちあがろうとしている。
「あなたが歩けるようになったら、一緒にお散歩しましょうね」
 姉に抱きしめられ、小さな妹は高い笑い声をあげた。
 この冬、たくさんの民が死んだ。特に、妹たちぐらいの年の娘たちは無残なものだった。なんの役にも立たないからと親からまっさきに見捨てられた。亡骸は冷たい土の上にほったらかしにされて、野犬に食われてしまったという。
 災厄のような冬がすぎさったいま、ちまたでは幼い姫が自分の食べ物を分け与え、生まれたばかりの妹を救ったという話がもちきりだという。
 妹が継母のためにと運ばせていたパンは、下働きの娘が食べてしまっていたそうだ。結局は、強情な娘が飢え死にしかけただけだというのに、涙をさそう美談として語られているらしい。きっと宰相あたりが父上への批判をそらそうと広めたに違いない。王の娘でさえこんなひどいありさまなのだからと。
 こずるい手だと思うが、あの男なりに父上を守ろうと必死なのだろう。そう思うと、ほんの少しだけ胸のつかえがおりた気がした。
 ひだまりの下へ行き、妹を抱きしめる。
「おまえたちのことは俺が守ってやる」
 父上とは違う形で。
「かならずだ」
 ささやくと、妹は小さくうなづき、うれしそうに笑った。妹の腕の中の小さな妹も無邪気に笑っていた。俺もつられて笑った。少しまるくなってきたほおをなで、まだかぼそい指を手でつつみこんだ。(了)
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