第2章 目覚める力

「…また気絶してたんだな」

「アニキィ!もうやめやしょうよ…これ以上は死んじゃいやすよぉ…」

前回と同じ部屋で俺は目覚めた。
目の前には涙で顔をぐしゃぐしゃにしているラッスターがいた。

「…俺の考えが甘かった。ここの長は貴様を強くしようとはしていない。ただ」

「…俺の中に眠っている力に興味があるんだろうな」

「そうだ。貴様の中に眠っている力にしか興味を示していない。そして、力が目覚めた貴様と戦いたいのだろう」

「それでも良いぜ。俺は負けねぇ」

「アニキ…俺はもう止めないですぜぃ…」

俺の思いを受け取り、涙を拭うラッスター。
カヌヤも表情を緩める。

「今日は遅いから明日にするぞ!しっかり寝て傷を癒すのだ!にししし…って、長が言ってたよ」

「お、おう…ツルギ…モノマネも上手なんだな」

そう?と素っ気なく返事をし、俺の隣に座るツルギ。

「危なっかしいデイタ君は俺がみといてあげるから、二人はお風呂に入っておいでよ」

「ありがとうございやす!」

「頼んだぞ」

そう言い、部屋を出るラッスターとカヌヤ。

「ねえ、デイタ君。」

「何だ?」

「長のこと怖い?」

「え?…まあ、怖くないと言えば嘘になるかもな。だけどファボは悪い奴じゃねぇと思うんだ。こうやって俺たちのことを面倒見てくれるしな」

「へえー。あんなにボコボコにされたら恐怖で死んじゃうけどねぇ。デイタ君ってお人好しなんだね」

「ははっ。それはお前もだろ、ツルギ」

「……オレが?」

「あぁ。よそ者の俺たちをお前が一番に受け入れてくれたじゃねぇか。」

「…勘違いしないでよね。オレはそんなに良いヒトじゃないよ。」

意地悪そうに笑うツルギ。
冗談かどうかは分からない。

だけど

「お前は良い奴だよ、ツルギ」

俺はお前は良い奴だって信じているぜ。
ツルギはいつもの無表情に戻っていた。

「ねぇ、デイタ君。」

「今度は何だ?」

「オレのこと良い奴って言ったけどそれは本気で言ってるの?」

「あぁ。本当だぜ。」

「…長は?」

「ファボも良い奴だぜ。やり方は過激だけどな」

「ふふ。まあ、タイルター一の最強だしね。力加減が中々できないんだと思うよ」

「なるほどな…って、タイルター一の最強?!ファボってそんなにもスゴいヒトだったのか?!」

あまりの衝撃的な事実に体を起こす俺。
この頃ラッスターもカヌヤから同じことを聞き、同じような反応をしたことはお互いに知らない。

「長はすごいよ。…ラグースの実験施設からメディーを連れ出して、身寄りの無いオレを快く受け入れてくれて…ラグースの戦闘狂とも上手くやってさ…」

ポツリポツリとファボのことを話すツルギ。

「なのに…デイタ君の中に眠っている力に気付いた時から、何だか長が長じゃないように見えちゃって……

オレ…

目が悪くなっちゃったのかな?」

「お、おう?きっと視力は大丈夫だと思うぜ?」

シリアスな雰囲気になったかと思えば、ツルギの気の抜けた冗談で場の雰囲気は元通りになった。

「ねぇ、デイタ君」

「オレ、デンルトーに来る前の記憶が全くないんだよね」

「そうなのか?…俺もタイルターに来る前の記憶がねぇんだ、奇遇だな。ちなみにラッスターも記憶がねぇみたいなんだ」

「デイタ君とラッスターもか…本当、奇遇だね。

…なんかデイタ君といたらお喋りになるね」

「…そうか。俺で良かったらいつでも話を聞くぜ」

「………。


…長のこと嫌いにならないでね。」

「あぁ、嫌いにならないぜ…お前のこともな、ツルギ」

眩しい笑顔だね、と安心したように表情が緩むツルギ。
俺はいつの間にか眠りについていた。
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