問題児と苦労人

「いてて…へーリオスなんか大嫌いだ…」

立ち上がり周りを見渡す。
身を隠す場所が一つもない殺風景な景色が広がる。
そして、武器がぶつかり合う音や数々の悲鳴が響き渡っている。
どうやらデスマッチは始まっているようだ。

「死ねぇ!!」

「っ!!」

近くにいた者に気づかれ、容赦無く剣が降ってくる。
サラムは尻もちをつき動くことができずに目をギュッと瞑る。

ザシュ!

剣が肉を裂く音が響く。

しかし、サラム自身に痛みは感じない。
恐る恐る目を開ける…

「っ?!な、何して…」

「…大丈夫か?」

サラムの目の前には獣の耳を生やした茶髪の少年が立っていた。
茶髪の少年の左耳は無くなっていた。
剣を振った者はいつの間にか気絶していた。

茶髪の少年は状況が飲み込めないサラムの腕を掴んで立ち上がらせる。

「お前はいつも訓練をサボってばかりの人間だな」

「…そ、そんなことより耳が…」

「大したことはないが…音が聞こえづらい…」

「……俺様のこと守ってくれたのか…?」

「………。


お前からは優しい匂いがする」

「…え?」

こんな状況で何を言っているんだ…?
ていうかコイツ…俺様が関わりたくない奴じゃん…
何で相手にもならない俺様なんかを助けてくれたんだ…?

「…仲間を傷つけたくなくて訓練サボっていたんだろ?」

「…う、うん…?」

良いように勘違いをしてくれている茶髪の少年にとりあえず相槌を打つ。

「俺も仲間を傷つけたくない…だから、こんなくだらないこと早く終わらせるぞ」

「な、何言ってんだよ…結局殺すのか?」

「殺さない。…気絶させるんだ」

「それってありなのか…?それにか弱い俺様にはできないぜ…」

「気絶させるのは俺がする。…左耳が再生するまで時間がかかるんだ。その間だけでも俺に手を貸してくれないか、サラム」

「…か弱い人間に頼むことじゃ…あれ?何で、俺様の名前知ってんの…?」

「仲間の名前ぐらい知っておかないとな。…俺はヤイバだ。」

お前は…
逃げてばかりの俺様のことを仲間って呼んでくれるのか…?

「ヤイバ…今回だけだぜ?普段は俺様が守られる側なんだからよ」

「あぁ。頼んだぞ」

笑みを交わす二人。

大口を叩いたけど…俺様戦えるのかな…

サラムは不安を胸にヤイバと共に戦場に向かう。
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