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第2章 目覚める力

「…アニキ…!大丈夫ですかい…ファボさん何だか怖いですぜい」

「あのお人好しで有名な長があそこまで怒るだなんてただ事ではないぞ?貴様、何かしたのか?」

あれから気を失った俺は再び、邸の中で目覚める。
ラッスターとカヌヤが心配そうに顔を覗き込む。
カヌヤ…ついにお前にも心配されるほどの事態になってるんだな。

「あんなに怒ってる長初めて見た。デイタ君一回長とちゃんと話をしてみたら?」

「お前がよく言えたな…あんなに怒っているんだから話もできないだろ」

「何かオレがデイタ君たちについて行くのも反対なのは反対だと思うけど、デイタ君をボコボコにする程まで怒らないと思うんだよね」

「…なるほど」

「デイタ君のその癒しの力のことで怒ってるように見えるけど?」

「…確かに、中途半端な力だって言ってたな…でもあの状態でどうやって話をすれば良いんだ?流石に怖いぜ」

「あのアニキが!恐れをなしていやすぜ!」

「明日は氷柱が降るな」

お前ら…好き放題に言ってくれるじゃねぇか。
ファボのあの殺気に満ちた眼を間近で見てみろ。
普通に怖いだろ。

「デイタ君!大丈夫だよ!長には大好物があるの」

「はあ…大好物で機嫌が治るってか?」

「機嫌は治らないかもだけど、メディーにずっと禁じられて喉から手が出るほどに欲しい物だからきっと話はできるよ」

「…そんな大層な大好物なのか?」

「うん。これだよ」

そう言い、どこから持ってきたのか酒の入った酒瓶を出すツルギ。

…そ、それは…酒じゃねぇか…

「あれ、デイタ君ガタイが良いのにお酒飲めないの?」

「ガタイが良いのは関係ねぇだろ…それ気持ち悪くなるんだよな…」

「…まあ、長に飲ませとけば大丈夫大丈夫」

グッジョブ!と親指を立てるツルギ。
お前…急に他人事のように振る舞いやがって…

俺は不安とともに酒瓶を持ち、ファボの部屋に行く。


「失礼します…ファボ…ちょっと話しようぜ」

「デイタか…良いぞ、入れ」

すんなりと部屋に通してくれるファボ。
あれ、もしかしてもう怒っていねぇのかな…

「八つ当たりしてすまぬな…デイタ…」

ホッと一息つく俺に申し訳なさそう謝るファボ。

「我は長年ツノヤを苦しみ続けさせてしまった…

我には力があっても、ツノヤの心を救う力は無かったのだ」

「…そんなことないと思うぜ。アンタとツルギがツノヤの心をずっと支えてきてたからツノヤは今まで心を失わずにいれたんじゃねぇか」

「…にしし、まさか我が励まされるとはな……ありがとうな」

力なく笑うファボ。

「…アンタらしくないぜ。いつも通りに元気にニカって笑ってる方が似合っているぜ」

「…我だって元気ない時ぐらいあるぞ。とりあえず酒をよこすのだ」

そう言割れ、俺は一緒に持ってきたおちょこに酒を注ぐ。
ファボは美味しそうに堪能する。

そして

「…ほれぇ、デイタも飲まぬかぁ」

既に出来上がってしまっている。
早すぎねぇか?

「俺は大丈…んぐっ?!」

「我の酒がぁ飲めぬと言うのかぁ!はははは!」

ファボに無理やり飲まされて気分が悪くなる俺。

…ファボさん。
いくら出来あがっていても口移しだけは勘弁してくれよな…

俺は遠のきそうな意識を必死に保つ。

「我は…怒っているのだぞぉデイタぁ!」

「お、おう…何かしちまったか?」

「主がぁ中途半端にぃ…癒しの力を使ってぇツノヤをさらに苦しませたぁのが許せないんだぁ…

あの時ぃ……。ツノヤが我になんて言ったと思うかぁ…

我にしか頼めない、殺してくれと言ってきたのだ…」

「………。」

「あの時…ツノヤがどれ程苦しい思いをしていたのか…

我がツノヤの力になれるのは殺してやることぐらいなんだと…自分の無力さに…悔しくて…情けなくて…

…とても悲しかった」

「ファボ…アンタもずっと辛い思いしてたんだな…ゴメンな…」

「…何故、主が謝る……主は我に八つ当たりされているんだぞ…

…つい取り乱してしまったな。もう大丈夫だ」

酔いが覚めてきたのか口調がもと通りに戻るファボ。
しかし、またおちょこに手を伸ばし酒を飲む。
俺は黙って注ぐ。

ーーデイタ…ーー

あれ、アンタか?
どうしたんだ?

ーー私は彼のことを勘違いしていたのかもしれません…彼は自分のためにデイタの中に眠っている力を欲しているように感じましたが…

ツノヤという青年を救いたい一心だったのですねーー

あぁ…そうなのかもしれないな…

ーー彼の心の傷も貴方との会話で少しは癒えたでしょうーー

それなら良かったぜ…

ーーしかし…彼の心は深く傷ついています…過去に大きな何かがあったのでしょうーー

ファボ…
アンタ他にも誰にも言えない何かを背負っているんだな…
なあ、癒しの力っていうのは焦っても扱えないんだろ?

ーーはい…貴方のいう通り、癒しの力とデイタの心が上手く重なり合うまでは時間が要るでしょうーー

そうか…
そしたらいつかはファボの心の傷も癒せるよな。

ーー…彼の心の傷はあまりにも深いです…何とも言えませんーー

…そうなのか……
それでもいつかはファボの心の傷も癒してやるぜ。

ーー…そうですね。貴方なら出来るかもしれません、デイタ。

…今は彼の晩酌に付き合うのが、一番彼の心に寄り添えるでしょうーー

…分かったぜ。ありがとうな。

「ぬししし!飲むぞぉ!デイタぁ!」

「あぁ…って、口移しだけはやめっんぐ!!」

ファボ…アンタが楽しそうならそれで良いぜ……。
俺は半ば諦め、ファボの酒の相手をする。

「貴様ぁ!長に酒を飲ませてはダメだ!!


…って!何をしている貴様ぁあああ!!この破廉恥男が!!」

とんでもない勢いで襖が開けられる。
そこには鬼の形相をしたメディーがいた。
そして運悪くファボが無理やり俺に酒を飲ませているところを見てしまう。
顔を真っ赤にさせて怒るメディー。

「いや!これは違っ…!!!」

「問答無用!!!」

この後俺はメディーにこれでもかってぐらいにボコボコにされて自分の部屋に放り投げられた。
ボコボコになった俺を見たツルギは、そう言えば長ってお酒を飲むとキス魔っていうのになるんだって。と他人事のように言う。

ツルギよ…
それは先に言わないと駄目だぜ?

俺は消えゆく意識と共に心の中でぼやく。

こうして俺はファボとも和解し、デンルトーでの旅を終えた。
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