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第1章 旅の始まり

「あああああ!!痛い!!内臓潰れやすげふぉ!!」

「アイツ一体何考えてやがっぐぶ!!」

猛スピードで動き出したと思えば急に止まり、俺たちを外に出す数珠。
数珠は何事もなかったかのようにふよふよ浮かびながらどこかへ行ってしまった。
俺たちは痛みに悶絶しながら外の景色を見渡す。
大きくて真っ白な建物がいくつも建っていた。

無機質なところだな…
つか、ラグースとかいう奴どこにいるんだ。
ヒトの気配すら全くしねぇーんだが…

「アニキ…なんだかこの無機質な建物怖いですぜい…」

「…一体何の建物だろうな…何かの施設か?」

怯えるラッスターの頭を軽く叩いて考える。
…が、考えても答えが出ない。
考えるよりも行動派な俺は目の前にあった無機質な建物の扉を開けようとする…が。

ガチャ

案の定頑丈に施錠されていた。

「アニキ…諦めて帰りやしょうよ…」

「ラグースっていうのに会ってねぇだろ?何もせずに帰ったら本当に実験材料にされちまう、ぜ!!」

力任せに扉を蹴る。
無残に変形した扉は鍵の意味を成さずに開く。
俺の予想外の行動と力に唖然とするラッスター。

「…ここで待っていてくれても大丈夫だぜ?」

「こ、こんな不気味な所に一人は嫌ですぜい!」

気を遣ったつもりだが逆効果だったようだ。
俺は苦笑いを浮かべ、警戒しながら建物の中に入っていく。
ラッスターも恐る恐る後ろを着いて行く。

建物の中は薄暗く、腐敗臭みたいな独特な臭いが漂っている。

「ひぎゃぁあああ!!」

「?!」

突然悲鳴を上げて俺の背中に抱き着くラッスター。
抱き着く力の強さからただ事ではないと太刀を構えて警戒心を高める。

「ア、アニキ…足元に…おえぇ」

「足元?…!!」

暗さにも慣れ辺りの風景が目に入る。
床には動物の内臓らしきものが散乱していた。
しかも一匹どころではなく無数の内臓が無造作に…

ラッスター…
吐く気持ちはよく分かる。

だけどよ…
俺の…俺の…

俺の背中で吐くのはやめてくれ。

「すいやせん…アニキの自慢のマントが…」

「…大丈夫だぜ」

マントじゃなくて服なんだけどな…と内心呟く。

気を取り直して周りを観察する。
実験台がありその上には血だまりができていた。
壁に目をやると大きなカプセルが並べられていてその中には見たことのない様々な生き物が入っていた。

「…実験施設みたいだな」

「アニキ…一番大きなカプセルの中にいる牛さん怪獣みたいな生き物と目があいやした。俺喰われるんですかいね?」

「何物騒なこと言ってんだ…カプセルの中にいるんだから大丈…?!」

突然ガラスの割れる大きな音が建物内に響き渡る。
そして大きな足音と共に地面が揺れる。

〈ア゛ァアアアアア゛ア゛!!!!〉

「「っ!!」」

足音の正体は一番大きなカプセルから出てきた牛と人間を雑ぜたような姿をした化け物だった。

おいおいおい…マジかよ…
俺の倍以上にでけぇ上に敵対心剥き出しの充血した眼で俺たちを見ているぜ。

俺は太刀を構えて戦闘態勢に入る。
ラッスターは化け物の迫力に口と目を開けたまま固まっていた。

〈モ゛オ゛オオオオオオウウ゛ウ゛ウ゛!!〉

ギーンッ!

化け物の繰り出したパンチが太刀と激しくぶつかり合う。
風圧で周りに散らばっていた内臓が飛び散る。

「おらぁあああ!!」

化け物の拳を弾き飛ばし腕に斬りかかる。

「っ!」

想像以上に固く太刀は化け物の腕の中で止まってしまった。
痛覚の無い化け物は腕を大きくかかげそのまま地面に俺ごと叩きつけた。

「がはっ!」

「アニキ!!…よくもアニキを!!この化け物!!」

フリーズから復帰したラッスターは自分の頭に乗っていた内臓を化け物の顔に叩きつける。

〈ウ゛ア゛ア゛ア゛!!!ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!〉

内臓を叩きつけられた化け物は酷く動揺し今まで以上に苦しそうな声を上げる。
その隙に俺は太刀を引き抜き態勢を整える。

「アニキ!大丈夫ですかい?!」

「あぁ。なんとか大丈夫だ!」

「おお!さすがアニキ!!あんな重たい一撃を喰らっても身軽に動けるとは!!」

………。
ラッスターよ…
それは俺も化け物って言いてぇーのか?
でも確かにこんなに動けるのはおかしい。

まさか…
治療してもらった時に…何かされたんか?
いや、今はそんなことを考えている場合じゃねぇーな。

俺の額に流れる冷たい汗を拭い太刀を握りなおす。

「アニキ!俺も一緒に戦いやす!!」

そう言い暴れまわっている化け物の元へ走っていくラッスター。

「ラッキーパーンチ☆」

そしてラッスターお得意の星型の光が飛び散る大技を繰り出した。
星型の光を間近に喰らった化け物は視覚を失いよろめく。

俺は跳び上がり渾身の力で化け物の頭から下まで太刀を振り落とす。

〈グオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!〉

化け物の体は見事に真っ二つに斬れ、崩れ落ちた。

「アニキー!!やりやしたねー!!やったー!!」

「へへっ…お前のサポートのおかげだぜ」

「そ、そんな!勿体ないお言葉ですぜ…!」

化け物を倒した俺たちは一安心していた。
ふと、部屋の奥に目をやると一つの扉が目に入る。

「…よし。奥に行ってみるか」

「はい!…この内臓たちがあれば化け物は怖くないですぜい」

「………。お前…吐くほど気持ち悪がってたのに…」

「あぁ、何だか吹っ切れやした」

戸惑う俺を気にせずに内臓を片手に笑顔なラッスター。
ポジティブというかマイペースというか…
でもお前のそういうところ嫌いじゃねぇーぜ。

俺たちは更に奥へと進んだ。


バンッバンッ!

「ふひゃひゃひゃ!!死ね死ね!!」

<いやあああ!!助けっ…あ…あああ…>

「「?!!」」

扉を開けると紅い景色が目に飛び込んだ。
そこには銃を無差別に打つ男に逃げ惑うヒト達がいた。
多くのヒトが惨殺されて辺り一面が血の海になっていた。

…何だ…これ……。

ショッキングな出来事に状況が呑み込めない俺たち。
しかし身体が勝手に動き、気付いたら俺は銃を撃ち続ける男の前に立っていた。

「やめろ!!!」

「ア、アニキ…!!」

「…誰だお前ら…俺の邪魔をするんなら殺す!」

立ち塞がる俺と付いて来てしまったラッスターにおかまいなく銃を連射する男。
ラッスターを後ろにし、太刀で銃弾を防ぐ。

「へぇ…俺の銃弾を防ぐとは…丈夫な武器だなぁ!」

「っぐ…!!」

腕を蹴られてよろめく。無防備になった俺に再び銃を向ける男。

「ラッキーパーンぐふっ!」

「あ?トロいんだよ」

俺を助けようと応戦するラッスター。しかし一瞬で蹴飛ばされてしまった。
その隙に太刀を構え、男に斬りかかる。
…が、簡単に避けられ蹴りを喰らう。

「残念だったな」

嘲笑い、俺の眉間に銃口を突きつける男。
…が、同時に銃を持っている手が凍っていく。

一体何が起きているんだ…?

「…これはこれは。冷血のカヌヤじゃないか」

「失せろ」

足音と共に現われた白衣を着た銀髪の少年。
その蒼く鋭い眼は見る者に威圧を与える。
どうやらこの銀髪の少年が男の手を凍らせたようだ。

男は俺から離れ、銀髪の少年と向き合う。

「俺は仕事をしているだけだぜ?そんなに怖い顔をするなよ」

「ふざけるな!こんなこと許される訳ねぇーだろ!」

男の理不尽な発言に思わず口を挟む。

「あぁ?意味が分からないな。実験に失敗したゴミ共を片付けるのが俺の仕事だ。ラグー様のご意思なんだよ!」

「コイツらはまだ失敗体ではない。」

「何言ってるんだ?こんな力も微塵も無いゴミ共を使っても成功作はできないんだよ!弱い奴は全員ゴミだ!」

男は素早い動きで俺たちに銃を乱射した。
ラッスターを後ろにし、太刀で防ぐ。
銀髪の少年も氷の壁を作り、防ぐ。

「ふざけんじゃねぇ…お前の勝手な考えで罪のない人々を傷つけるなんて絶対に許せねぇ!」

「っぐ!」

男の隙を見て、太刀を振り下ろす。
男は太刀を喰らい、よろめく。

「何故だ?何で怒っているんだ?俺はただラグー様の命令をこなしているだけなのに。

まあ良い。俺は俺の仕事を全うしとけば良いんだ。

水流弾(ウォーターブレット)!」

男は動揺していたが、体制を整え俺にめがけて銃を撃つ。

「ぐぁ!」

水を纏い格段と速くなった銃弾。
防ぐ間も無く、右横腹に貫通した。

「アニキィ!!!」

「…大丈夫だぜ」

「そんなはずがあるか。動くな。」

銀髪の少年は、氷の壁で男の攻撃を防ぎ、俺の傷口に手を当て治療をする。
傷口は塞がり、痛みも治まっていく。

「すまねぇ…ありがとうな」

「……足を引っ張るな」

そっぽを向き、男の方に人差し指を指す。
冷気が手に集まっていく。

「氷撃(ヒョウゲキ)」

「がはっ!!」

目にも留まらぬ速さで氷柱が男の左胸を貫通した。
俺とラッスターは驚きの声を上げる。

この少年すげぇ…。

ドゴォ!!!

「…何をしている」

「っ!貴様は…!」

扉が無残にも蹴飛ばされると共に威圧のある声が響く。
扉の向こうには金髪で紅い眼をした男がいた。
左頰にはひし形のタトゥーが三つ並んでいる。

コイツはヤバい。

本能がそう叫んでいる。
銀髪の少年も険しい表情をしている。

「…クレッスビィー。何だこの大量の死骸は」

「アンタがお出ましとは珍しいな…ゴミを処理していたんだよ」

「そんな無駄な時間など無いだろ?」

「…アンタまで俺の仕事にケチをつけるって言うのか」

「お前の仕事は、モンスターと化した失敗作を処分することのはずだが?」

金髪の男の圧倒的な威圧感に逆らえないクレッスビィーと言う男。
気まずそうに部屋を出ていく。

「…ラグースのお偉い様が何の用だ」

「お前らがいつまで経っても成功作を出さないから様子を見に来ただけだ。それ以外に用は……」

俺と目が合い、一瞬だけ固まった金髪の男。
そして、ズカズカと俺の元に寄り顔を覗き込む。

一体なんなんだ…コイツ…
動けねぇ…

「…生きてたのか」

「へ?」

「今回だけは見逃してやる。」

そう言い、その場から立ち去る金髪の男。
残された三人は状況を飲み込めずにその場に立ち尽くしていた。


「貴様、ネフェレーと知り合いなのか?」

「ネフェレー?…いや、知らねぇ」

「そうか…アイツはラグースのボス、ラグーの右腕だ。あんな恐ろしいのに目を付けられて哀れだな」

「良いぜ。アイツとはいずれ戦うことになるしな」

「え?!アニキ…それはどう言う意味ですかい?」

恐る恐る聞くラッスターに、呆れた目で俺を見る銀髪の少年。

「ラグースの奴らを止める!罪の無いヒト達を傷つけるだなんて許せねぇ!」

俺の決意を聞き、唖然とする二人。

「…クク。面白い奴だな」

「わ、笑っている…」

楽しそうに笑う銀髪の少年に驚きを隠せないラッスター。

「そういえば自己紹介がまだだったよな。俺はデイタ。よろしくな」

「お、俺はラッスターですぜい。よろしくお願いしますぜ。」

「…カヌヤだ」

差し出した手を見て、カヌヤはそっぽを向く。
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