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第1章 旅の始まり

「うぅ…」

目の前に広がる真っ白な世界。
孤独を感じさせるような部屋のベッドで寝ていた俺は起き上がる。
すると…

「誰の許可で動いてんだ?」

白くてフワフワした髪のヒトが現れた。
可愛らしい外見とは裏腹に俺の首を掴み、強引に寝かせる。

「いだだ!」

「安静にしねーからそうなんだよ」

「いやいや、お前が俺をベッドに叩きつけ」

「あー?誰に向かってそんな口聞いてやがんだ?俺は天才科学者、フズ様だ。」

痛みに悶絶している俺を無視しながら親切に自己紹介をするフズ様。

「うわあ!なにしてるんですかい?!」

扉の開く音がすると同時に星の少年が慌てて俺の元へ駆け寄る。

「また痛い思いさせてごめんなさい…俺がちゃんとしたヒトのとこに連れていけたら…」

「…大丈夫だから泣きそうな顔すんなってっでぇぁ!」

「あぁ、悪ぃ。あまりにも気持ち悪い偽善者っぷりだったからつい傷口開いちった」

なんの悪びれもなしに言うフズ。
少年が怒るが全く気にしていない。

非道なことしてよく涼しい顔していられるな…フズ様よ。
色々聞きたいことがあるのに何だか意識が遠くなってきたぜ…

「あらあら、フズ様。怪我されている方をそんなにいじめたら駄目じゃないですか」

いつの間にか現れた中性的な顔をしたヒトがフズの頭を撫でる。
フズは鬱陶しそうにその手を退かす。

「うちのフズちゃんがご迷惑かけてすみません。あ、私はドラゴと申します。」

「あ、あぁ…俺は、デイタ…」

「あらあら。フズちゃ…じゃなくてフズ様。デイタさん死にかけてますよ」

「民のくせによぉやわなんだよ」

「そんなこと言わずにお助けしてくださいな。少し走っただけでも息が上がるフズ様。」

俺の傷口に手をかざし治療してくれるフズ。
傷があっという間に塞がり、痛みも引いていく。
治療をしながらも片方の手でドラゴに向けて指を弾く。
すると小石ぐらいの大きさの氷の塊がドラゴに直撃した。
ついでにフズの意外な一面に笑ってた少年にもその破片が直撃する。

「…痛いじゃないですか、フズ様。」

「気絶するかと思いやしたぜ。」

「調子に乗った罰だ。…つか、破片で気絶する奴なんかいねぇっつーの」

「ボケボケなフズ様にツッコミを入れさせるとは…星君やりますねぇっはぐ!」

「少し黙ってろ」

回し蹴りをドラゴに喰らわすフズ。
その衝撃で部屋の壁にめり込むドラゴ。
そんなドラゴを一生懸命引っこ抜こうとする少年。

「…大丈夫なんか?」

「あー?他人よりも自分のこと心配した方が良いんじゃねんか?」

「え?」

「オメーとよそこの馬鹿星君は、一体何者なんだ?返答次第じゃ殺すことになんぜ」

恐怖を感じさせるような紅い目で俺を見る。

「あの少年のことは俺も分からねぇけど…俺はただの人間だぜ…?」

俺が人間という言葉を出した瞬間に固まるフズ。

「…人間だと?」

「あ、あぁ…」

再確認したフズは俯き体を震わせる。
そんな様子を見て警戒する俺。

「すっげぇええええ!!!」

「?!」

パァッと明るい表情になったかと思えば、俺の体を触りだすフズ。
俺は予想外の反応に困惑する。

「な、なんだよ…」

「滅多にお目にかかることができねぇーあの人間なんだろ?!すげぇーよ!なあ、脚もいでも良い?実験材料にすんから」

「な?!駄目に決まってんだろうが!」

好奇心旺盛な子供のようにはしゃぐフズ。
明るい笑顔で俺の脚を氷の刃で切断しようとする。
俺は慌ててその行為を阻止した。

「…成程。オメーはここがどんなところか全く分からねぇって訳か。」

「あぁ…気が付いたら知らない場所でよ…」

俺はなんとかフズを落ち着かせて、自分の状況と少年との出来事を話した。
ちなみに少年はまだ壁にめり込んでいるドラゴを助けようとしている。

「仕方ねぇーな!このフズ様が親切にこの世界のことを教えてやんぜ」

親指を立てて自分を指す誇らしげなフズ。

「ここは民たちが住む世界、タイルターだ。」

「タイルター…?」

「人間たちが住んでるとこはヒューストっていう世界なんだろ?」

「…そうなのか?」

「…オメー大丈夫か?」

確認で聞いたつもりだったフズは少し…いや、結構引いた目で俺を見る。

そんな目で見ないでくれよ…
孤島で住んでたんだから何にも分かんねぇんだ。

「困った迷子ちゃんだぜ…まあ、ヒューストのことは俺も詳しくは知らねぇからタイルターのことだけ説明すんからな」

「あぁ…頼む」

気を取り直して再び説明を始めるフズ。

「民っていうのは、見た目は人間と変わらねぇけど自然の力等を自由に操るこのできる生き物だ。人間よりも丈夫で長生きなんだぜ。なんでかよく分からねぇけど、民も人間もひっくるめて“ヒト”って呼んでんな。
民にも種族があって種族によって操れる力は違う。例えば、氷の民だったら冷気の力が使えたり、雷の民だったら電気の力を使えるんだ。
タイルターは、氷の民の住処、ブット。雷の民の住処、デンルトー。水の民の住処、ウタオル。風の民の住処、ウィード。魔の民の住処、ダータウン。この5大種族の住処と大自然によって構成されてんだ。
ちなみにここは氷の民の住処、ブットだ。実験が生きがいの氷の民が住んでいる。」

「へぇー…民ってすげぇんだな」

「…あぁ、言い忘れてたけどよ…民は人間が嫌いだ」

「え?」

「まぁ、俺は好きだけどな?興味深くて実験のしがいがある生き物じゃねぇか」

俺の肩を掴み、キラキラした目で俺を見るフズ。
身の危険を感じた俺はフズと距離を置く。
フズはつまんなさそうに溜息を吐いて、壁にめり込んだままのドラゴの元へ行く。

「!!」

躊躇なくドラゴの首元を片手で掴み、引っこ抜く。
力任せに引っこ抜かれたドラゴは苦しそうに咳込んでいる。
そんなドラゴの背中を擦る優しい少年。

少年が時間をかけて頑張っても引っこ抜けなかったのに…
その小柄な体にどれだけの力を隠し持っているんだ、フズ様よ。

「…で、オメーの願い通りにデイタを助けてやったぜ。次はそっちが約束を果たす番だぜ?馬鹿星君」

「…どういうことだ…?」

「じ、実は…助けてもらう代わりに何でも言うことを聞くという約束をしちゃいやした」

気まずそうに話す少年。

「うぅ…なんて健気なんですか…星君」

「さてさてーどんなことしてもらおうかなーひゃはは」

感動するドラゴに上機嫌なフズ。
不安そうに俺を見上げる少年の頭を撫でる。

「その約束俺が引き受けるぜ」

「!」

「…へぇ。じゃあ、そうしてもらうか。じっくーりと考えるからそれまで自由にしとけ」

そう言い部屋を出るフズ。
ドラゴも会釈をしてフズの後を追う。

「…何で正体も分からない俺なんかを庇うんですかい?」

「そりゃ命の恩人だからな。…助けてくれてありがとうな」

俺が笑うと少年の目に涙が浮かび上がった。

「貴方のその強い正義心に俺…感動しやした…っ」

「お、おう?!な、泣くなよ!」

号泣し出す少年に戸惑いつつも落ち着かせる。

「あの…アニキって呼んでも良いですかい?」

「あ、あぁ…好きなように呼んでくれ」

落ち着いた少年は嬉しそうに笑う。
アニキって…なんかくすぐってぇ感じだな。

「アニキ!アニキ!うへへっ」

「なんだよ。そんなにも嬉しいんか?」

「はい!俺、アニキみたいな強くてカッコいいヒトに出会ったことないですぜ!」

「そうかそうか」

そんなにも喜んでくれると俺まで嬉しくなっちまうぜ。

「アニキ!俺の名前つけてくだせぇ」

「あぁ。分かっ…え?!」

「尊敬するアニキに名前をつけていただきたいんですぜ!」

「おいおいおい…そんな急に言われても…」

――ラッキースター…ラッスター――

頭の中で突然声が響く。
またあの声だ…

ラッスター…確かにこの少年のイメージは星だもんな。
幸運そうだしな。

「よしっ…ラッスターだ!」

「おお!!ラッスター…良い名前ありがとうございやす!今日から俺はラッスターですぜっ」

「あぁ。これからよろしくな、ラッスター。」

「はい!よろしくお願いしやすアニキ!」

笑顔で握手を交わす俺とラッスター。

ドーン!!!

すると突然爆音が聞こえた。

「?…あぁ、俺たちの熱い握手に感極まったヒトがいるんですね」

「いやいやいや、意味分かんねぇからな。そんなことよりも一体何の音なんだ…?」

「きっとフズさんが実験に失敗して爆発起こしたんじゃないんですかい?」

「…確かにそれは有り得るっぐふ!」

「何納得してんだ。本気で実験材料にすんぞ」

好き勝手言っているといつの間にか現れたフズにどつかれた。
痛みに悶絶しつつフズに状況を聞く。

「この爆音はラグースによるものですねぇー」

部屋に入り、呑気に言うドラゴ。
フズの表情は険しくなり、拳で壁を破壊する。

「「?!」」

突然の行為に思考がついて行かない俺とラッスター。

「ラグースを止めてこい」

首元に着けていた数珠を一粒引きちぎるフズ。
引きちぎられた数珠が巨大化し、俺とラッスターを中に引き込む。

「え?ラグースって何…」

「実際に会ってみれば分かんぜ」

「ちょっ!え?!」

状況を把握しきれていない俺たちに遠慮なしで数珠にデコピンをするフズ。
数珠は目にも止まらない速さで外に飛び出す。

「あららー。フズ様手加減しないとお二方が潰れちゃいますよ?」

「あんなんで潰れてたら実験材料にしてやんぜ」

「………。ご健闘をお祈りします。」

誇らしげな表情をするフズ。
ドラゴは破壊された壁から見える外の景色に手を合わせる。
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