シャドウ・ザ・ヘッジホッグは、目の前の少年の姿を見つめ、思わず目を見開いた。
　顔立ちは、あの青いハリネズミ……ソニックによく似ていた。だが、毛色は黄色に黒が混じり、右目には深い傷跡。似ているのに、どこか決定的に違う。

　だが、それ以上にシャドウの意識を揺らしたのは──

　『俺、あなたになりたい！！』

　……なりたい、だと？
　僕に？　この"究極生命体"に？

　シャドウは言葉の意味を咀嚼しながら、ほんのわずかに眉をひそめた。
　
　……何を見て、そう思った？

　そんな問いが喉元まで出かかったその時──

　「名前は！？」
　「好きな食べ物ある？！」
　「どっから来たの！？飛んできたの！？ぴょーんって！！」
　
　少年は容赦なく言葉を投げつけてくる。

　「シャドウだ。シャドウ・ザ・ヘッジホッグ。」
　「……コーヒーは、よく飲む」
　「飛んで来たんじゃない……カオスコントロールだ」

　「カオス……コントロール！？　え、何それ！？　技！？　すごい技！？」

　「……落ち着け。質問が多すぎる」

　それでもルミナスは止まらない。

　「どれくらい強いの！？　怪獣に勝てちゃう！？　宇宙人とかロボットとか、パンチでドーン！？　……それともバシュンって避けて、後ろからズバッと！？」

　「……戦った経験はある」

　あっさりと、しかし事実だけを述べるその口調は、少年にとっては逆に火に油を注ぐ行為だった。

　黄色いキツネ──テイルスを思わせるその騒がしさ。
　だがそれよりもさらに一回り小さく、幼さを残したそのハリネズミは、まるでシャドウの周囲を衛星のようにぐるぐると回り続けていた。

　「……君は、いつもそんなふうに誰にでも話しかけるのか？」

　シャドウが半ば呆れたように問うと、ルミナスはピタリと足を止め、にっと笑った。

　「だって"ヒーロー"にはちゃんと聞きたいこと、聞いとかないと！」

　シャドウは、思わず黙った。
　“ヒーロー”──その言葉に、かつての誰かの面影がよぎる。

　──マリア。

　その名を心の奥にしまいながら、シャドウはほんのわずか、視線を落とした。
　目の前で真っ直ぐに自分を見上げる少年。その瞳に、何かが映っている。

　まだ定まらない、だが確かに輝く何かが。

　「……君には、聞くより先にやるべきことがあるはずだ」

　静かな声が、ルミナスの胸に響いた。
　そして彼は、不思議そうに首を傾げながらも、その言葉を真剣に受け止めようとしていた。