~輝りは影に憧れる~

 雨の音とポットが沸騰する音が響く、テイルスのラボ。
 
 外は土砂降り。屋根を叩く雨粒が、白い壁と静かな空気に淡いリズムを刻む。

 ラボの中ではソニックがソファに寝転び、組んだ足でリズムをとり、雨粒の音を聴きながら天井を見上げていた。

 「……それにしてもよく降るなぁ。もう濡れるのはごめんだぜ。おーい、テイルス、ココアもう一杯もらっていいか?」

 「はいはい。…自分で取りに来てくれても、いいんだけどなー?」

 テイルスが小さく笑いながらキッチンからマグカップを運びかけた、そのとき──

 ガチャッと、ラボのドアが開く。

 吹き込む冷気と共に、身体から滴る水滴の音。シャドウが、ずぶ濡れのまま現れた。

 その腕には、同じくびしょ濡れの、見慣れない小さなハリネズミが抱えられていた。

 「うわっ、ど、どうしたのさ!?シャドウ!?その子……!」

 マグカップに淹れたココアを危うく零しそうになりながら、テイルスが駆け寄る。
見たことのない顔だ。けれど、その泥まみれの身体とぐったりした様子に、緊急事態と即座に理解した。

 「タオルとソファー、借りるぞ。」

 それだけ告げて、シャドウはテイルスの言葉を待たずその場にかけてあったタオルを片手に、ルミナスを拭きながらそっと研究所の奥の仮眠室のソファーへと寝かせる。

 ソニックもすでに体を起こしていた。ルミナスの姿を見て、ふと目を細める。

 「……あれ、あの時の"小さなシャドウくん"じゃん」

 「……"小さなシャドウくん"……?」

 テイルスが困惑して聞き返すと、ソニックはにやりと笑った。

 「前にシャドウに会いに行ったときに会ったんだよ。"僕はシャドウだ"って堂々と名乗ってさ。……なかなかおもしろいやつだったぜ。」

 「……シャドウのファンって事?」

 「いや、ファンっていうよりなりきり……っていうか?……"本人っぽくしてる"って感じだったな。」

 テイルスがそっとルミナスの体に触れ、濡れた体温を確かめる。

 深い眠りに落ちている。だが、目元にはまだ疲労の跡が残っていた。

 「……熱はなさそうだけど、かなり疲れてるって感じだね……」

 シャドウは黙って壁に背を預け、ただルミナスの寝顔を見つめていた。普段と変わらぬ表情に見えて、その目にはわずかな翳りが浮かんでいる。

 ソニックが、ふと真面目な声で言う。

 「で、何があったんだ?シャドウ」

 シャドウは少しだけ視線を下げる。
 雨音がまた、室内に静けさを運ぶ。

 「……走りすぎる前に止められなかった。僕の落ち度だ。」

 その短い言葉に、ソニックとテイルスは静かに黙った。
ラボの中には、規則的な雨音と、穏やかで小さな寝息が響いていた。
 

「……あ、ちゃんと自分の身体も拭いてね?シャドウ。」
 
「ついでに床と壁もなー。お前の跡。びしょ濡れだぜ?」

「………ああ。」
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オリソニ豆知識図鑑