愛猫と私
今宵の月はいつもより輪郭が霞んでみえる。頬に流れる冷たさは、誰のための温度なのか。口から流れ込む冷気が、肺まで冷やしていくようで。
あら、「ミミちゃん」
擦り寄ってくる黒猫。触れたところから温かくなっていく。大丈夫だよ、って言ってくれるの?ありがとう。大丈夫だよ、私は大丈夫なの。ベランダは寒いよね。ごめんね。
「部屋に戻ろうか?」
缶ビールを片手に愛猫のミミちゃんを抱えて、寒い寒いと言いながら部屋に戻る。暖かい部屋のベッドに入り込む。ミミちゃんも一緒に潜り込んできた。かわいいミミちゃん。この子のために生きなければならない。この子にも私しかいない。毎日毎日、ため息ばかりの主人でごめんね。抱え込んで温もりを感じる。
不器用だと周りは言う。私も自分は不器用だと思う。自分の意思がなければ、もっと上手くやれるのだろうか。自分の意思を持ちながら器用に生きられる人もいると言うのに。難しいね。難しいのが生きるってことなのよね。「ミミちゃん、私どうしようかねぇ」
にゃー
「大丈夫って言ってくれるの?」
目を細めて頭を擦り付けてくる可愛い愛猫。分かっているの、ミミちゃんはただ鳴いているだけ。本当は、私が大丈夫だよと言ってほしいだけ。誰かに言ってほしいその一言を、自分で言うのは虚しいからミミちゃんが言っているように思いたかっただけ。
そんなつまらない自分に余計ため息が出てしまいそうになる。口を開いた瞬間、ミミちゃんの手が私の口を覆った。…え?
にゃー
ああ。もしかしてもしかする?ミミちゃんは私を励まそうとしてくれるのかしら。なんてね。可愛いミミちゃん。大好き。ふふふと笑って、愛する黒猫を抱きしめた。
おやすみ。明日も頑張ろう。
カーテンの隙間からみえる月は、それはそれは見事な三日月であった。
おわり。
ペットはいません。妄想です。
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