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永遠のカナシ

カナシ 18歳の場合





 どんなに名前を呼んだところで誰も来やしない。望みを紡ぐ唇はない。
 もう、全てを諦めてしまった。


 痛みも哀しみも、そして涙も過去に置いてきた。それはそれで良かったのだと思う。そうでなければワタシは此処にいられなかったはずだから。
 学校は檻だ。逃げられない。学生であるうちはこの檻に大人しく留まらなけれらならない。望もうが望まなかろうが。
 殴られた頬をさすって、傷だらけの制服を整え、痛む足を引きずる。誰もいない家へと向かった。母が遺してくれた一軒家。母と弟は去年事故でなくなった。母は彫り師であった。稼ぎは多くないが、母方の家族が裕福であったため豊かな暮らしができた。事故で孤独になったとき、おばあちゃん達は一緒に住むことを提案してくれた。ただ、ワタシがそれを受け入れなかったのだ。いや、受け入れられなかった。

「こんなにも、思い出が溢れているんだもん…ここから出たくないよ。」

 約束として週1回のおばあちゃんの訪問が設けられた。毎週日曜日はおばあちゃんが来てくれる日。いつになればこの家から出られるのだろう。思い出が詰まったこの家しか、ワタシには残されていない。
 慣れた手つきで傷の手当てをする。
 それもこれもあと数ヶ月。次の春でワタシは檻から出られる。我慢。あと少しの我慢。
 唯一の希望を抱いて今夜は眠った。


 その日は雲ひとつない空だった。晴れやかな空気を吸い、学校へ一歩また一歩と進んでいく。すると突然、背中に衝撃が走った。

「痛っ…」

 膝から崩れ、アスファルトへ倒れ込む。振り返ると奴らがいた。ワタシが憎む、奴ら。半笑いでワタシを取り囲む。下品なスカート丈。汚らわしい色の髪。似合わない化粧。何でこんな奴らにワタシが汚されなければならないの。

 「あたし達の通行の邪魔なんだよ!」「お前よく学校来れるな!」「まじきめぇ」「死ねよ」暴言、暴言、暴言、暴言…止まない冷たい言葉の雨。そして全身に浴びせられる痛み纏う衝撃。ああ、だれか…

 タスケテ。

「何してんの?」

 低い声。ああ、これは。

「楽しそうじゃん。お前ら本当趣味悪い遊びしてんな。」
「楽しそうっていうお前も悪趣味じゃん!」
「レイコの彼氏?イケメンじゃん。レイコの彼氏も一緒に遊ぼうよ!ストレス発散できるよ。」

 ああ、これは。絶望。終わらない絶望。

 女の力とは比べ物にならないくらいの痛み。朝食べた物が口から飛び出た。口を開いたまま、腹の激痛に耐える。アスファルトは涎で黒く染まっていた。ワタシはただただ終わるのを待っていた。
 どれだけ時間が経ったのだろう。気づいたら意識が飛んでいたらしい。目が覚めると周囲には誰もいなかった。

 「…うっ、いた…きもちわる…」

 こんな晴天の朝も奴らにかかれば、土砂降りの雨。口元の涎を拭い、腹をおさえながら歩く。今から向かえば、1時間目の授業中だろう。トイレで汚れを落とせば2時間目は出れるはず、と考えてワタシは学校へ向かった。




 
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