短編集
夢主が冥府の王の代理となって幾らか時が流れた。父ほど有能とは言い難いが確かな品格と力を持ち合わせ徐々にだが周囲に認められ始めた夢主は玉座に見合う王となるべく日々努めている。
夢主は父と同じやり方で統べようとは考えてはいなかった。自分の方針で冥界を統治し安寧をもたらそうと努力することを決め冥闘士達との間に信頼関係を築くことをまずはと決めた。
最もな方法は実力、力を持つこと。これに関しては問題はない。冥衣を纏ってさえいれば神には劣るがそれなりに戦えるし父の恩恵である程度のこともできる。
それらを加味して冥界三巨頭は夢主を認めてはいるが夢主が思っている以上に冥闘士達は夢主に信を置いている、それは前世の夢主との信頼関係の派生ではあるため不要な争いを生まずに住んでいることは今の夢主にとって有り難かったが当然、人間の夢主は前世とは勝手が違う。
それなりに悩みもする、人間というのは余計な感情を抱きがちだ。しかしそれから努力しようとする姿は好印象であることに違いない。
夢主はまず、任務の報酬に対して褒美を与えることを決めた。報酬は与えられる範囲でなら大抵のものを、ということに限定してはいるが。
言葉のみならず形にすれば意欲に繋がると考えた。単純だが明確な方法である、勿論特段欲しがらないのなら無理強いはしないつもりだ。
「それで、ミーノスは何が欲しい。私に与えられるものをお前に与えよう。遠慮なく申すと良い」
玉座から夢主は膝をつくミーノスを見下ろした。その美しい顔立ちは白銀の髪と合わさり一層引き立つと改めて感じるがあまり心地の良いとは言えない笑みで夢主を見つめ返す。
「どのような願いでも宜しいのですか」
「私が叶えることができる範囲ならばな」
「ふふ、でしたら夢主様にしかできぬことを望んでも?」
「…それはまた、不思議な願いになりそうだな」
肘をつき夢主は呆れたようにぼやいた。夢主とてミーノスの自身に対する執着を理解していないわけではない。とはいえ褒美をなかったことにするわけにもいかない、故に拒絶はしないがミーノスはそれすら理解しているかのように微笑むのだ。可愛げがあるのかないのか、わかってたまるかとつい思ってしまうのは仕方のないことだろう。
「では今夜、夢主様の寝室にお伺い致します」
細めた目から垣間見えた欲望を一瞥し夢主は否定も肯定もしなかった。それが答えだと彼はもう知りえている。
ねっとりと、その舌が指を撫でる。爪の先から手首まで丁寧に舐め上げ唾液に塗れた手だがミーノスはそれはそれは喜ばしそうにしゃぶっている。
「ん、ふぅ…は、んん」
ぬちゅぬちゅと音を立てて吸い付き自身の指先を絡めながらミーノスは夢主の指を頬張った。
この男は美しい容姿とは裏腹に醜い欲望に塗れている。現にそれが今目の前でむざむざと披露され夢主は抗わずに眺めているが趣味がいいとは言えない光景に閉口し続けるほかない。
「はふ、んふ…むちゅ……んっ♡」
まるで奉仕でもしているのかのような甘い吐息を放ちながら夢主の指をざりざりとした舌で何度も舐め上げ吸い付く様は不気味さに塗れているがそれを止めはしない。
褒美なのだから夢主には理解できずともミーノスが満足するまでさせてやるのだ、主としてその品格を守るように、冷静に努めながら椅子に腰掛ける夢主の様子を見上げミーノスは頬を緩める。
「はぁ、夢主様…♡ふふ、見てください。貴女の指がこんなにふしだらに見えることなど此の先ありはしないでしょう。私だけ、私だけの甘美な時間…あぁ、私は幸せです…」
手のひらに頬を擦り付ける笑みを浮かべるミーノスにかける言葉を見つけられず、しかし嫌悪を示さず凛として振る舞う顔はもはや陶器のようだ。
それこそミーノスが愛する夢主の顔だ、この美しい顔がたまらなく彼は好きだった。
前世の夢主と同様にその瞳は透き通り黒い髪には艶がある。整ったその顔が自分を見下ろす光景の歪さには心が躍るものだ、彼女は冥王の子、しかし戦士ではなかった。
戦うことはあるが好んではいない、戦うのはあくまで冥府と父、そして同胞たる冥闘士を守るという目的のため。
故に美しかった、くすみのない純粋な狂気のようなそれはミーノスの心を奪うには十分だったのだ。
ちゅうちゅうと指先を舐め啜り爪の隙間まで唾液が染み込むかのように舌を這わせる。
夢主は慈愛の人だ、褒美という名目もあるがゆえに決して抵抗はしない。
「物好きな奴め」
そう言いながら舐められてはいない指で頬を摩るのだ。
ミーノスはぞくりと背中を走る快感に体を振るわせ犬のように主に媚びる瞳をのぞかせる。
「健気なのか、はたまた愚かなのか………だがどちらでもいい、お前のことは嫌いではないのだから」
夢主はまるで女神のように微笑む。暗く冷たい冥界の底に似合う姿でありながら陽の光のような温もりを纏った主君をミーノスはじっと見つめ首を垂れた。
「どうかこの卑しい雄に貴女の祝福を、貴女の愛こそが私の最も望むもの。どうか、私に触れて穢してくださいませ」
意のままに操られる傀儡に成り果てようとしている、否、それを望んでいる。ミーノスは服従こそが自身の願いであることを知っている。欲望の天秤は今や瓦解したのだ。この敬愛するたった一人の自身の女神のもとで。
「それがお前の望みならば」
髪を払い銀の髪から覗いた瞳は嬉々として光を帯び、祝福を待ち侘びている。
もはや天使の喇叭など錆びついたかのように、夢主が椅子から立ち上がり軋んだ床の音が彼の耳を撫でながら涎を垂らした卑しい犬は首輪を彼女に捧げるのであった。
夢主は父と同じやり方で統べようとは考えてはいなかった。自分の方針で冥界を統治し安寧をもたらそうと努力することを決め冥闘士達との間に信頼関係を築くことをまずはと決めた。
最もな方法は実力、力を持つこと。これに関しては問題はない。冥衣を纏ってさえいれば神には劣るがそれなりに戦えるし父の恩恵である程度のこともできる。
それらを加味して冥界三巨頭は夢主を認めてはいるが夢主が思っている以上に冥闘士達は夢主に信を置いている、それは前世の夢主との信頼関係の派生ではあるため不要な争いを生まずに住んでいることは今の夢主にとって有り難かったが当然、人間の夢主は前世とは勝手が違う。
それなりに悩みもする、人間というのは余計な感情を抱きがちだ。しかしそれから努力しようとする姿は好印象であることに違いない。
夢主はまず、任務の報酬に対して褒美を与えることを決めた。報酬は与えられる範囲でなら大抵のものを、ということに限定してはいるが。
言葉のみならず形にすれば意欲に繋がると考えた。単純だが明確な方法である、勿論特段欲しがらないのなら無理強いはしないつもりだ。
「それで、ミーノスは何が欲しい。私に与えられるものをお前に与えよう。遠慮なく申すと良い」
玉座から夢主は膝をつくミーノスを見下ろした。その美しい顔立ちは白銀の髪と合わさり一層引き立つと改めて感じるがあまり心地の良いとは言えない笑みで夢主を見つめ返す。
「どのような願いでも宜しいのですか」
「私が叶えることができる範囲ならばな」
「ふふ、でしたら夢主様にしかできぬことを望んでも?」
「…それはまた、不思議な願いになりそうだな」
肘をつき夢主は呆れたようにぼやいた。夢主とてミーノスの自身に対する執着を理解していないわけではない。とはいえ褒美をなかったことにするわけにもいかない、故に拒絶はしないがミーノスはそれすら理解しているかのように微笑むのだ。可愛げがあるのかないのか、わかってたまるかとつい思ってしまうのは仕方のないことだろう。
「では今夜、夢主様の寝室にお伺い致します」
細めた目から垣間見えた欲望を一瞥し夢主は否定も肯定もしなかった。それが答えだと彼はもう知りえている。
ねっとりと、その舌が指を撫でる。爪の先から手首まで丁寧に舐め上げ唾液に塗れた手だがミーノスはそれはそれは喜ばしそうにしゃぶっている。
「ん、ふぅ…は、んん」
ぬちゅぬちゅと音を立てて吸い付き自身の指先を絡めながらミーノスは夢主の指を頬張った。
この男は美しい容姿とは裏腹に醜い欲望に塗れている。現にそれが今目の前でむざむざと披露され夢主は抗わずに眺めているが趣味がいいとは言えない光景に閉口し続けるほかない。
「はふ、んふ…むちゅ……んっ♡」
まるで奉仕でもしているのかのような甘い吐息を放ちながら夢主の指をざりざりとした舌で何度も舐め上げ吸い付く様は不気味さに塗れているがそれを止めはしない。
褒美なのだから夢主には理解できずともミーノスが満足するまでさせてやるのだ、主としてその品格を守るように、冷静に努めながら椅子に腰掛ける夢主の様子を見上げミーノスは頬を緩める。
「はぁ、夢主様…♡ふふ、見てください。貴女の指がこんなにふしだらに見えることなど此の先ありはしないでしょう。私だけ、私だけの甘美な時間…あぁ、私は幸せです…」
手のひらに頬を擦り付ける笑みを浮かべるミーノスにかける言葉を見つけられず、しかし嫌悪を示さず凛として振る舞う顔はもはや陶器のようだ。
それこそミーノスが愛する夢主の顔だ、この美しい顔がたまらなく彼は好きだった。
前世の夢主と同様にその瞳は透き通り黒い髪には艶がある。整ったその顔が自分を見下ろす光景の歪さには心が躍るものだ、彼女は冥王の子、しかし戦士ではなかった。
戦うことはあるが好んではいない、戦うのはあくまで冥府と父、そして同胞たる冥闘士を守るという目的のため。
故に美しかった、くすみのない純粋な狂気のようなそれはミーノスの心を奪うには十分だったのだ。
ちゅうちゅうと指先を舐め啜り爪の隙間まで唾液が染み込むかのように舌を這わせる。
夢主は慈愛の人だ、褒美という名目もあるがゆえに決して抵抗はしない。
「物好きな奴め」
そう言いながら舐められてはいない指で頬を摩るのだ。
ミーノスはぞくりと背中を走る快感に体を振るわせ犬のように主に媚びる瞳をのぞかせる。
「健気なのか、はたまた愚かなのか………だがどちらでもいい、お前のことは嫌いではないのだから」
夢主はまるで女神のように微笑む。暗く冷たい冥界の底に似合う姿でありながら陽の光のような温もりを纏った主君をミーノスはじっと見つめ首を垂れた。
「どうかこの卑しい雄に貴女の祝福を、貴女の愛こそが私の最も望むもの。どうか、私に触れて穢してくださいませ」
意のままに操られる傀儡に成り果てようとしている、否、それを望んでいる。ミーノスは服従こそが自身の願いであることを知っている。欲望の天秤は今や瓦解したのだ。この敬愛するたった一人の自身の女神のもとで。
「それがお前の望みならば」
髪を払い銀の髪から覗いた瞳は嬉々として光を帯び、祝福を待ち侘びている。
もはや天使の喇叭など錆びついたかのように、夢主が椅子から立ち上がり軋んだ床の音が彼の耳を撫でながら涎を垂らした卑しい犬は首輪を彼女に捧げるのであった。