情熱のヴェルギリウス
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好きになるのに理由を求めたがるのはきっと根拠が欲しいからなのだとふと白石蔵ノ介は思う。好きになった理由があれば堂々として居られるしその好意を噛み締めて一層胸が高鳴る、それが恋であるならもはや手に負えぬほどの代物へと変貌しうるのだろうが白石は人一倍己を律することのできる男だった。
チラリと覗き見た瞳は強く前を見据え獣のように牙を研いで食うその時を淡々と待ち侘びている、彼女は美しいが同時に恐ろしいほど強かった。白石の持ち得る完璧を白とするなら彼女の完璧は黒に近い、それは立海で培い尚且つ夢主の側で彼女を支え育て続けた存在の影響なのだろう。それでも穢れたテニスではなく高みを目指す唯一のテニスであることを勿論知り得たから決して白石は夢主を軽蔑することはなかったしむしろその直向きさに。
「(ほんま、ベタ惚れもええとこやな)」
嘲笑しながらも幸せだった。出会ったあの日自分のテニスに惚れたと語る幼子のような無垢な姿は今や見る影もなく逞しくそして美しい彼女がそこにはいた。けれど時は無限ではない、別れが近づくのを薄々と勘付きながらもそれまではと夢主の背を支え共に歩んできたというのに目の前に居る彼女は大人びていた。
「勝つよ、今日は何があっても」
長く艶やかな髪を切り別人のようにグリップを握る彼女はもはや自分の知る人とは別のようだった。強い覚悟を持って自分と試合をしたいと切り出した昨日から何を脱ぎ捨ててここに立っているのかは明白である。それでも白石は問いかけはしなかった、それが愛なら合点がいく。自分は夢主にとって良い人でありたかった、例えそばにいることが敵わなくても彼女の夢のために背を押してやれる人間になりたい。欲深く欲しても誰も咎めないだろうにそれでも白石は健気であり続けるのは夢主にとってそれほど夢がかけがえのないものだとよくわかっているからだ。
隣に居て誰より見守り続けてきた、努力も悔しさも、涙すら掬い上げてきた。だから敗北してなお微笑んで見送った。後悔していないといえば嘘になる。けれどいずれと気持ちを抑えつけて春を迎える。
「なんや辛気臭い顔しくさって」
謙也が机に突っ伏した白石の頭を小突くと何とも正気のない顔をした男が小さく笑った。
「俺、そないに酷い顔しとるんか」
鏡を見てもきっと自分の本当の顔を見つけ出すことはできないのだろう。こればかりは時間が解決してくれることに期待してそっと蓋を閉じておくのが得策なのだろうが中学から同じクラスでしかも部活で切磋琢磨してきた謙也にはどうしても放っておけなかった。
白石が夢主に惚れるのは道理として間違いではない、ダブルスのパートナーの枠組みでは収まることのない特別な感情を彼は否定しなかったが夢主はそうではなかったことも薄々気付いていたが別れという方法で完結するとは謙也には理解し難かった。
監督であるオサムも部員も白石と夢主のダブルスの可能性に未来を見ていた。それほど期待されていても夢主の意志は折れなかったし白石も引き留める言葉を使いはしなかった。仮に言葉にして未来が変わったとしても白石には夢主の情熱へ釘を刺すことができただろうか。今では誰も答えを知る由はない。
「…なんや胸に穴空いたみたいや、俺の心臓、二つやったんやな」
一つは大きな音を立て、一つは静かに波打っている。
自分の知らない誰かが心臓を高鳴らせているならそれは最高に気分が悪い。それがわかっただけでも前に進める気がした。
白石は人並みの胸の痛みで目を覚ました。
チラリと覗き見た瞳は強く前を見据え獣のように牙を研いで食うその時を淡々と待ち侘びている、彼女は美しいが同時に恐ろしいほど強かった。白石の持ち得る完璧を白とするなら彼女の完璧は黒に近い、それは立海で培い尚且つ夢主の側で彼女を支え育て続けた存在の影響なのだろう。それでも穢れたテニスではなく高みを目指す唯一のテニスであることを勿論知り得たから決して白石は夢主を軽蔑することはなかったしむしろその直向きさに。
「(ほんま、ベタ惚れもええとこやな)」
嘲笑しながらも幸せだった。出会ったあの日自分のテニスに惚れたと語る幼子のような無垢な姿は今や見る影もなく逞しくそして美しい彼女がそこにはいた。けれど時は無限ではない、別れが近づくのを薄々と勘付きながらもそれまではと夢主の背を支え共に歩んできたというのに目の前に居る彼女は大人びていた。
「勝つよ、今日は何があっても」
長く艶やかな髪を切り別人のようにグリップを握る彼女はもはや自分の知る人とは別のようだった。強い覚悟を持って自分と試合をしたいと切り出した昨日から何を脱ぎ捨ててここに立っているのかは明白である。それでも白石は問いかけはしなかった、それが愛なら合点がいく。自分は夢主にとって良い人でありたかった、例えそばにいることが敵わなくても彼女の夢のために背を押してやれる人間になりたい。欲深く欲しても誰も咎めないだろうにそれでも白石は健気であり続けるのは夢主にとってそれほど夢がかけがえのないものだとよくわかっているからだ。
隣に居て誰より見守り続けてきた、努力も悔しさも、涙すら掬い上げてきた。だから敗北してなお微笑んで見送った。後悔していないといえば嘘になる。けれどいずれと気持ちを抑えつけて春を迎える。
「なんや辛気臭い顔しくさって」
謙也が机に突っ伏した白石の頭を小突くと何とも正気のない顔をした男が小さく笑った。
「俺、そないに酷い顔しとるんか」
鏡を見てもきっと自分の本当の顔を見つけ出すことはできないのだろう。こればかりは時間が解決してくれることに期待してそっと蓋を閉じておくのが得策なのだろうが中学から同じクラスでしかも部活で切磋琢磨してきた謙也にはどうしても放っておけなかった。
白石が夢主に惚れるのは道理として間違いではない、ダブルスのパートナーの枠組みでは収まることのない特別な感情を彼は否定しなかったが夢主はそうではなかったことも薄々気付いていたが別れという方法で完結するとは謙也には理解し難かった。
監督であるオサムも部員も白石と夢主のダブルスの可能性に未来を見ていた。それほど期待されていても夢主の意志は折れなかったし白石も引き留める言葉を使いはしなかった。仮に言葉にして未来が変わったとしても白石には夢主の情熱へ釘を刺すことができただろうか。今では誰も答えを知る由はない。
「…なんや胸に穴空いたみたいや、俺の心臓、二つやったんやな」
一つは大きな音を立て、一つは静かに波打っている。
自分の知らない誰かが心臓を高鳴らせているならそれは最高に気分が悪い。それがわかっただけでも前に進める気がした。
白石は人並みの胸の痛みで目を覚ました。