情熱のヴェルギリウス
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私には勇気が足りないのだ。
帰路を俯きながら歩くと虚しさが体を覆う。酷く孤独でその癖安心する、ふぅっと息を吐くと途端に目の前が白く染まるが鼻先が冷たく目を瞑ってぶるりと震えた。
自分の決断をいつだって信じてきた、夢主にとっての誇りとは夢に賭けられる思いだった。だからどんなものをも犠牲にして成し得るために汗水垂らし心血を注いでグリップを握ってきたというのに、今更になって迷いが生じている。
「(正しいさ、そりゃあそうだよ。私にはこれが正しいんだよ)」
自分を言い包める言葉を探しては安心感に救われたがっている、なんと哀れなものか。
こんな不安定な自分では到底夢を追いかけていられないと自覚している、だがその処理に何を用いれば良いのか検討もつかないのだから辛い話だ。
人を好きになることは素敵なことだなんて思えるはずもない。
ビー玉みたいなキラキラした恋だったらきっと飛びついて喜んだだろう、砂糖のような甘く煌めいた恋なら頬擦りをして微笑んだ、でも何にも該当しないのだ。
「(蔵ノ介が好きだなんて、どうしてなんだろう)」
恋をしたのに今になって彼のことを思うと血の気が引くような感覚に陥ってまともに彼を見れなかった。きっとこれは罪悪感なんだと夢主は自身の感情をなぞっている、そうして罪の意識に苛まれる罪人のように暗い牢の中で必死に救われる時を待ち侘びているのだから救いようもない話だ。
仮にダブルスのパートナーである自分が彼に好意を示したらどうなるのだろう。そんな目で見られて彼は気味悪がらないだろうか。
不純な動機でダブルスを組んで欲しいと頼んだのかと問い詰められたら即座に違うと否定するさ、彼のテニスに惚れたのは事実だが彼自身に好意を抱いていたわけではなかった。その時は違ったのに彼が女生徒と話している姿を見た際に夢主はふとその横顔は自分の知らないものであった。これは錯覚なのかもしれない、けれど将来蔵ノ介の横に居るのは少なくとも自分ではないのだろうと思うと息が詰まってしまう。
知らない誰かと幸せな日々を過ごし笑みを浮かべている彼を思うと虚しくなった、自分が過ごした時間が無為になっていく。塗り潰された思い出が彼の地盤になって誰かとの幸福に繋がるなど、嫌だ。
そうして受験シーズンになると自ずと彼と面と向かって話すことを避け始めた。そして決断した、立海へと戻ることを。
プロを目指している自分が特待で立海の推薦を取れるのは願ってもないこと、関西よりも関東で活躍することはメリットのほうが多いしスポンサーの話なんかも小耳に挟んでいるのだから立海大附属高等学校へ進学するのは可笑しな話ではないだろう。
これは嘘偽りのない決断だ、ただその中に白石との決別が含まれているのも嘘ではない。
「ホンマにええんか、白石とのダブルスは理想型やで。高校行ったら今度こそナンバーワンになれる、俺にはそう思っとるんやけどな」
オサムは夢主をじっと見つめて問いかける。彼は純粋に二人を評価しそして顧問として悪くない未来を示しているが夢主は悲しげに俯いて窓枠に腰掛けた。
「オサム先生、私はこのままだと蔵ノ介を手放せなくなりそうなんです。夢の為にあいつを犠牲にしてしまう、あいつの未来を奪ってしまう。私は酷い人間だから彼の側にはいられないよ」
困ったように笑う夢主を見てオサムは夢主の抱える葛藤を覗き見た。苦しいのは夢主自身だ、手では抑えきれないほどの夢への渇望が大切なものを傷つけてしまうことへの恐れ、そしてそれを受け止めた上で白石から離れようと幼いながら決断したのだ。
いつの間にか大人びた顔をするようになった夢主は泣くことはできないもののこうして自身の本音を不安に苛まれながら打ち明けた。オサムにはその夢主を引き止めることはできそうになかった、彼女もまた別れを経て大人になろうと足掻いているのだから。
「蔵ノ介は私が居なくても強いから」
テニスも学校生活も満足に送れるよ。
私はそうはいかないかもしれないけれど。
帰路を俯きながら歩くと虚しさが体を覆う。酷く孤独でその癖安心する、ふぅっと息を吐くと途端に目の前が白く染まるが鼻先が冷たく目を瞑ってぶるりと震えた。
自分の決断をいつだって信じてきた、夢主にとっての誇りとは夢に賭けられる思いだった。だからどんなものをも犠牲にして成し得るために汗水垂らし心血を注いでグリップを握ってきたというのに、今更になって迷いが生じている。
「(正しいさ、そりゃあそうだよ。私にはこれが正しいんだよ)」
自分を言い包める言葉を探しては安心感に救われたがっている、なんと哀れなものか。
こんな不安定な自分では到底夢を追いかけていられないと自覚している、だがその処理に何を用いれば良いのか検討もつかないのだから辛い話だ。
人を好きになることは素敵なことだなんて思えるはずもない。
ビー玉みたいなキラキラした恋だったらきっと飛びついて喜んだだろう、砂糖のような甘く煌めいた恋なら頬擦りをして微笑んだ、でも何にも該当しないのだ。
「(蔵ノ介が好きだなんて、どうしてなんだろう)」
恋をしたのに今になって彼のことを思うと血の気が引くような感覚に陥ってまともに彼を見れなかった。きっとこれは罪悪感なんだと夢主は自身の感情をなぞっている、そうして罪の意識に苛まれる罪人のように暗い牢の中で必死に救われる時を待ち侘びているのだから救いようもない話だ。
仮にダブルスのパートナーである自分が彼に好意を示したらどうなるのだろう。そんな目で見られて彼は気味悪がらないだろうか。
不純な動機でダブルスを組んで欲しいと頼んだのかと問い詰められたら即座に違うと否定するさ、彼のテニスに惚れたのは事実だが彼自身に好意を抱いていたわけではなかった。その時は違ったのに彼が女生徒と話している姿を見た際に夢主はふとその横顔は自分の知らないものであった。これは錯覚なのかもしれない、けれど将来蔵ノ介の横に居るのは少なくとも自分ではないのだろうと思うと息が詰まってしまう。
知らない誰かと幸せな日々を過ごし笑みを浮かべている彼を思うと虚しくなった、自分が過ごした時間が無為になっていく。塗り潰された思い出が彼の地盤になって誰かとの幸福に繋がるなど、嫌だ。
そうして受験シーズンになると自ずと彼と面と向かって話すことを避け始めた。そして決断した、立海へと戻ることを。
プロを目指している自分が特待で立海の推薦を取れるのは願ってもないこと、関西よりも関東で活躍することはメリットのほうが多いしスポンサーの話なんかも小耳に挟んでいるのだから立海大附属高等学校へ進学するのは可笑しな話ではないだろう。
これは嘘偽りのない決断だ、ただその中に白石との決別が含まれているのも嘘ではない。
「ホンマにええんか、白石とのダブルスは理想型やで。高校行ったら今度こそナンバーワンになれる、俺にはそう思っとるんやけどな」
オサムは夢主をじっと見つめて問いかける。彼は純粋に二人を評価しそして顧問として悪くない未来を示しているが夢主は悲しげに俯いて窓枠に腰掛けた。
「オサム先生、私はこのままだと蔵ノ介を手放せなくなりそうなんです。夢の為にあいつを犠牲にしてしまう、あいつの未来を奪ってしまう。私は酷い人間だから彼の側にはいられないよ」
困ったように笑う夢主を見てオサムは夢主の抱える葛藤を覗き見た。苦しいのは夢主自身だ、手では抑えきれないほどの夢への渇望が大切なものを傷つけてしまうことへの恐れ、そしてそれを受け止めた上で白石から離れようと幼いながら決断したのだ。
いつの間にか大人びた顔をするようになった夢主は泣くことはできないもののこうして自身の本音を不安に苛まれながら打ち明けた。オサムにはその夢主を引き止めることはできそうになかった、彼女もまた別れを経て大人になろうと足掻いているのだから。
「蔵ノ介は私が居なくても強いから」
テニスも学校生活も満足に送れるよ。
私はそうはいかないかもしれないけれど。
1/7ページ