夢主の名前
素晴らしき新世界へ。
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腕で抱きしめて、優しい声で囁いて。
私は夢主だけのものだよ。だから夢主も私だけのものになって。
ずっとずっと、夢主といられれば、それだけで私は幸せだから。
この想い、いつか答えてくれるって信じてる。
険しい街道を進む軍が緑の旗を掲げて行進する。目指すは北、魏の国である。
趙雲、馬超、黄忠らの面々名を連ねる武将の中に夢主の姿があった。あまり目立つ方ではないが、確かにその姿は確認できる。両隣には星彩、鮑三娘の姿も。兵士達はその三名に思わずぼーっと見とれながら彼らの後を歩いていた。
呉の使者らはしばらくの滞在の後ついに国に帰った。陸遜ももちろん良い顔はしなかったが、渋々といった様子で何とか背を向けてくれた。あの事件のことは誰にも言わず胸に仕舞ったままだが、いい心地というのはやはりしないもので、何ともやり切れない想いを抱えて彼らを送り出した。
そして長らく時間が過ぎ、魏への侵攻、所謂北伐を行うこととなった。
久々の戦いに心が躍る。夢主は鍛錬をしながら隠し切れずに笑みを零した。彼女の強さは比類なきことだが、このように戦いに楽しみを感じるあたり普通ではないことがよくわかる。どこかいかれた殺人鬼、そんな風にも受け止められるがこの時代において武を持つものは正義とされる、故に彼女を気味悪がるものなんていなかった。
とはいえ気を張らねばいつでも死が降りかかる場所。油断はできない。
そして約束を守るため、この戦、無事に帰らねばならないのだ。
「夢主!」
甲高い声で夢主の名を呼ぶ人。振り返ると走りながら手を振る関銀屏がこちらに向かって来ているのが確認できた。
「銀屏。どうしたんだそんな血相変えて」
「夢主が戦に行くって聞いて…心配で」
銀屏とはここに来てからよく世話をしてもらいとくに仲がよかった。時として過保護なときもあったが、夢主の不安な心を癒してくれたのは他ならぬ銀屏で。夢主も銀屏には大いに信頼を寄せていた。ただその並々ならぬ怪力によって手痛い目にあったことも何度もあるが、それもこれも良い思い出である。
「心配するほどのことじゃないさ、いつも通りすぐに帰ってくるよ」
「本当…?絶対だよ、絶対無事に帰ってきてね」
「はいはい…たくっおまえは心配性だなぁ」
頭を撫でると少しほっとしたのか、顔色が良くなった。やはり彼女は笑顔のほうが似合う。不安げな顔をさせたくはないが戦は戦。蜀のため、劉備のため、戦わねばならぬ。
でも帰る場所があり、待っていてくれる人がいるのだと思うと、それほど怖いという感情も浮かんでは来なかった。
「夢主…!」
「うおっ、ちょっ銀屏!」
勢いよく抱きしめられ体中の骨がミシミシと音を立てた。愛情表現というのはよくわかる、しかし銀屏がやるとどうもその度を越えたような気がしてならない。無自覚とは恐ろしいものだ。
「夢主が約束を破らないのはよくわかってる…でもやっぱり心配だよ…大切な人に傷ついてほしくない。私…」
それから言葉は途切れた。何か耐えるような、堪えている様子に夢主は戸惑う。その顔には珍しいほどの涙が。彼女がこんな顔をしているのを見るのは初めてだった。それだけ心配してくれているのか、と思うと自然と銀屏を抱きしめる力も増した。
痛みに紛れないほどの想い。しかし夢主と銀屏ではその想いに大きな差があった。本人の口からはとても言えなかった。まさかこんな感情を抱くなんて、銀屏自体信じられなかったのだ。
「今回は凄く規模が大きい戦いだ…でも趙雲殿や馬超殿もいるんだ。大丈夫、そんな顔しないでくれ」
「…うん…」
傍から見れば恋仲のように見えるのだろう。でも違う。銀屏には隠したくても隠し切れないような愛が募っていた。もし夢主が男であれば…既成事実さえ作ってしまえば彼女は罪悪感から自分を妻にするという選択肢しか選べなくなるだろう。
後ろめたさなどない。夢主の傍にいることができるのであればどんな卑劣なことでもしてみせるだけの覚悟が銀屏にはあった。
「大好きだよ、夢主」
もし離れていくならばその手足を折ってどこにも行けないようにしてしまえばいい。
私はずっと貴方だけを見ているから。