夢主の名前
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珍しく彼は忙しなく動き回っていた。しかしその表情はどこか晴れ晴れとしている。いつもは眉を垂らして困り果てたような顔をしているのに、法正は薄気味悪そうに彼を見た。
「一体何を楽しみにしてらっしゃるのですか」
「えっ…俺、かい?」
貴方以外に居ないでしょうとため息を吐きたくなるのを抑えて法正は徐庶に問いかけた。無意識ならば随分と性質が悪い、だがきっとこいつは無意識でこんな顔をしているんだとわかった。長くはないが徐庶とは仕事柄会う機会が多く、それなりに性格や癖も知りえているつもりだ。だからこそ今日の様子が可笑しいというのも早々に気づいたのだが、その奇妙な様子を法正は初めて目撃するに至った。諸葛亮ならば彼の様子から事の意味が理解できるだろうがさすがに法正はそこまで知り得ることはできなかった。
「そんな態度に出ていたかな」
「えぇ、まるで恋をする女子のような顔をしてましたよ。気味が悪いことこの上なかった」
皮肉めいたように法正が言葉を放つが徐庶は気にも止めぬといった様であった。いっそ不気味だと法正は思ったが口に出すのも面倒と鼻で笑うような笑いを浴びせた。それでもなお有頂天な彼の姿に心底苛立ちを感じていたが仕事がいつもより迅速に進んでいるため何とも言えなかった。
「すみません、徐庶殿はいらっしゃいますか?」
男二人の声とは別の声が室内に響いた。ひょこりと扉から顔を出してこちらを見ていた人物は夢主であった。法正は彼女とは決して仲が良いわけではなかったからしかめっ面を解くこともなく睨みつけるように彼女に目を向けた。
しかしもう一人の男は違った。
「あぁ夢主殿!態々来てくれたのか…!」
子どものように目を輝かせて夢主の元へ走り出した。今まで見たことのないアホ面に法正は眉間に皺を寄せて更に不愉快そうにした。何だあの間抜け面は…しかもその相手があの小娘とは。気味悪げに二人を見ていると夢主は法正に気づいたのか軽く会釈をした。
「えっと、もしかして取り込み中でしたか…?」
「そんなことないよ。あ、少し待っててくれるかい?もうすぐ仕事が終わりそうだから」
「はい。すみません、いきなり押しかけて…」
「気にしないでくれ。それに俺が遅いから来てくれたんだろう。嬉しいよ」
パタパタとせわしなく動きながらも徐庶は笑顔であった。法正はのそのそと夢主に近づき声をかける。
「一体徐庶殿と何をしているのですか」
「え、あぁ…字を教わっているんですよ。私はこの世界の字の読み方がわからないので。読み書きができないと何かと不便でしょうし」
なるほどと納得するもあの喜びようはただ事ではない。
法正は勘ぐるように夢主に問いかける。
「どういう仲で?徐庶殿は随分と貴方のことを待ちわびていたようですが」
「仲…?友人、というか師ですかね。深い仲ではありませんよ。」
「ほぉ…」
残念ながらあの男のぬか喜びであっただけのようだ。勘の良い男は一方的な好意に気づいた。可哀想な男にくつくつと喉を鳴らして法正は笑う。
「さて…仕事は終わったし…それじゃ法正殿、俺はこれで上がらせてもらうよ」
スタスタと歩き出すと夢主の背を無理やり押しながら徐庶は部屋を出た。そんな姿を不快そうに見つめ法正は小さくため息をつく。今後もあんな光景を見させられることになりそうだと。
「法正殿ってそこまで悪い人ではなさそうですね」
「あぁ、皮肉めいたことを言ったりはするがいい人だ。最初は正直近寄りがたいと思っていたけれど、根はそこまで悪い人じゃない」
「徐庶殿のお墨付きならば不安はありませんね」
明るげに談笑をする姿は微笑ましい。晴天の空には雲ひとつなく日が照っている。僅かなれど穏やかな時間がある、この一時はいつまでもと願いたくなるもので、徐庶は切なげに空を見上げた。
「徐庶殿…?どうかなされたのですか…?」
「あ、いや…こうやって夢主殿といられて幸せだなと」
「へ…」
「すっ、すまない!その」
「徐庶殿は本当に不思議な方だな…私もとても幸せですよ。こんな平穏が長らく続く世を、我々が作っていかねばなりませんね」
徐庶はボンッと顔を赤らめ一人悶々とした。ついポロリと本音が出たまではいい、しかし夢主の返答が頭から離れなかった。自分も幸せだと、彼女はそう言った。その後の言葉など一切頭に入ってこなかった。彼女は自分といることが幸せだとそう思っている。その現実がたまらないほど感激で、甘美で、徐庶の心を射抜くには十分であった。
「お、俺は…君にとっては必要な人かい?」
「…?えぇ、もちろんです」
この感情に名をつけるならばなんと言えばよいか、愛、恋、依存、執着。言葉は湧き出ても結論には辿り着くことはない。ただ一つ、徐庶にとって夢主という存在は大きく無くてはならないものへと変化していることは確かであった。
「夢主殿、その…これからも俺と…一緒にいてくれるかい…?」
「ははっ、こちらからお願いしたいぐらいですよ。貴方がいてくれると私も色々と助かりますし…これからも仲良くしてやってくださいね」
「…!あぁ、俺なんかでよければ…」
勝手な勘違いに心浮かす男を嘲笑うかのように烏が鳴いて羽ばたくものの二人の顔には一つの淀みもなく、まして徐庶の顔には世界で一番の幸せ者だと言わんばかりの幸福が満ち溢れていた。
「一体何を楽しみにしてらっしゃるのですか」
「えっ…俺、かい?」
貴方以外に居ないでしょうとため息を吐きたくなるのを抑えて法正は徐庶に問いかけた。無意識ならば随分と性質が悪い、だがきっとこいつは無意識でこんな顔をしているんだとわかった。長くはないが徐庶とは仕事柄会う機会が多く、それなりに性格や癖も知りえているつもりだ。だからこそ今日の様子が可笑しいというのも早々に気づいたのだが、その奇妙な様子を法正は初めて目撃するに至った。諸葛亮ならば彼の様子から事の意味が理解できるだろうがさすがに法正はそこまで知り得ることはできなかった。
「そんな態度に出ていたかな」
「えぇ、まるで恋をする女子のような顔をしてましたよ。気味が悪いことこの上なかった」
皮肉めいたように法正が言葉を放つが徐庶は気にも止めぬといった様であった。いっそ不気味だと法正は思ったが口に出すのも面倒と鼻で笑うような笑いを浴びせた。それでもなお有頂天な彼の姿に心底苛立ちを感じていたが仕事がいつもより迅速に進んでいるため何とも言えなかった。
「すみません、徐庶殿はいらっしゃいますか?」
男二人の声とは別の声が室内に響いた。ひょこりと扉から顔を出してこちらを見ていた人物は夢主であった。法正は彼女とは決して仲が良いわけではなかったからしかめっ面を解くこともなく睨みつけるように彼女に目を向けた。
しかしもう一人の男は違った。
「あぁ夢主殿!態々来てくれたのか…!」
子どものように目を輝かせて夢主の元へ走り出した。今まで見たことのないアホ面に法正は眉間に皺を寄せて更に不愉快そうにした。何だあの間抜け面は…しかもその相手があの小娘とは。気味悪げに二人を見ていると夢主は法正に気づいたのか軽く会釈をした。
「えっと、もしかして取り込み中でしたか…?」
「そんなことないよ。あ、少し待っててくれるかい?もうすぐ仕事が終わりそうだから」
「はい。すみません、いきなり押しかけて…」
「気にしないでくれ。それに俺が遅いから来てくれたんだろう。嬉しいよ」
パタパタとせわしなく動きながらも徐庶は笑顔であった。法正はのそのそと夢主に近づき声をかける。
「一体徐庶殿と何をしているのですか」
「え、あぁ…字を教わっているんですよ。私はこの世界の字の読み方がわからないので。読み書きができないと何かと不便でしょうし」
なるほどと納得するもあの喜びようはただ事ではない。
法正は勘ぐるように夢主に問いかける。
「どういう仲で?徐庶殿は随分と貴方のことを待ちわびていたようですが」
「仲…?友人、というか師ですかね。深い仲ではありませんよ。」
「ほぉ…」
残念ながらあの男のぬか喜びであっただけのようだ。勘の良い男は一方的な好意に気づいた。可哀想な男にくつくつと喉を鳴らして法正は笑う。
「さて…仕事は終わったし…それじゃ法正殿、俺はこれで上がらせてもらうよ」
スタスタと歩き出すと夢主の背を無理やり押しながら徐庶は部屋を出た。そんな姿を不快そうに見つめ法正は小さくため息をつく。今後もあんな光景を見させられることになりそうだと。
「法正殿ってそこまで悪い人ではなさそうですね」
「あぁ、皮肉めいたことを言ったりはするがいい人だ。最初は正直近寄りがたいと思っていたけれど、根はそこまで悪い人じゃない」
「徐庶殿のお墨付きならば不安はありませんね」
明るげに談笑をする姿は微笑ましい。晴天の空には雲ひとつなく日が照っている。僅かなれど穏やかな時間がある、この一時はいつまでもと願いたくなるもので、徐庶は切なげに空を見上げた。
「徐庶殿…?どうかなされたのですか…?」
「あ、いや…こうやって夢主殿といられて幸せだなと」
「へ…」
「すっ、すまない!その」
「徐庶殿は本当に不思議な方だな…私もとても幸せですよ。こんな平穏が長らく続く世を、我々が作っていかねばなりませんね」
徐庶はボンッと顔を赤らめ一人悶々とした。ついポロリと本音が出たまではいい、しかし夢主の返答が頭から離れなかった。自分も幸せだと、彼女はそう言った。その後の言葉など一切頭に入ってこなかった。彼女は自分といることが幸せだとそう思っている。その現実がたまらないほど感激で、甘美で、徐庶の心を射抜くには十分であった。
「お、俺は…君にとっては必要な人かい?」
「…?えぇ、もちろんです」
この感情に名をつけるならばなんと言えばよいか、愛、恋、依存、執着。言葉は湧き出ても結論には辿り着くことはない。ただ一つ、徐庶にとって夢主という存在は大きく無くてはならないものへと変化していることは確かであった。
「夢主殿、その…これからも俺と…一緒にいてくれるかい…?」
「ははっ、こちらからお願いしたいぐらいですよ。貴方がいてくれると私も色々と助かりますし…これからも仲良くしてやってくださいね」
「…!あぁ、俺なんかでよければ…」
勝手な勘違いに心浮かす男を嘲笑うかのように烏が鳴いて羽ばたくものの二人の顔には一つの淀みもなく、まして徐庶の顔には世界で一番の幸せ者だと言わんばかりの幸福が満ち溢れていた。
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