夢主の名前
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自身のイメージでは劉禅という男はどちらかといえば凡愚であり、人の上に立つに相応しい王でないと思っていた。
親が親ならば子は子、とはいかない。もちろん彼一人の責任ではなく宦官や臣下らにも責任はあるであろうが、やはりそこに素質がなかった故滅んでしまったことは否定できない。
そんなことを思っていた矢先、なんと夢主の前に劉禅が現れたのだ。彼は夢主に興味を抱いたらしく話がしたいと幾度も諸葛亮に頼んでいたらしい。それが叶いようやっと夢主に対面することを許されたのである。
夢主には劉禅の意図がまったく読めなかった。何故そこまで接触したがるのか。異国の人間だからだろうか?しかし彼はそんな好奇心旺盛であったのか。
一度も会ったことない人間の考察などできない。ただ会いたいとは夢主自身も思っていた。だからこの機会を生かし彼の意思を知れたら…一人の傍観者としての好奇心に胸を弾ませた。歴史の中に在るということがこれほどに愉しいとは…夢主にとっても劉禅にとっても得がたい経験になるのは明確であった。
長い道を経て劉禅の目の前に座した。想像していたよりも温厚そうな人ではあったが、どこか根に闇を抱え込んでいるようにも見えた。劉備の子であるという風には正直見えなかったが、人の愛される体質というのは類似していたのかもしれない。星彩や姜維の口から時々彼の名を聞いていたが、敬愛れているように思えた。
「お初にお目にかかります。私、夢主と申します。この度はこのような機会を頂き心から感謝申し上げます」
「そのように固くならないでほしい。私はあなたのまことの姿を見たいと思ってここに呼んだのだ」
夢主には一瞬彼が何を言っているのか理解できなかった。まことの姿とは今曝け出しているそれではないのだろうか。夢主は決して虚偽を装い彼と対談しているつもりはなかった。だから彼の言う真の意味が何を指すか、少し考えてた。
「そのまことの姿とは…もしや未来にいた私のことを指すのでしょうか?」
「その通りだ。私はこの世とはまったく異なる世から来たあなたの姿を見たいのだ」
三國の世に下りて彼女は本質は変わらぬものの武人として目覚め平穏の時に生きてきた自身が薄まっていたのは確かである。劉禅が知りたいものは平成という時を生きてきた他ならぬ夢主ならばそれを言葉にして説明するのは如何なものか。それが歴史の壁外となってしまうなどなければよいが…。
「…私の生きた世界はあまりに窮屈で困窮の世でした。技術や知識は幅広くなろうとも人の心はそう簡単に満ちることもなく…私も飢えておりました」
「たとえ時が経とうとも人はそう変わらないということなのか」
「はい。根本はどこにいようとも変わりませぬ。ただ…この戦乱よりも、私にはその世が狭く感じておりました」
劉禅は随分と真剣な顔をしていた。察したかのように顔色を変える彼は本当は利口で聡明な人なのかもしれないと夢主は感じた。そして彼はどこか夢主の居た世界に憧れているようにも見えた。
「劉禅様。私もお尋ねしたいことがあります」
「私でよければ答えよう」
「劉禅様はここにいることを本心から望まれておりますか?」
夢主の言葉に少し目を大きく開くと劉禅は小さく笑った。すくっと立ち上がり彼は窓際に立つと庭園を見下ろしながら寂しそうに何かを見つめていた。夢主はただの背を見て答えを待った。気を損ねたとしても構わない、ただこの世に、劉備の子として生きている彼の心に触れてみたいのだ。
「夢主殿はこの三國の全ての結末を知っているのだろう」
「…はい」
「ならばあなたは私の心はすでに知っているはずだと思うぞ」
それ以上語ろうとはしなかった。けれどその言葉で夢主は十分満足していた。そして同様に劉禅もそれ以上彼女の心を知ろうとはしなかった。ほんの僅かな言葉しか交えていないが、二人の間にはすでに絆があった。この人は信頼に足りる人物だと、直感的に思えたのだ。
「夢主殿。私から頼みたいことがあるのだが」
「なんでしょうか?」
「私の、友になって欲しい」
劉禅は、初めて自分と同じ場所に立つ人を見つけたと胸を躍らせた。生まれた場所も時も違えど見たいと願うものは同じなのだ。きっと彼女とならば、それが見える。確信が持てた。
「私なんぞでよろしければ」
この先この人に尽くすことが多々あると思うが、何一つ悔いはないと思えるだろう。
大切な友のためなのだから。